← Library‹ 黄金豹 怪獣と奇獣

恐おそろしいたたかいが、はじまりました。まったく同おなじ金色きんいろの豹ひょうが、とっ組くみあって、床ゆかの上うえを、ゴロゴロころがりながら、はげしいうなり声ごえをたてて、あらそうのです。怪獣かいじゅうと奇き獣じゅうのたたかいです。

明智あけちと小林こばやし少年しょうねんは、アパートの前まえの自動じどう車しゃの中なかにかくれているので、その部屋へやには、だれもおりません。アパートといっても、そこは高級こうきゅうアパートで、明智あけちの事務じむ所しょは五ご室しつもあるのですから、いくらさわがしくても、となりまではなかなか聞きこえません。二にひきの怪獣かいじゅうは、さんざんあらそいまわりました。横よこになり下したになり、くんずほぐれつ、あるいはパッとはなれて、むこうの机つくえの上うえにとびあがり、そこから、弾丸だんがんのような恐おそろしいいきおいでとびかかる。黄金おうごん豹ひょうのレスリングです。

「オヤッ、きさま、人間にんげんだなッ!」

とっ組くみあいながら、黄金おうごん豹ひょうが、人間にんげんのことばでわめきました。

「きさまこそ、人間にんげんだろう。人間にんげんが金色きんいろの豹ひょうの皮かわをかぶって化ばけているんだ。」

金庫きんこの中なかにかくれていた豹ひょうも、同おなじように人間にんげんのことばを、つかいました。

ああ、なんということでしょう。二にひきとも、ほんとうの豹ひょうではなかったのです。豹ひょうの皮かわをかぶった人間にんげんだったのです。

「きさま、だれだッ、明智あけち小五郎こごろうか?」

黄金おうごん豹ひょうが、うめきました。

「ちがう。おれは明智あけち先生せんせいの弟子でしだ。今夜こんや、きさまがしのびこんでくるから、金庫きんこの中なかで待まちぶせしていろと、たのまれたんだ。そして、きさまの化ばけの皮かわを、はいでやれといってな。」

「ちくしょう! たくらみやがったな。だが、きさまなんかに負まけるもんか。おれは、千せん年ねんのこうをへた、黄金おうごん豹ひょうだぞッ!」

「なにをッ! 人間にんげんのくせに、ほらをふくな。人間にんげんと人間にんげんなら、きさまなんかに負まけるもんかッ。」

「ウフフフ……。おおきなことを、ほざいたなッ。見みろ、こうだッ!」

悪獣あくじゅう黄金おうごん豹ひょうは、こちらのゆだんをみすまして、パッと上うえからのりかかってきました。そして、二に本ほんの前足まえあしで、明智あけちの部下ぶかののどを、ぐんぐん、おさえつけるのです。恐おそろしい力ちからです。いまにも息いきがとまりそうです。顔かおがふくれあがって、耳みみががんがんなってきました。助たすけを呼よぼうにも声こえがでません。もう死しぬのかと思おもいました。そのときです。とつぜん、むこうのドアが開ひらいて、パッと、黒くろいものがとびこんできました。人間にんげんです。黒くろい背広せびろをきた明智あけち探偵たんていのもうひとりの部下ぶかです。明智あけちが小林こばやし少年しょうねんをつれて、おもての自動じどう車しゃにかくれるまえに、電話でんわでふたりの部下ぶかをよんだことは、読者どくしゃ諸君しょくんも、ごぞんじです。そのふたりのうちのひとりが、豹ひょうの皮かわをかぶって、金庫きんこにかくれ、ひとりは書斎しょさいの奥おくの寝室しんしつのベッドの下したにひそんでいたのです。そして、仲間なかまがあやうくなったら、とびだす用意よういをしていたのです。

とびこんできた部下ぶかは、いきなり黄金おうごん豹ひょうのうしろから組くみついて、その首くびをしめつけました。アッと驚おどろいて、両手りょうての力ちからがぬけたすきに、下したになっていた豹ひょうが、おきなおったのです。

こんどは、一いちぴきにたいする、一いちぴきとひとりです。いかな黄金おうごん豹ひょうも、かないっこありません。

「うぬッ、おぼえていろ! きっと、このしかえしはしてやるぞッ。」

黄金おうごん豹ひょうは、恐おそろしい声こえでどなりながら、パッと、ふたりの手てをはらいのけて、むこうの机つくえの上うえに、とびあがりました。そして、グッと身みをかがめたかと思おもうと、三さんメートルもへだたった窓まどにむかって、サッと、一いちとびにとびつきました。

窓まどのそとには、地面じめんまでとどく長ながい綱つなが、さがっています。さっき、屋根やねからおりてきた、あの綱つなです。黄金おうごん豹ひょうは、窓まどわくから、その綱つなにとびつき、するすると、下したへおりていきます。

明智あけちのふたりの部下ぶかは、それを見みるとすぐに、窓まどへかけつけましたが、もうおそかったのです。黄金おうごん豹ひょうは、はるか下したの地面じめんまですべりおりて、深夜しんやの大通おおどおりをかけだしていました。

「しまった! とうとう、逃にがしてしまった。ぼくたちも、この綱つなをつたって追おっかけようか。」

「いや、そんなことをしなくても、だいじょうぶだ。おもてには明智あけち先生せんせいと小林こばやし君くんが見みはっている。けっして、逃にがすようなことはないよ。ほら、見みたまえ。自動じどう車しゃが、豹ひょうのあとから走はしりだした。あの中なかには、明智あけち先生せんせいと小林こばやし君くんがいるんだよ。」

黄金おうごん豹ひょうの皮かわをきた部下ぶかと、黒くろ背広せびろの部下ぶかは、窓まどぎわに立たって、大通おおどおりのふしぎな追跡ついせきを、見みおろしました。

まったく人通ひとどおりのない深夜しんやの大通おおどおりを、キラキラ光ひかる黄金おうごん豹ひょうが、とぶように走はしっています。

そのうしろから、一いちだいの自動じどう車しゃが、しずかに追跡ついせきしていくのです。

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