← Library‹ 灰色の巨人 黒い曲芸師

コンクリート大仏だいぶつの体内たいないの、広ひろい部屋へやには、まっかなガウンをきて、大だい僧正そうじょうのような姿すがたをした、白しらヒゲの首領しゅりょうが、りっぱないすにもたれて、洋酒ようしゅをのんでいました。前まえのテーブルには、めずらしい西洋せいようのお酒さけのびんが、いくつもならべてあります。首領しゅりょうはそれを、つぎつぎと、グラスについで、さもうまそうに、ちびりちびりと、やっているのです。

首領しゅりょうは、グラスを口くちへ持もっていこうとして、思おもわず、その手てをとめました。なにかへんなもの音おとが、聞きこえたからです。

その音おとは、部屋へやのすみに開ひらいている、地下ちか道どうの入いり口ぐちからのように思おもわれたので、首領しゅりょうはぎょっとしてその方ほうをふりむきました。すると、そこに、見みもしらぬ道路どうろ人夫にんぷのような男おとこが六ろく人にん、だまって、つっ立たっていたではありませんか。

「だれだっ。きみたちは、いったい、なにものだっ。」

首領しゅりょうは立たちあがって、身みがまえながら、どなりつけました。

「警視けいし庁ちょうのものだ。きみをむかえにきたのだ。」

中村なかむら警部けいぶが、どなりかえすと、五ご人にんの刑事けいじは、すばやく、賊ぞくの首領しゅりょうのまわりを、とりかこみました。

「警視けいし庁ちょうから、おむかえか。ははは……、そいつは、光栄こうえいのいたりだね。だが、おれになんのつみがあるというんだ。」

白しらヒゲの首領しゅりょうは、おちつきはらっています。宝石ほうせきをちりばめた、まっかなガウンが、キラキラ光ひかって、なんだか、近ちかよりがたいような、りっぱなすがたです。

「灰色はいいろの巨人きょじんのいみが、わかったのだ。それをわれわれは、人間にんげんのあだなだとばかり思おもっていたが、そうではなかった。きさまたち、わるものの、すみかの名なだった。このコンクリートの大仏だいぶつは、たしかに灰色はいいろの巨人きょじんにちがいない。こんなへんなところに、すんでいるだけでも、きさまは、警察けいさつにひっぱられるねうちがある。まして、いま、世間せけんをさわがせている宝石ほうせきどろぼうと、わかっているのだから、もう、のがれることはできないぞ。見みろ、この部屋へやのガラスのケースの中なかの宝石ほうせきは、みんな、きさまが、ぬすみ出だしたものばかりじゃないか。おとなしく手錠てじょうをうけろっ。」

中村なかむら警部けいぶの目めくばせで、ひとりの刑事けいじが、つかつかと前まえにすすみ、首領しゅりょうに手錠てじょうをはめようとしました。

「待まってくれ。こうなったら、おれは、もうひきょうなまねはしない。だが、ちょっということがある。この二に階かいに子こどもがひとり、かくしてあるんだ。おれや部下ぶかがひっぱられると、その子こどもが、うえ死じにする。こどもを助たすけ出だすあいだ、待まってくれ。」

首領しゅりょうはみょうなことをいいだしました。

「うそつけ。子こどもは、きのう、にじの宝冠ほうかんとひきかえに、園井そのいさんに返かえしたじゃないか。」

「いや、園井そのい正一しょういちじゃない。じつは、もうひとり子こどもを、ぬすみだしたんだ。その子こどもが、秘密ひみつの部屋へやにかくしてある。外そとからかぎがかけてあるから、おれたちがいなくなれば、子こどもはうえ死じにしてしまうのだ。」

「その秘密ひみつの部屋へやは、どこにあるのだ。」

「二に階かいのてんじょうの上うえだ。そこは、おれでなければ、ひらけないのだ。ひらきかたに秘密ひみつがあるんだ。だから、きみたちは、おれについてきて、見みはっていればいいだろう。けっして逃にげやしない。逃にげようにも地下ちか道どうのほかには、逃にげ道みちがないじゃないか。」

「よし、それじゃ、二に階かいへいくがいい。ぼくたちが、厳重げんじゅうにかんしする。」

中村なかむら警部けいぶはそこで、刑事けいじたちに、さしずをしました。

「こちらはぼくと、もうひとりでいい。あとの四よん人にんは、そのへんにかくれている手下てしたのやつらを、ひっくくってくれたまえ。」

四よん人にんの刑事けいじは、ばらばらと四方しほうにわかれて、家やさがしをはじめました。首領しゅりょうがつかまったのですから部下ぶかたちは、てむかいするものもありません。二に階かいと下したとにかくれていた四よん人にんの賊ぞくが、たちまち、つかまってしまいました。

