← Library‹ 黄金豹 地底の黄金豹

ガクンと、おしりがかたい床ゆかにぶっつかって、気きをうしなうほどのいたさでしたが、さいわい、ぶつかったのが、肉にくのあついおしりだったので、骨ほねがおれたり、筋すじがちがったりするようなこともなく、しばらくして、立たちあがることができました。

まっ暗くらで、なにもわかりませんが、床ゆかをなでてみると、コンクリートのようでした。手てさぐりで歩あるいていくと、これもコンクリートらしい壁かべに、ぶっつかりました。ここは地下ちか室しつなのです。

小林こばやし君くんは壁かべをつたって、ズーッとまわってみました。四方しほうともコンクリートの壁かべで、ひとつドアのようなものがありますが、鍵かぎがかかっているのか、おしても、ひいても開ひらきません。小林こばやし君くんは地底ちていの密室みっしつに、とじこめられてしまったのです。

ネコむすめも、ネコ夫人ふじんも、敵てきの仲間なかまだったのです。それは、はじめから、かくごしていましたけれど、うっかりして、ネコむすめに、ピストルをとられてしまったのは大だい失敗しっぱいでした。もう、身みをふせぐためには、知恵ちえを働はたらかせるほかに、なんの方法ほうほうもないのです。

小林こばやし君くんは、しかたがないので、コンクリートの壁かべによりかかって、足あしをなげだして、じっとしていました。小林こばやし君くんは、いろいろな事件じけんで、こんなめには、たびたびあっていますので、すこしも、あわてません。おちつきはらって、考かんがえているのです。うまい知恵ちえを、しぼりだそうとしているのです。

しばらくすると、むこうの方ほうで、カチッという音おとがしました。だれかが、ドアを開ひらこうとしているのかもしれません。小林こばやし君くんは、すぐに立たちあがって、身みがまえました。

ギイーッと、ドアの開ひらく音おとがして、ピカッと、大おおきな目めだまのような光ひかりが、あらわれました。しかし、それは怪物かいぶつの目めではなくて、懐中かいちゅう電灯でんとうであることが、すぐにわかりました。

その目めだまのような電灯でんとうが、ジリジリとこちらへ近ちかづいてきます。もしピストルがあれば、こんなとき、それをかまえて相手あいてをおどかすのですが、そのピストルもないので、小林こばやし君くんは、こぶしをにぎって、じっと立たっているほかはありませんでした。

電灯でんとうの光ひかりで、敵てきはこちらのすがたを、はっきり見みているのでしょうが、こちらからは、むこうのすがたが、すこしも見みえません。まっ暗くらな中なかに、なにか、もやもやしたものが動うごいているばかりです。

「ウフフフフ……、とうとう、わなにかかったね。え、ちんぴら探偵たんてい、おれはきみなんかの手てにあう相手あいてじゃないよ。ウフフフ……。」

男おとこの声こえです。豹ひょうに化ばけていた、あのあやしい男おとこにちがいありません。

「きみはだれなの? ぼくのほうからは、きみのすがたが見みえないんだよ。」

小林こばやし君くんが、へいきな声こえでたずねました。

「ウフフフ……、ちんぴらのくせに、いやにおちついていやがるな。おれの顔かおが見みたいのか。ほら、見みるがいい。」

そういって、懐中かいちゅう電灯でんとうの光ひかりを、じぶんの顔かおにあてました。

それは、きみの悪わるいじいさんの顔かおでした。太ふとい黒くろぶちのめがねをかけ、白しろいあごひげがたれています。めがねの中なかから、まんまるな大おおきな目めが、のぞいています。人間にんげんの目めではなくて、豹ひょうの目めのように感かんじられました。ぴったり身みについた、黒くろいシャツのようなものをきています。

