← Library‹ 黄金豹 千年の魔豹

そいつのからだは、電灯でんとうの光ひかりをうけて、まぶしいほどギラギラと、金色きんいろにかがやいていました。恐おそろしく大おおきな豹ひょうです。あと足あしで立たちあがって、前足まえあしを窓まどのしきいにかけ、部屋へやの中なかを、グッと、にらみつけ、まっ赤かな口くちを開ひらいて、「えへへへ……。」と笑わらっているのです。

動物どうぶつは笑わらえないはずです。豹ひょうが人間にんげんのような声こえで笑わらうなんて、聞きいたこともありません。それだけに、なんともいえないほど、きみが悪わるいのです。

小林こばやし、園田そのだ少年しょうねんは、へたへたと、イスにたおれこんだまま、身動みうごきすることもできません。目めは怪獣かいじゅうの方ほうにひきつけられて、そらそうとしても、そらすことができないのです。

怪獣かいじゅうは、ニューッと窓まどの中なかへ、その恐おそろしい顔かおをつきだして、人間にんげんのことばで、ものをいいはじめました。しかし、それは人間にんげんの声こえではなくて、なにかが、すれあうような、ひどくかすれた音おとでした。ささやき声ごえを、ラウド=スピーカーで大おおきくしたような、じつにいやな音おとなのです。

「園田そのだ君くん、きみのおとうさんは、豹ひょうの絵えや豹ひょうのおきものや、豹ひょうの毛けがわや、豹ひょうに関係かんけいのあるものなら、なんでも集あつめているね。それほど豹ひょうがすきなんだね。だからおれは、きみのおとうさんが大だいすきだよ。

ところでね、おれは、おとうさんが、いちばんだいじにしている、豹ひょうのおきものがほしいのだ。きみも知しっているだろう、銀ぎんのおりにはいった金かねの豹ひょうさ。二十にじゅうセンチほどの金かねむくの豹ひょうのおきものさ。それが、銀ぎんでこしらえた、かわいらしいおりの中なかにはいっている、あれだよ。純金じゅんきんのめかただけでもたいしたものだが、からだの黒くろいはんてんには、とびきりの黒くろメノウがちりばめてある。それよりも目めだよ。あの金かねの豹ひょうの二ふたつの目めはダイヤモンドだ。一ひとつが三さんカラット以上いじょうもある青あおダイヤだ。二ふたつのダイヤだけでも何百なんびゃく万まん円えんという値ねうちだよ。

あのかわいらしい豹ひょうは、まっ赤かな口くちを開ひらいているが、その口くちの中なかには、ルビーがならべてあるのだ。

それに、豹ひょうの彫刻ちょうこくがたいしたものだ。日本にっぽん一いちの名人めいじんが作つくった美術びじゅつ品ひんだからね。おとうさんは、けっして、あれを売うらないだろうが、もし売うれば、何千なんぜん万まん円えんというしろものだ。おれは、あれをもらいたいのだよ。いや、もらうことにきめたのだよ。

おとうさんに、そういっておいてくれ。二に、三み日かのうちに、かならず、もらいにくるからってね。おれは、千せん年ねんのこうをへた魔法まほうの豹ひょうだ。だから、こうして、人間にんげんのことばもしゃべれるのだよ。おとうさんが、いくら用心ようじんしても、きっと、盗ぬすみだしてみせる。おまわりさんが、何なん人にんきたって、おれは、ちっともこわくない。おれは魔法まほう使つかいだからねえ。へへへ……、それじゃ、約束やくそくしたよ。おとうさんによろしく。……あばよ。」

怪獣かいじゅうは、なにかをすりあわせるような、異様いような声こえで、しゃべりたいだけしゃべってしまうと、サッと、窓まどのそばから身みをひいて、庭にわの闇やみの中なかに、姿すがたをかくしてしまいました。

ふたりの少年しょうねんは、怪獣かいじゅうが見みえなくなっても、しばらくは、からだがすくんで、立たちあがることもできませんでしたが、やっと元気げんきを出だして、部屋へやをとびだすと、園田そのだ君くんのおとうさんの部屋へやにかけつけて、今いまの恐おそろしいできごとを知しらせました。