中村なかむら警部けいぶと、ひとりの刑事けいじとは、白しらヒゲの首領しゅりょうといっしょに二に階かいにあがりました。そこは、ふつうの二に階かいではありません。コンクリート大仏だいぶつの内部ないぶに、板いたをはり、鉄てつの階段かいだんをつけて、上うえと下したの二ふたつにわけただけで、二に階かいの部屋へやは、てんじょうが見みあげるほど高たかく、上うえの方ほうはうす暗ぐらくて、はっきり見みえません。それに、大仏だいぶつの首くびから上うえの内うちがわは、ぐっとせまくなって、ほら穴あなのような感かんじです。

「秘密ひみつの部屋へやは、どこにあるんだ。」

警部けいぶが聞ききますと、首領しゅりょうは、そこの鉄てつばしごを指ゆびさしました。それはコンクリートの壁かべにそって、まっすぐに、とりつけてある細ほそいはしごで、大仏だいぶつの肩かたと首くびのさかいめのへんまで、ズーッとつづいているのです。

「ここからは見みえないが、あのはしごの上うえに秘密ひみつのドアがある。それは、おれでなければ、ひらくことができないのだ。きみたちは、このはしごの下もとで待まっていてくれ。すぐに、おれが子こどもをつれて、おりてくるから。」

首領しゅりょうはそういって、いきなり、はしごをのぼりはじめました。しらがのじいさんとは思おもえない、すばやさです。ちゅうとまでのぼると、足あしにまきつくガウンを、パッとぬぎすてました。するとガウンは、まっかな大おおきな鳥とりのように、ふわりと宙ちゅうにういて、警部けいぶたちの前まえに落おちてきました。

首領しゅりょうは、ガウンの下したに、ぴったり身みについた黒くろビロードのシャツと、ズボンをきていました。まるでサーカスの曲芸きょくげい師しのような、かっこうです。それが、サルのように身みがるに、まっすぐのはしごをのぼっていくようすは、とても老人ろうじんとは思おもわれません。

はしごの下したにいた刑事けいじは、それを見みて、なんだか心配しんぱいになってきました。

「あんな高たかいところに、秘密ひみつの部屋へやがあるなんて、うそじゃないでしょうか。あいつ、はしごをのぼってどこかへ逃にげるつもりじゃないでしょうか。」

刑事けいじは中村なかむら警部けいぶに、ささやきました。

「うん、そうかもしれない。なんだか、ようすが、おかしい。ぼくらも、のぼってみよう。」

警部けいぶは、そう答こたえたかとおもうと、すばやく、はしごにとびついていきました。そして、賊ぞくのあとを追おって、スルスルと、のぼりはじめたのです。刑事けいじも、すぐ、そのあとにつづきました。

なかほどまでのぼって、上うえを見みますと、はしごの頂上ちょうじょうに、なにか黒くろい穴あなのようなものが見みえました。電灯でんとうが暗くらいので、はしごの下したからは、よく見みえなかったのです。

賊ぞくの、首領しゅりょうは、その穴あなにむかって、まっしぐらに、のぼっていきます。

「待まてっ。きさま、逃にげるつもりだな。とまれっ、とまらぬと、うつぞっ。」

警部けいぶがピストルを出だして、つつ口ぐちを、上うえにむけて、さけびました。

そこまでのぼると、はしごの頂上ちょうじょうに、さしわたし六十ろくじゅうセンチほどの、丸まるい穴あながあいていることが、よくわかったからです。首領しゅりょうはその穴あなから、大仏だいぶつの外そとがわへ、逃にげだそうとしているのです。

警部けいぶがさけんでも、首領しゅりょうは、そしらぬ顔かおで、ますます、速度そくどを早はやめてのぼっていきます。そして、とうとう、頂上ちょうじょうまでのぼりつき、穴あなのふちに手てをかけました。

「待まてっ。」

さけぶとどうじに、警部けいぶはピストルを発射はっしゃしました。しかし、ころすつもりはないので、わざと、まとをはずしたのです。

曲芸きょくげい師しのような、まっ黒くろな賊ぞくの姿すがたが、コンクリートの穴あなの外そとへ、パッと、とびだしていきました。

その穴あなは、大仏だいぶつの首くびのへんにあるのですから、地上ちじょう数十すうじゅうメートルの高たかさです。もし、そこから、とびおりたとすれば、賊ぞくのいのちはありません。

かれは、はたして、とびおりたのでしょうか。それとも……。

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