← Library‹ 黄金豹 森の一けん家

明智あけち探偵たんていが、きびしくたずねますと、運転うんてん手しゅは、こんなふうに答こたえました。

「いや、わたしは、けっして、あやしいものじゃありません。東京とうきょうタクシーの運転うんてん手しゅです。きょうは徹夜てつやの番ばんで、麹町こうじまちのへんを流ながしていますと、ひとりの紳士しんしが、ここの横丁よこちょうにとまっていて、おれがあいずをしたら、うしろのドアをあけたままで、大通おおどおりの方ほうへ車くるまを出だせといい、二千にせん円えんくれましたので、つい金かねに目めがくれて、その人ひとのいうとおりにしたのです。

ま夜中よなかに、その人ひとが、さあ車くるまを出だせといいますので、うしろのドアを開ひらいて、大通おおどおりへ出でました。すると、どうでしょう。いきなり金色きんいろの豹ひょうがとびこんできたのです。そして、いまにもかみつきそうな、恐おそろしいかっこうで、フル=スピードで走はしれというではありませんか。人間にんげんのことばで、そういったのです。

わたしは、さては、こいつが、うわさにたかい黄金おうごん豹ひょうだなと思おもいました。黄金おうごん豹ひょうは千せん年ねんのこうをへた怪物かいぶつで、人間にんげんのことばをしゃべるということを、聞きいていたからです。わたしは、ふるえあがってしまいました。それからはもう、むが夢中むちゅうでした。豹ひょうがうしろから、さしずするとおりに、めちゃくちゃに車くるまを走はしらせたのです。

ところが、つい五ご、六ろく分ふんまえ、うしろから声こえをかけなくなったのです。それまでは、右みぎへまがれ、左ひだりへまがれとさしずしていたのが、ぱったり、やんでしまったのです。へんだなと思おもって、うしろを見みると、黄金おうごん豹ひょうは眠ねむっているようでした。わざと車くるまをでこぼこ道みちへいれて、ガタガタやってもおきません。それで、だんだんスピードをおとして、どうしようかと考かんがえていると、あんたの車くるまが追おいこして、通とおせんぼうをしてしまったのです。」

そう聞きくと、この運転うんてん手しゅは、黄金おうごん豹ひょうの仲間なかまでないようにも、思おもわれました。

「そうか。それじゃ、五、六ごろく分ふんまえに、黄金おうごん豹ひょうの中なかにはいっていたやつが、皮かわだけのこして、とびおりたんだな。もう、いまから捜さがしてもまにあうまい。よろしい。きみはガレージへ帰かえりなさい。ぼくらも、いちおう、ひきかえすことにする。……この豹ひょうの皮かわは、あずかっておくよ。」

そういって、明智あけち探偵たんていは、豹ひょうの皮かわを持もったまま、小林こばやし少年しょうねんをつれて、自分じぶんの自動じどう車しゃにもどりました。

「きみ、さきに乗のりたまえ。」

いわれるままに、小林こばやし君くんが、さきに乗のりますと、明智あけちはあとから運転うんてん台だいにはいってきて、小林こばやし君くんの耳みみに口くちをつけるようにして、みょうなことを、ささやきました。

「きみは、そっちがわのドアをあけて、そっと、おりるんだ。そして、そこの大おおきな木きの幹みきにかくれて、あの自動じどう車しゃを見みはっていたまえ。わたしも、この自動じどう車しゃを、ここから見みえぬところにとめて、じきにもどってくる。いいかね。もし、あの車くるまの中なかから、へんなやつがあらわれたら、そっと、あとをつけるんだよ。わかったかね。」

そういって、小林こばやし君くんを、はんたいがわのドアから、そとへつき出だすようにしました。

小林こばやし君くんは、なぜ明智あけち先生せんせいが、そんなことをいうのか、よくわかりませんでしたが、いわれるままに、そとに出でて、大おおきな木きのかげに身みをかくしました。あたりが暗くらいうえに、自動じどう車しゃがじゃまをしているので、むこうの運転うんてん手しゅには、小林こばやし君くんが車くるまをおりたことは、すこしもわからなかったのです。

やがて、明智あけちの運転うんてんする自動じどう車しゃが動うごきだして、もときた方ほうへ走はしりさっていきました。あとにのこった小林こばやし少年しょうねんは、木きのかげから、そっとのぞいています。

しばらくすると、むこうの運転うんてん手しゅが、あたりを、キョロキョロ見みまわしたあとで、自動じどう車しゃのうしろの席せきに、上じょう半身はんしんをいれて、なにか、ごとごとやっているのが見みえました。

「オヤッ、へんだな。あいつ、やっぱりあやしいやつだぞ。」

小林こばやし君くんは、そう思おもって、息いきをころして、見みつめています。

運転うんてん手しゅは、なお、しばらく、ごとごとやっていましたが、やがて、仕事しごとをおわったようすで、上じょう半身はんしんを、車くるまのそとに出だして、二に、三さん歩ほあとに身みをひきました。

すると、車くるまの中なかから、パッととび出だしてきたものがあります。人間にんげんです。ぴったり身みについた、黒くろいシャツとズボンしたのすがたです。顔かおはよく見みえませんが、たしかに、くっきょうな男おとこです。

「ああ、わかった。あいつが黄金おうごん豹ひょうの皮かわをかぶっていた悪者わるものにちがいない。途中とちゅうでとびおりたと見みせかけて、ほんとうは、自動じどう車しゃのこしかけの下したに、かくれていたのだ。あの自動じどう車しゃには、ちゃんとそういうしかけがしてあったにちがいない。そうして、明智あけち先生せんせいにいっぱいくわせようとしたんだ。なんて、悪あく知恵ちえのはたらくやつだろう。だが、さすがは、明智あけち先生せんせいだ。とっさに、それを見みぬいて、ぼくをここへ残のこしたんだ。やっぱり先生せんせいはえらいなあ!」

小林こばやし君くんは、そんなことを考かんがえながら、悪者わるもののすがたから、目めをはなしませんでした。

黒くろシャツの男おとこは、運転うんてん手しゅと、なにかひそひそ、ささやきあっていましたが、やがて、運転うんてん手しゅは、自動じどう車しゃに乗のり、どこかへ走はしりさっていきました。

あとに残のこった黒くろシャツの男おとこは、あたりを、キョロキョロ見みまわしてから、むこうの森もりの中なかへはいっていきます。小林こばやし君くんは、こっそり、そのあとをつけました。

それは、杉並すぎなみ区くにこんな森もりがあるのかしらと、びっくりするような、深ふかい森もりでした。男おとこは、立たちならぶ大おおきな木きのあいだをくぐって、森もりのまん中なかへはいっていきます。そのへんは、街灯がいとうの光ひかりもささず、うっかりすると、相手あいてを見みうしなうほど、まっ暗くらです。

でも尾行びこうしているうちに、だんだん目めが闇やみになれてきて、いくらか、あたりのようすが、わかるようになりました。森もりのまん中なかに、まっ黒くろな四角しかくなものが、そびえています。それはレンガづくりの西洋せいよう館かんのようでした。黒くろシャツの男おとこは、いそぎあしで、その建物たてものに近ちかづいていきました。

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