← Library‹ 黄金豹 稀代の宝玉

「わたしは、昭和しょうわ信用しんよう金庫きんこの社長しゃちょうをやっているものですが、わたしが、命いのちのつぎにだいじにしているダイヤモンドが、盗ぬすまれそうになっているのです。」

松枝まつえだという紳士しんしは、ないしょ話はなしでもするように、声こえをひそめていいました。

「どうして、盗ぬすまれそうだということが、おわかりになったのです。」

「電話でんわです。あいつから電話でんわが、かかってきたのですよ。」

「あいつとは?」

そのとき、松枝まつえださんは、グッとからだを前まえにのり出だして、いっそう声こえをひくめました。

「黄金おうごん豹ひょうです。あの恐おそろしい魔まものが、きょうの昼ひるごろ、電話でんわをかけてきたのです。そして、いまから二ふた日かのあいだに、おまえのもっているインドの宝石ほうせきを、もらいにいくから、待まっていろというのです。」

黄金おうごん豹ひょうと聞きいて、明智あけち探偵たんていと小林こばやし少年しょうねんは、「さては!」というように、目めを見みあわせました。さきほど、黄金おうごん豹ひょうのほうから近ちかづいてくることがおこるといった、名めい探偵たんていのことばが、早はやくも事実じじつとなってあらわれてきたのです。

「で、そのことを警察けいさつに、おとどけになりましたか?」

明智あけちがたずねますと、松枝まつえださんは、首くびをふって、

「いや、まだとどけておりません。それよりも、まっ先さきに、先生せんせいに相談そうだんしたかったのです。といいますのは、わたしはあの金きんむくの豹ひょうのおきものを、盗ぬすまれかけた園田そのだ君くんと友ともだちでして、あのとき小林こばやし君くんのおかげで、ぶじにすんだことを聞きいていました。

小林こばやし君くんに知恵ちえをおさずけになったのは、むろん明智あけち先生せんせいです。ですから、怪物かいぶつ黄金おうごん豹ひょうをふせいでくださるかたは、先生せんせいのほかにないと思おもって、こちらへ、かけつけたわけです。」

「わかりました。およばずながら、お力ちからになりましょう。しかし、そのインドの宝石ほうせきというのは、いまどこにおいてあるのですか。」

「じつは、ここに持もっているのです。」

松枝まつえださんは、そういって、またあたりを見みまわしてから、チョッキのうちポケットに手てをいれると、小ちいさなかわの宝石ほうせき箱はこを取とりだして、パチンと、ふたを開ひらきました。

箱はこの中なかから、パッと五色しきの虹にじがたちました。

びっくりするほど大おおきな、青あおみがかったダイヤモンドです。

「十じゅうカラットの青あおダイヤです。これにはゆいしょがあります。戦争せんそう後ご、ある外国がいこく人にんから、ゆずりうけたのですが、もとはインドの奥おくのほうにあるお寺てらの本尊ほんぞんのひたいに、はめこんであったもので、それが、いまから一いち世紀せいきもまえに、イギリス人にんの手てにわたり、それから、いろいろな人ひとの手てをへて、戦争せんそう後ご日本にっぽんへやってきたある外国がいこく人にんが、わたしに、ゆずりわたしたものです。

わたしは、宝石ほうせききちがいのような男おとこですから、全ぜん財産ざいさんをなげだして、それを買かいました。

お金かねよりも、宝石ほうせきがだいじです。これをとられたら、わたしはもう、生いきている気きがしないほどです。明智あけち先生せんせい、この宝石ほうせきを、あなたに、あずかっていただきたいのです。そうすれば、黄金おうごん豹ひょうはあなたをねらうかもしれませんが、先生せんせいならばそんなことは、へいきだろうと思おもいまして……。」

それをきくと、明智あけちはニッコリ笑わらいました。

「ぼくをそこまで信用しんようしてくださって、ありがとう。よろこんでおあずかりしますよ。じつは黄金おうごん豹ひょうが近ちかづいてくるのを、待まっていたのですからね。けっして、盗ぬすまれるようなことはしません。ぼくの書斎しょさいには、ふしぎな金庫きんこがそなえつけてあります。ふつうの金庫きんこではありません。いろんなしかけのある、魔法まほうの金庫きんこです。この中なかへ、いれておけば、けっして盗ぬすまれる心配しんぱいはありません。すぐに、そこへいれておきましょう。こちらへ、おいでください。」

明智あけちはそういって、立たちあがると、さきにたって、松枝まつえださんを書斎しょさいへ案内あんないしました。小林こばやし君くんも、あとからついていきます。

そこは、四よんほうの壁かべが、本ほんでぎっしりつまった、りっぱな書斎しょさいでした。その一いちぽうの壁かべに、人間にんげんでもはいれるような大おおきな金庫きんこが、すえつけてありました。

「わたしはお金かねもちではありません。ですから、お金かねをいれる金庫きんこではないのです。ここには、わたしがひきうけた、いろいろな事件じけんの重要じゅうよう書類しょるいがはいっています。みんな、たいせつな秘密ひみつの書類しょるいなので、盗ぬすまれては、たいへんですからね。」

明智あけちはそう説明せつめいして、金庫きんこを開ひらくと、ずらっと並ならんでいる桐きりのひきだしの一ひとつをあけて、松枝まつえださんの宝石ほうせき箱はこをしまい、またピッタリと、金庫きんこの扉とびらをしめました。

「さあ、これでもう、だいじょうぶです。いまもいうとおり、この金庫きんこには、ふしぎなしかけがありますから、どんな金庫きんこやぶりの名人めいじんでも、この中なかのものを盗ぬすむことはできないのです。どうか、ご安心あんしんください。」

松枝まつえださんは、それからしばらく話はなしをして、かならず宝石ほうせきをまもってくれるようにと、たびたび、ねんをおして帰かえっていきました。

明智あけち探偵たんていは、客間きゃくまの窓まどから、松枝まつえださんの自動じどう車しゃが遠とおざかっていくのを、見みおくっていましたが、そばにいた小林こばやし君くんに、そっと、ささやきました。

「ごらん、あの大通おおどおりのむこうがわを、へんな男おとこが歩あるいていくだろう。あいつは、さっきから同おなじところを、行いったり来きたりしていたんだよ。ネコじいさんの仲間なかまにきまっている。それとも、ひょっとしたら、ネコじいさんが変装へんそうしているのかもしれない。いずれにしても、黄金おうごん豹ひょうは今夜こんやあたり、金庫きんこやぶりに、やってくるよ。それこそ、こっちののぞむところなんだがね。」

明智あけち探偵たんていはそういって、ニコニコと笑わらうのでした。

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