← Library‹ 黄金豹 ネコ夫人

そのとき、ドアのむこうへ、三十さんじゅう歳さいぐらいの美うつくしい女おんなの人ひとがあらわれました。りっぱな洋服ようふくをきています。むかしの夜会服やかいふくのような飾かざりのおおい、すその広ひろい、ピカピカした洋服ようふくです。

その女おんなの人ひとの顔かおは、どこか少女しょうじょににていました。そして、やっぱりネコの感かんじがします。これは『親おやネコ』の感かんじなのです。

「あなた、どなたですか?」

女おんなの人ひとが、西洋せいよう人にんが日本にっぽん語ごをしゃべっているような、口くちのききかたをしました。

「ぼくは小林こばやしっていうんです。明智あけち探偵たんていの助手じょしゅです。いま、ここのうちへ、黄金おうごん豹ひょうの皮かわをかぶっていたやつが、しのびこむのを見みたので、おしらせにきたのです。だれか、うちの中なかへはいってきませんでしたか?」

小林こばやし君くんがいいますと、女おんなの人ひとはニヤリと笑わらいました。なんだかネコが笑わらったような感かんじでした。

「なにもはいってきませんよ。あなたのまちがいじゃありませんか。」

「いいえ、まちがいじゃありません。よくしらべてみてください。広ひろいおうちですから、どこにかくれているか、わかりませんよ。」

それをきいても、女おんなの人ひとは、だまっています。べつに驚おどろいたようすもありません。すると、やっぱり、ここは黄金おうごん豹ひょうにばけた怪人かいじんのすみかで、この人ひとたちは、仲間なかまなのでしょうか。

「いまはま夜中よなかですが、あなたがたは、いまごろまで、おきておいでになったのですか?」

小林こばやし君くんが、おもいきって、それをたずねてみました。すると女おんなの人ひとは、ネコのように、ニヤニヤと笑わらって答こたえます。

「わたしたちは、今夜こんや、このネコたちと、宴会えんかいを開ひらいていたのです。毎月まいつき一いち度ど、夜よるあかしをして、ネコの宴会えんかいを開ひらくのです。ここはネコやしきですからね。」

そのとき、少女しょうじょが長ちょうイスからおりてきて、小林こばやし少年しょうねんのそばに立たち、まるで子こネコがあまえるように、小林こばやし君くんに、からだをすりつけました。いくらかわいい子こでも、べたべたくっつかれると、きみが悪わるいので、ソッと、からだをよけて、少女しょうじょからはなれました。

「あなた、こちらへ、いらっしゃい。お見みせするものがあります。」

おかあさんのほうが、やさしい声こえでいいました。

小林こばやし君くんは、このうちが、あやしいと思おもっているので、さそわれるのをさいわいに、奥おくへはいってみることにしました。

小林こばやし君くんは、心こころの中なかで、少女しょうじょのおかあさんを、『ネコ夫人ふじん』と名なづけました。それほど、顔かおもからだの動うごかしかたも、ネコにそっくりなのです。そのネコ夫人ふじんが、さきにたって、廊下ろうかを歩あるいていきますので、小林こばやし君くんも、そのあとからついていきました。ネコどもも、ネコ夫人ふじんのおともをして、ぞろぞろ、ついてきました。

ネコ夫人ふじんは、ある部屋へやのドアを開ひらいて、小林こばやし君くんを手てまねきしながら中なかにはいりました。その手てまねきのやりかたが、また、ネコとそっくりなのです。

小林こばやし君くんもその部屋へやにはいってみますと、それは書斎しょさいとでもいうような大おおきな洋室ようしつでピカピカ光ひかった寄木細工よせぎざいくの床ゆか、壁かべには書棚しょだながあり、正面しょうめんにたたみ一いちじょうもある、大おおきな机つくえがすえてあります。

ネコ夫人ふじんはネコの歩あるくようなみょうな歩あるきかたで、スーッとその大机おおづくえのそばによると、こちらをむいて、やさしく笑わらいながら、また、手てまねきをしました。

「ぼくに、なにを見みせるのですか。」

小林こばやし君くんが、入口いりぐちに立たちどまって、たずねますと、ネコ夫人ふじんは美うつくしいネコのような顔かおを、いっそう、やさしくして、ネコなで声せいでいうのです。

「いいものよ。あなたがびっくりするようなものよ。早はやく、ここへいらっしゃい。」

それは、まるでマグネットのように、人ひとをひきつける声こえでした。小林こばやし君くんは、ふらふらとその方ほうへ歩あるいていきました。歩あるきながら、ふと気きがついて、ポケットに手てをあててみました。ネコ夫人ふじんが、なにか悪わるだくみをしているかもしれないと思おもったからです。いざという時ときには、ピストルを出だしてぶっぱなすつもりです。それでポケットのピストルに、さわってみようとしたのですが、ポケットには、なにもありません。たしかに入いれてあった右みぎのポケットが、からっぽになっているのです。

「アッ、いけない。それじゃあ、さっきあのネコむすめが、からだにくっついたとき、ぬき出だしたんだなッ――。」

小林こばやし君くんは、とっさにそこへ気きがつきました。しかし、もうおそかったのです。それを半分はんぶんも考かんがえないうちに、足あしの下したの床ゆかが、とつぜん消きえてなくなってしまったからです。

アッと思おもうまに、小林こばやし君くんのからだが、スーッと、下したへ落おちていきました。まっ暗くらな穴あなの中なかへ、恐おそろしいいきおいで、落おちこんでいきました。

そこの床板ゆかいたが、一いちメートル四方しほうほど下したに落おちこむようになっていて、それが、とつぜん落おちて、まっ暗くらな四角しかくな穴あなができたのです。

小林こばやし君くんは、その穴あなの中なかへ落おちていく瞬間しゅんかんに、チラッとネコ夫人ふじんのほうを見みました。

ネコ夫人ふじんはそのとき、大机おおづくえによりかかって、ニヤニヤと、ネコの笑わらいを笑わらっていましたが、右手みぎてが、机つくえの横よこをおしているのが見みえました。きっと、そこにボタンがあるのです。そのボタンをおせば、落おとし穴あなのふたが、下したへ落おちるようになっているのにちがいありません。

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