小林こばやし君くんはネコじいさんにあったことはありませんが、この老人ろうじんは、うわさにきいているネコじいさんと、そっくりです。

「やっぱり、きみはネコじいさんだね。そうだろう?」

小林こばやし君くんが、すこしも悪わるびれない声こえで、たずねました。

「そのとおり、おれはネコじいさんだよ。ところで、きみは、ネコじいさんが、なにものだか知しっているかね。ウフフフ……、おれは千せん年ねんのこうをへた、魔物まものの豹ひょうを使つかう、豹ひょう使つかいのじいさんだよ。せけんでは、わしのつかう豹ひょうを『黄金おうごん豹ひょう』といっている。見みろ! その黄金おうごん豹ひょうは、ここにいるんだッ!」

そういって、じいさんは、懐中かいちゅう電灯でんとうを、パッと、じぶんのうしろの方ほうにむけました。

アッ! こんなことが、あるものでしょうか。じつにふしぎです。ピカッと光ひかりました。金色きんいろの毛けです。それが動うごいているのです。ふたつの目めが、電灯でんとうの光ひかりをうけて、まっ青さおに光ひかりました。ガッと赤あかい口くちが開ひらいて、白しろい牙きばがあらわれました。……それは黄金おうごん豹ひょうだったのです。じいさんのうしろから、黄金おうごん豹ひょうが歩あるいてきたのです。

小林こばやし君くんは、ほんとうに、びっくりしてしまいました。黄金おうごん豹ひょうの皮かわは、さっき明智あけち探偵たんていが、持もっていったではありませんか。その皮かわをかぶっていた男おとこは、この西洋せいよう館かんへ逃にげこみました。その男おとこが、このじいさんに、ちがいないのです。それに、もう一いちぴき、生いきた黄金おうごん豹ひょうがいるなんて、おもいもよらぬことでした。

じいさんは、懐中かいちゅう電灯でんとうで、豹ひょうの頭あたまから、しっぽまで、ズーッとてらして見みせました。すると、ますます、驚おどろくべきことが、わかってきたのです。

これはほんものの豹ひょうでした。けっして、人間にんげんが豹ひょうの皮かわをかぶっているものではありません。足あしを見みれば、わかります。あんな細ほそい足あしの人間にんげんなんてあるはずがありません。ことに、あと足あしのまがりかたが、人間にんげんでは、あんなになるはずがないのです。

「ウフフフ……、わかったかね。ちんぴら先生せんせい、いまに、こいつにきみを食くわせてしまうから、かくごするがいい。」

さすがの小林こばやし少年しょうねんも、それをきくと、まっ青さおになってしまいました。そして、「ああ、ピストルがほしい。」と思おもいました。しかし、ピストルは、あのネコむすめに、とられてしまったのです。もうどうすることもできません。小林こばやし君くんは、だんだん、あとずさりして、うしろの壁かべに、ぴったり、からだをつけました。あとは、ジリジリと、横よこのほうに、いざっていくほかはないのです。

「それ、おまえのすきな人間にんげんの子こどもだ。パックリやってしまえ!」

じいさんが、はげしい声こえで、どなりました。

パッと、金色きんいろの大おおきなかたまりが、とびかかってきました。小林こばやし君くんの洋服ようふくの肩かたのところが、ばりばりと音おとをたてました。黄金おうごん豹ひょうが、あと足あしで立たって、前足まえあしを小林こばやし君くんの肩かたにかけたからです。するどい爪つめで、服ふくが破やぶかれたからです。

ムッとするような、くさい動物どうぶつの息いきが、顔かおに吹ふきつけてきました。黄金おうごん豹ひょうの顔かおは、小林こばやし君くんの顔かおに、くっつくばかりに近ちかよっているのです。らんらんとかがやく、まっ青さおな二ふたつの目めが、小林こばやし君くんの目めのすぐ前まえに、近ちかよっているのです。

ああ、小林こばやし少年しょうねんの運命うんめいは、いったい、どうなるのでしょうか。

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