← Library‹ 灰色の巨人 怪少女

それからまた十とお日かほどは、なにごともなく、すぎさりました。「灰色はいいろの巨人きょじん」の手下てしたは、モーターボートでにげさったまま、ゆくえがわかりません。「灰色はいいろの巨人きょじん」という首領しゅりょうが、どんなやつだか、どこにいるのか、少すこしもわからないまま、日ひがたっていったのです。

ところが、ある夜よるのこと、銀座ぎんざの有名ゆうめいな宝石ほうせき商しょうの大賞堂たいしょうどうに、ふしぎな事件じけんがおこりました。

夜よるの七なな時じ、銀座ぎんざ通とおりはネオンにかがやき、なみのような人通ひとどおりに、わきかえっていました。大賞たいしょう堂どうの店みせにも、おおぜいの客きゃくがあり、店員てんいんはいそがしく立たちはたらいていました。

そこへ、ひとりのりっぱな洋装ようそうの若わかい女おんなの人ひとが、はいってきました。そのあとから、かわいらしい少女しょうじょがついてくるのです。親子おやこではありません。たぶん少女しょうじょは若わかい女おんなの人ひとの妹いもうとなのでしょう。

女おんなの人ひとは、ガラスばりの売うり場ばの前まえに立たって、店員てんいんに真珠しんじゅの首くびかざりを見みせてくれとたのみました。

店員てんいんは、女おんなの人ひとが、ひじょうにりっぱな服ふくをきているので、だいじなお客きゃくさまと見みて、ていねいにあつかい、いちばん高価こうかな首くびかざりのケースを、いくつも、ガラス台だいの上うえにならべてみせました。

女おんなの人ひとは、そのケースを、一ひとつ一ひとつ、ひらいて見みていましたが、ちょうどそのとき、店みせの外そとで、「ワーッ。」という叫さけび声ごえがしたかとおもうと、にわかに、そのへんがさわがしくなり、大賞たいしょう堂どうのショーウィンドーの前まえは、みるみる黒山くろやまの人ひとだかりになりました。

店員てんいんがとび出だしていってみますと、ひとりの青年せいねんが、そこにたおれていて、それをとりまいて、人ひとだかりがしているのでした。

「どうしたんだ。しっかりしたまえ。」

ひとりの紳士しんしが、たおれた青年せいねんをだきおこして耳みみのそばで、どなりますと、青年せいねんは、ふさいでいた目めをひらいて、キョロキョロ、あたりを見みまわし、はずかしそうな顔かおで、

「だれかが、パッとぶっつかったひょうしに、目めまいがして、たおれたのです。もういいんです。すみません。」

とつぶやいて、よろよろと立たちあがり、まわりの人ひとたちをかきわけるようにして、どこかへたちさってしまいました。

大賞たいしょう堂どうの客きゃくたちも店員てんいんたちも、そのさわぎに、みんな入口いりぐちへ出でていましたが、青年せいねんがたちさるのを見みて、売うり場ばに帰かえりました。

さっきの若わかい女おんなの人ひとも、もとの売うり場ばにもどって、また首くびかざりを見みはじめましたが、しばらくすると、気きにいった品しながないらしく、またくるからといって、そのまま店みせを出でていこうとしました。

そのとき、店員てんいんは、ガラス台だいの上うえに出だしてあった首くびかざりのケースを、一ひとつ一ひとつあらためていましたが、ふと、びっくりした顔かおになって、大おおきな声こえで、

「もしもし、あなた、ちょっとお待まちなすって!」

と、いま店みせを出でようとしている女おんなの人ひとをよびとめました。

「あたし? あたしにご用ようなの?」

女おんなの人ひとは、けげんな顔かおで、売うり場ばにもどってきました。

「えへへへ……、どうもすみません。このケースの中なかの首くびかざりが、なくなっておりますが、もしや、なにかのおまちがいで……。」

店員てんいんは、にやにや笑わらいながら、いいにくそうにいうのでした。

「あら、あたしが、持もっているとでもおっしゃるの? へんなこといわないでよ。まだ、まんびきするほど、おちぶれちゃいないわ。なんなら、からだをしらべてください。さあ、おくへいきましょう。そして、女おんなの店員てんいんに、からだをしらべてもらいましょう。」

たいへんなけんまくです。店員てんいんは、青あおくなって、なにか口くちの中なかで、もぐもぐいっています。

そのとき、そばにいたべつの店員てんいんが、女おんなの人ひとのかかりの店員てんいんの耳みみに口くちをよせて、なにか、ささやきました。

「あ、そうだ、あの女おんなの子こがいない。お客きゃくさまが、おつれになったおじょうさんが見みえませんが、どこへいらしったのでしょうか。」

女おんなの人ひとは、それをきくと、びっくりしたように、

「え、おじょうさんですって。あたし、女おんなの子こなんかつれていませんわ。ひとりできたのよ。」

「でも、さっきまで、おそばに、かわいいおじょうさんが、いらっしゃいましたが……。」

「ああ、そんな子こが、いたようですね。でも、あれは、あたしがつれてきたのじゃない。まったく知しらない子こですよ。」

それをきくと、店員てんいんたちは、にわかにさわぎだしました。そして、二に―三さん人にんの店員てんいんが、あわてて表ひょうへとび出だしていきましたが、少女しょうじょのすがたは、もうどこにも見みえません。

「ちくしょう、やられた。あんなかわいい顔かおをして、あいつ、まんびき少女しょうじょだったんだな。お客きゃくさまのおつれのようなふうをして、はいってきたので、まんまといっぱいくわされてしまった。……えへへへ、まことに、あいすみません。とんだいいがかりをもうしまして、どうかごかんべんねがいます。」

店員てんいんは、しきりにおじぎをして、おわびをするのでした。

「そう? うたがいが、はれればいいわ。じゃ、あたしは、こういうものですからね。なにか用事ようじがあったら、いつでもたずねてきてください。」

女おんなの人ひとは、そういって、店員てんいんに名刺めいしをわたすと、そのまま、たちさってしまいました。

そのあとで、店員てんいんたちは、からっぽになった首くびかざりのケースを取とりかこんで、ガヤガヤ、いっています。

「おい、このケースの中なかに、へんな紙かみきれがはいっているぜ。おや、なんだかえんぴつで書かいてある。」

「まんびき少女しょうじょが、手紙てがみをのこしていったのかな。」

みんなでひろげて読よんでみますと、そこには、つぎのようなおそろしい文句もんくがしるしてありました。

首くびかざりを一ひとつ、ちょうだいしたが、じつはこんなものが、もくてきではない。きみの店みせの宝石ほうせきを、ぜんぶちょうだいしたいのだ。一いち週間しゅうかんのうちに、かならず、店みせのしなものを、ねこそぎもらいにくる。用心ようじんしたまえ、おれは魔法まほうつかいだからね。

灰色はいいろの巨人きょじん

さっきのあやしい少女しょうじょは、灰色はいいろの巨人きょじんの手下てしただったのです。表ひょうで、さわぎをおこした青年せいねんも、やっぱり手下てしたのひとりだったかもしれません。そのさわぎにまぎれて、少女しょうじょは首くびかざりをぬきとり、手紙てがみをのこして逃にげさったのです。

ああ、灰色はいいろの巨人きょじん! いったいそれはなにものでしょうか。そして、これから、どんなおそろしいことを、はじめるのでしょうか。

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