← Library‹ 黄金豹 もぬけのから

そのへんは大おおきな邸宅ていたくばかりの、さびしい町まちですし、まして、深夜しんやのことですから、大通おおどおりには人ひとかげもなく、街灯がいとうの光ひかりが白しろいアスファルト道みちを、ほのかにてらしています。その中なかを、一いちぴきの金色きんいろの豹ひょうが、恐おそろしいいきおいで、とんでいくのです。そして、その二十にじゅうメートルほどうしろからは、ヘッド=ライトを消けした、まっ黒くろな自動じどう車しゃが、影かげのようにすべっていきます。なんだか、恐おそろしい夢ゆめでも見みているような、ふしぎな光景こうけいでした。

自動じどう車しゃの運転うんてん席せきには、明智あけち探偵たんていと小林こばやし少年しょうねんとが、並ならんでこしかけ、明智あけちが運転うんてんしていました。

「あいつは、もう、この自動じどう車しゃに追跡ついせきされていることを、知しっているでしょうか。」

「知しっているかもしれない。なんでもいいから、どこまでも尾行びこうするんだ。もし、せまい道みちへまがったら、ぼくらも車くるまをおりて追おっかけるんだ。今夜こんやこそは、あいつのすみかを、つきとめなければならない。」

前まえを走はしる豹ひょうのすがたを見みつめながら、小声こごえで、そんなことを、話はなしあっているときでした。とつぜんむこうの横丁よこちょうから、まっ黒くろなものがとびだしてきました。やっぱりヘッド=ライトを消けした一ひとだいの自動じどう車しゃです。客席きゃくせきのドアは、開ひらいたままになっています。

黄金おうごん豹ひょうは、その開ひらいたドアへ、とびついていきました。そして、アッというまに、客席きゃくせきの中なかにはいり、パタンとドアをしめてしまいました。黄金おうごん豹ひょうが自動じどう車しゃにのったのです。

「アッ、車くるまが待またせてあったんだな。運転うんてんしているのは黄金おうごん豹ひょうの部下ぶかにちがいない。よし、自動じどう車しゃと自動じどう車しゃの競争きょうそうなら、負まけないぞ。さあ、小林こばやし君くん、スピードを出だすよ。」

明智あけちはそういって、いきなり速力そくりょくをくわえるのでした。

むこうの車くるまも矢やのように走はしりだしました。風かぜをきって進すすむ二にだいの自動じどう車しゃ。ものすごい追跡ついせきです。前まえの自動じどう車しゃのバック=ウインドーに、キラキラ光ひかる豹ひょうの頭あたまが見みえています。じっと、こちらをのぞいているようです。

黄金おうごん豹ひょうの怪かい自動じどう車しゃは、つぎからつぎと、町まちかどをまがりながら、だんだん、さびしい方ほうへ、向むかっていきます。新宿しんじゅくをすぎ、中野なかのをすぎ、杉並すぎなみ区くにはいりました。あたりは森もりや畑はたけの見みえる、さびしい場所ばしょです。

するとそのとき、ふしぎなことがおこりました。いままで、あんなに早はやく走はしっていた黄金おうごん豹ひょうの車くるまが、なぜか、急きゅうにスピードをおとしたのです。まるでハンドルがきかなくなったように、右みぎへ行いったり、左ひだりへ行いったり、よたよたとして、進すすんでいきます。

「へんですねえ。パンクでもしたんでしょうか。」

小林こばやし君くんが、ささやきました。

「そうでもないらしいよ。なにか、たくらんでいるのかもしれない。」

「じゃ、黄金おうごん豹ひょうが、車くるまからとびおりて、あの森もりの中なかへ、逃にげこむつもりでしょうか。」

「そうでもないね。見みたまえ、うしろの窓まどから、あいつの頭あたまが見みえている。じっとしているよ。」

そんなことをいっているうちに、前まえの車くるまは、いよいよ速度そくどがにぶくなり、人間にんげんが歩あるいているほどの、のろさになりました。

「へんだな。よし、追おいこしてしらべてみよう。」

明智あけちはそういって、みるみる前まえの車くるまを追おいこしてしまいました。そして、通とおせんぼうをするように、そこに、こちらの車くるまをとめたのです。すると、むこうの車くるまも、ピッタリととまってしまいました。

明智あけちと小林こばやし少年しょうねんは、車くるまからとびだして、相手あいての車くるまに近ちかづいていきました。ふたりとも、ポケットにピストルを用意よういしていました。いざというときには、それをぶっぱなすつもりです。

すると、むこうのドアが開ひらいて、運転うんてん手しゅがおりてきました。遠とおくの街灯がいとうの光ひかりで、ぼんやりとしか見みえませんが、運転うんてん手しゅは青あおざめて、なんだか、おどおどした顔かおをしています。

べつに手てむかいするようすもないので、明智あけちは運転うんてん手しゅにはかまわず、つかつかと車くるまのそばによって、右手みぎてにピストルをかまえながら、うしろの席せきのドアを、パッと開ひらきました。

黄金おうごん豹ひょうが、いきなり、とびかかってくるかと思おもったのです。しかし、なにごともおこりません。車くるまの中なかは、しいんと、しずまりかえっています。

黄金おうごん豹ひょうは逃にげてしまったのでしょうか。いや、逃にげたのではありません。あのピカピカ光ひかる怪獣かいじゅうは、ちゃんと、そこにいました。うしろによりかかって、ぐったりとなっています。眠ねむっているのでしょうか。まさか、こんなさいに、眠ねむるはずはありません。

明智あけちは、おもいきって、ピストルのさきで、豹ひょうのからだを、つっついてみました。なんの手てごたえもありません。豹ひょうは、ぐったりとしたままです。死しんでしまったのでしょうか。

こんどは、手てで豹ひょうのからだを、ゆさぶってみました。すると、相手あいては、くなくなと、くずれるように、自動じどう車しゃの床ゆかへ倒たおれてしまいました。いや、倒たおれたのではありません。一いちまいの敷しき皮がわのように、ぺちゃんこになってしまったのです。

黄金おうごん豹ひょうには中なかみがなくなっていたのです。皮かわばかりになっていたのです。やっぱりそうでした。皮かわを身みがわりにして、いつのまにか逃にげだしてしまったのです。明智あけちはその金色きんいろの豹ひょうの皮かわをつかんで、車くるまのそとへひき出だし、首くびのところをもって、ぶらさげて見みせました。

「アッ、皮かわばかりですか。」

小林こばやし君くんがびっくりして叫さけびました。

「オヤッ、いつのまに……。」

運転うんてん手しゅも、驚おどろいています。

「おい、きみに聞ききたいことがある。」

明智あけちは運転うんてん手しゅの前まえに立たって、グッと、相手あいての顔かおをにらみつけながら、しかりつけるようにいいました。

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