← Library‹ 海底の魔術師 明智探偵きたる

午後ごご五ご時じといえば、もう一いち時間じかんあまりのちです。みんなは、そのまま甲板かんぱんに立たちつくして、明智あけちの乗のっている船ふねが来くるのを待まっていました。

「有力ゆうりょくな武器ぶきって、いったいなんだろうね。いくら名めい探偵たんていでも、敵てきが魚形ぎょけい潜航せんこう艇ていをもっているとは知しらなかっただろうから、あれに勝かてるような武器ぶきをもってくるかどうか、心配しんぱいだね。」

船長せんちょうは技師ぎしにむかって、そんなことを、ささやいていました。無電むでんで問といあわせても、武器ぶきのことはなにもこたえないのです。

こちらでは小林こばやし少年しょうねんと賢吉けんきち少年しょうねんが、明あかるい顔かおで話はなしあっていました。

「小林こばやしさん、さすがは明智あけち先生せんせいだねえ。きのう、この船ふねから、きみがうった無電むでんで、鉄てつの人魚にんぎょがついてきたことを知しって、先生せんせいはすぐに大阪おおさかへこられたんだね。きっと飛行ひこう機きだよ。そしてけさはやく、大阪おおさか港こうを出発しゅっぱつされたんだね。それにしても、有力ゆうりょくな武器ぶきって、なんだろう?」

「ぼくもしらないよ。先生せんせいはいつも、ぼくたちよりも、ずっとさきのことを考かんがえていらっしゃる。だから、この事件じけんをひきうけられたときに、ちゃんと武器ぶきの用意よういができていたのかもしれないよ。もうだいじょうぶだ。先生せんせいがきてくだされば、もうしめたもんだよ。」

小林こばやし君くんは、うれしそうに、にこにこしていうのでした。

やがて、はるか水平すいへい線せんのかなたに、ひとすじの煙けむりが見みえ、双眼そうがん鏡きょうをのぞくと、そこに白しろい汽船きせんの小ちいさな姿すがたがあらわれました。商船しょうせん会社かいしゃのカモメ丸まるという快速かいそく船せんです。それは潮しおノ岬みさきを通とおる定期ていき客船きゃくせんですが、ひじょうに速力そくりょくのはやい船ふねなので、明智あけちはそれに乗のってくるということが、無電むでんでわかっていたのです。

船体せんたいをまっ白しろにぬったカモメ丸まるは、見みる見みる大おおきくなってきました。ハヤブサ丸まるの甲板かんぱんの人ひとたちはハンカチをふり、ばんざいをとなえて、これをむかえました。

美うつくしいカモメ丸まるは、五十ごじゅうメートルほど、むこうの海面かいめんにとまり、ボートがおろされています。むこうの甲板かんぱんにも、船客せんきゃくたちがすずなりになって、こちらを見みています。きっと金塊きんかい引ひきあげのうわさをきいていたのでしょう。

おろされたボートは、四よん人にんの水夫すいふがオールをこいで、一いち直線ちょくせんにこちらへ近ちかづいてきました。ばんざいの声こえが、ハヤブサ丸まるの甲板かんぱんにどよめきました。

ボートの中なかに、すっくと立たっているのは、われらの名めい探偵たんてい明智あけち小五郎こごろうでした。せいの高たかいからだに、よくにあう黒くろの背広せびろ、モジャモジャ頭あたまを、風かぜになびかせ、右手みぎてを高たかくあげて、あいさつしています。

「おやっ、あれはなんだろう。海うみぼうずみたいなものが、やってきたぞ。」

だれかが、どなりました。見みると、カモメ丸まるの船尾せんびの方ほうから、黒くろい大おおきな怪物かいぶつが、ボートのあとをおって、こちらへやってくるではありませんか。背中せなかに大おおきなコブのある、クジラのような黒くろいやつです。よく見みると、背中せなかのコブの上うえに、ほそい鉄てつの棒ぼうのようなものが立たっています。小林こばやし君くんがさけびました。

