← Library‹ 黄金豹 ネコむすめ

まっ黒くろに、そびえている西洋せいよう館かんに近ちかづくと、フッと、男おとこのすがたが見みえなくなってしまいました。たぶん西洋せいよう館かんの中なかへ、はいったのでしょうが、入口いりぐちのドアが開ひらいたようすはありません。窓まどからでも、しのびこんだのでしょうか。

小林こばやし君くんは、しばらく、ためらっていましたが、おもいきって、西洋せいよう館かんの入口いりぐちのところへいって、そこのドアを、とんとんと、たたいてみました。二に、三さん度どたたきますと、中なかから、なにものかがドアを開ひらいて顔かおをだしました。

小林こばやし君くんは、いざというときの用意よういに、ポケットの中なかに手てを入いれて、ピストルをにぎりしめていましたが、ドアを開ひらいたのは、あのあやしい男おとこではなくて、小ちいさな女おんなの子こでした。

そのとき、ドアの中なかの電灯でんとうがついたので、少女しょうじょのすがたがよく見みえたのです。女中じょちゅうではありません。まだ十じゅう歳さいぐらいのかわいらしい女おんなの子こです。ここのうちの娘むすめかもしれません。

それにしても、こんなま夜中よなかに、小ちいさな女おんなの子こが、ちゃんと、昼ひるまの服ふくをきて、おきているのは、なんだかへんだと思おもいましたが、小林こばやし君くんは、ともかく、たずねてみました。

「きみ、ここのうちの子こなの?」

「ええ、そうよ。」

少女しょうじょは、すずのように美うつくしい声こえで、答こたえました。

「いまね、あやしい男おとこが、このうちへ、しのびこむのを見みたんだよ。おとうさんか、おかあさんがいたら、ぼくにあわせてくれない?」

「ええ、いいわ。こちらへいらっしゃい。」

少女しょうじょはそういって、奥おくの方ほうへはいっていきます。なんだか、ひどく、おませさんのようです。

小林こばやし君くんがついていきますと、少女しょうじょは応接おうせつ間かんのような洋室ようしつへはいり、スイッチをおして電灯でんとうをつけました。むかしの西洋せいようの絵えで見みるような、古ふるいりっぱな家具かぐがならんでいます。いっぽうの壁かべには、石炭せきたんをたくだんろがついていて、その上うえの壁かべに、大おおきな鏡かがみがはめこみになっています。

少女しょうじょはそこにある、りっぱな長ちょうイスにこしかけました。すると、へんなことがはじまったのです。むこうの開ひらいているドアから、一いちぴき、二にひき、三さんびきと、ネコがぞろぞろ、はいってきました。十じゅうぴき以上いじょうです。大おおきさも、毛けの色いろも、みんなちがっています。

なかには豹ひょうの子このような、大おおきなぶちのネコもいます。小林こばやし君くんはそれをひとめ見みたとき、黄金おうごん豹ひょうの子こどもではないかと、ギョッとしたほどです。しかし、豹ひょうによくにているけれども、豹ひょうではなくてネコであることが、わかりました。

その子こ豹ひょうのようなネコは、あとからはいってきたくせに、ほかのネコたちをおしのけて、少女しょうじょのひざの上うえにのって、あまえるように少女しょうじょの手てをなめるのでした。

ほかのネコたちも、少女しょうじょのまわりをとりかこんで、長ちょうイスの上うえや、少女しょうじょの足あしのそばに、むらがっています。一いちぴきの子こネコは、少女しょうじょの背中せなかから肩かたにのって、少女しょうじょの首くびに顔かおをあてて、あまえています。

「これ、みんな、きみのうちのネコなの?」

小林こばやし君くんが、びっくりしてききますと、少女しょうじょはニッコリ笑わらって、

「そうよ。あたしのうち、ネコやしきなの。」

と、少女しょうじょは、おませなくちょうで、すまして答こたえました。

ネコやしきときくと、小林こばやし君くんは、このお話はなしのはじめのほうにでてきた、『ネコじいさん』のことを思おもいだして、なんだかきみが悪わるくなってきました。ここは、『ネコじいさん』のすみかではないでしょうか。

「きみのうちに、おじいさんいる? ネコのすきな、白しろいひげのあるおじいさんだよ。」

思おもわず、たずねますと、少女しょうじょはけろりとした顔かおをして、

「おじいさんなんか、いないわ。おかあさんと、あたしだけよ。」

と答こたえましたが、その顔かおを見みて、小林こばやし君くんは、また、ゾッとしました。少女しょうじょの顔かおが、ネコとそっくりに見みえたからです。

ネコはみんな、かわいい顔かおをしていますが、この少女しょうじょの顔かおが、そのかわいいネコとそっくりなのです。ネコが少女しょうじょに化ばけているのではないかと、思おもわれるほどです。これは、『ネコむすめ』ではないのでしょうか。

小林こばやし君くんは、むかしの『化ばけネコ』の話はなしを思おもいだしました。

こんなかわいい顔かおをしているけれど、いまに少女しょうじょの口くちが、ギャッと耳みみまでさけて、とびかかってくるのではないかと思おもうと、ゾッとして、逃にげだしたくなるほどでした。

小林こばやし君くんは、しばらく考かんがえていましたが、せっかく、あやしい男おとこのことを知しらせにきたのですから、ともかく、少女しょうじょのおかあさんにあって、話はなしてみようと思おもいました。

「それじゃ、きみのおかあさんに、あいたいが、おかあさんは、うちにいらっしゃるの?」

「ええ、いるわ、いま、ここへいらっしゃるのよ。ほら、足音あしおとが聞きこえるでしょう。」

少女しょうじょが、やさしいネコの顔かおでいいました。しかし、小林こばやし君くんにはなにも聞きこえません。この少女しょうじょは、人間にんげんに聞きこえない音おとを聞ききとる耳みみを持もっているのでしょうか。

すると、そのとき、一いちぴきのネコが、長ちょうイスからとびおりて、むこうに開ひらいているドアの方ほうへ、かけだしていきました。それにつづいて、二にひき、三さんびき、四よんひきと、みんなドアの方ほうへ、かけだしていくのです。

ネコどもは、早はやくも、おかあさんのくるのを、かぎつけたのでしょう。

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