「賢けんちゃん、あれペリスコープだよ。潜航せんこう艇ていの中なかから海うみの上うえを見みる潜望せんぼう鏡きょうだよ。だから、あれは潜航せんこう艇ていなんだ。ワーッ、すてき。ぼくたちの潜航せんこう艇ていがきたんだよ。」

「ほんとだ。もうだいじょうぶだね。あれで、敵てきの魚形ぎょけい潜航せんこう艇ていをやっつけちゃうんだ。ねえ小林こばやしさん、明智あけち先生せんせいはえらいねえ。」

ふたりの少年しょうねんは、おどりあがって、よろこぶのでした。甲板かんぱんの人ひとたちも、みかたの潜航せんこう艇ていがきたというので、大おおさわぎです。またしてもばんざい、ばんざいの声こえが、わきあがりました。

やがてボートはハヤブサ丸まるに横よこづけになり、明智あけちは鉄てつばしごをのぼって、甲板かんぱんに姿すがたをあらわしました。そして、すがりついていく小林こばやし君くんの肩かたをだきながら、賢吉けんきち君くんのおとうさんと船長せんちょうと技師ぎしとに、あいさつし、おたがいの報告ほうこくをとりかわすのでした。おおぜいの船員せんいんたちが、そのまわりをぐるっととりまいて、名めい探偵たんていの姿すがたに見みいっています。

「そうでしたか。敵てきも潜航せんこう艇ていをもっていたのですか。ぼくはそこまでは考かんがえなかったけれども、鉄てつの人魚にんぎょをやっつけるのには、潜航せんこう艇ていがなくてはだめだと思おもったので、さいしょからその用意よういをしていたのです。いま日本にっぽんには、むかし海軍かいぐんがつかったような潜航せんこう艇ていはないけれども、民間みんかんでつくった海底かいてい遊覧ゆうらん用ようの小型こがた潜航せんこう艇ていが、東洋とうよう汽船きせん会社かいしゃに保管ほかんされていることを知しったので、それに手入ていれをして、いつでも動うごくように、用意よういさせておいたのです。そういう潜航せんこう艇ていですから、水雷すいらいを発射はっしゃすることはできませんが、かたちは海軍かいぐんの潜航せんこう艇ていをそのまま小ちいさくしたようなものです。敵てきをおどかすのにはじゅうぶんです。

その潜航せんこう艇ていは神戸こうべから大阪おおさか湾わんにまわしてあったので、それをカモメ丸まるにひかせて、ここまでもってきたのです。」

それから、しばらく相談そうだんしたあとで、明智あけちは、つぎのような案あんをだしました。

「あの潜航せんこう艇ていには、うでのある操縦そうじゅう士しがふたりのっています。やりかたをよくおしえたうえ、あれを大洋たいよう丸まるのそばへ沈しずめるのです。そして、敵てきの魚形ぎょけい潜航せんこう艇ていを、遠とおくの方ほうへ、おびきだします。三十さんじゅう分ふんぐらいはかならず、大洋たいよう丸まるから遠とおざけておきます。われわれの潜航せんこう艇ていには無電むでん装置そうちがありますから、刻々こっこくその報告ほうこくをうけることができます。そして、その三十さんじゅう分ふんのあいだに、この船ふねから潜せん水夫すいふがもぐり、大洋たいよう丸まるの中なかをさがして、金塊きんかいのありかを、さがすのです。三十さんじゅう分ふんずつにくぎって、なんどでも、それをくりかえすことができます。」

そこで、ともかく、その方法ほうほうでやってみることになり、操縦そうじゅう士しをよんで、くわしくさしずをしたうえ潜航せんこう艇ていを沈しずめることになりました。いよいよ、明智あけちの潜航せんこう艇ていと敵てきの魚形ぎょけい潜航せんこう艇ていとのたたかいがはじまるのです。

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