そこで、うちじゅうが、おおさわぎになり、すぐに警察けいさつへ電話でんわをかけたものですから、近ちかくをまわっていたパトロール=カーがやってきて、大おおぜいの警官けいかんが、手てに手てにピストルをかまえ、懐中かいちゅう電灯でんとうをふりてらして、広ひろい庭にわのすみからすみまで捜さがしまわりました。しかし、ついに黄金おうごんの豹ひょうを発見はっけんすることはできませんでした。怪獣かいじゅうは、またしても忍術にんじゅつを使つかって、消きえうせてしまったのです。

おとうさんの園田そのださんは、いちばんだいじにしている純金じゅんきんの豹ひょうを、怪獣かいじゅうが盗ぬすみにくるというので、心配しんぱいでしかたがありません。それからというものは、毎日まいにち、五ご人にんの警官けいかんが、園田そのださんのやしきの、うち外そとを見みはってくれることになりましたが、それでも、まだ安心あんしんできないので、大学だいがくにかよっている、ふたりの書生しょせいのほかに、会社かいしゃから、柔道じゅうどうの段だんを持もっている社員しゃいんをふたりよんで、とまりこみで、番ばんをさせることにしました。

それから、園田そのださんのしたしい友ともだちが、せわをしてくれた、庭にわばんのじいやの助造すけぞうというのが、なかなか、腕うでっぷしが強つよくて、先さきのとがった長ながい鉄棒てつぼうを持もって、庭にわをぐるぐるまわることにしました。もし黄金おうごん豹ひょうがあらわれたら、その鉄棒てつぼうでつき殺ころしてやるのだと、おそろしくはりきっています。

園田そのださんのやしきには、大おおきな絵画かいが室しつがあって、そこに、日本にっぽん画がと西にし洋画ようがの豹ひょうの絵えばかりが、たくさん、かけならべてあるのですが、怪獣かいじゅうにねらわれた純金じゅんきんの豹ひょうのおきものは、その絵画かいが室しつのまん中なかの、ガラスばりの陳列ちんれつ台だいの中なかに、入いれてあるのです。でも、そんなところへ出だしておいてはあぶないので、どこかへかくさなければなりません。園田そのださんは、そのかくし場所ばしょを、いろいろ考かんがえたすえ、じぶんの寝室しんしつの縁えんの下したへ、うずめることにしました。

しかし、かくしたことを、怪獣かいじゅうに気きづかれてはたいへんですから、だれにも知しられないように、仕事しごとをしなければなりません。といって、園田そのださんひとりで縁えんの下したをほることはむずかしいので、そういうことになれた、庭にわばんの助造すけぞうじいさんだけに、てつだわせることにしました。ほかのうちの人ひとや、警官けいかんなどには、すこしも知しらせないつもりです。武夫たけお君くんでさえ、あとになって、やっとそれがわかったほどです。

園田そのださんは、なぜ名めい探偵たんてい明智あけち小五郎こごろうに相談そうだんしなかったのでしょうか。園田そのだ武夫たけお君くんは少年しょうねん探偵たんてい団だんの副ふく団長だんちょうですから、小林こばやし団長だんちょうといっしょになって、しきりにそれをすすめたのですが、園田そのださんは、警察けいさつがまもってくれるから、だいじょうぶだといって、明智あけち探偵たんていにたのもうとしませんでした。あとになって、たのまなかったことを、たいへん後悔こうかいしましたが、もうそのときはおそかったのです。

純金じゅんきんの豹ひょうの入いれてある銀ぎんのおりは、はば三十さんじゅうセンチ、高たかさ二十にじゅうセンチほどの、小ちいさなものですが、まず、それをビニールで、いくえにもつつみ、頑丈がんじょうな木箱きばこに入いれました。かくし場所ばしょは、園田そのださんの寝室しんしつの日本にっぽんざしきの、縁えんの下したです。たたみをあげ、ゆか板いたをはずして、そこへ助造すけぞうじいさんがシャベルを持もってはいり、下したの土つちを深ふかくほって、木箱きばこをその穴あなの底そこへうずめ、上うえから、もとのとおりに土つちをかぶせたのです。

園田そのださんは、二に、三み日かのあいだ、その寝室しんしつから外そとへ出でないことにしました。食事しょくじもそこへ持もってこさせ、洗面せんめん器きや水みずをそこへはこばせて、顔かおも、部屋へやの中なかであらうという、用心ようじんぶかさです。つまり、純金じゅんきんの豹ひょうの箱はこをうずめた、たたみの上うえにすわりつづけ、夜よるはそこへふとんをしかせて寝ねるわけです。

そして、その寝室しんしつのまわりの、うちの中なかには、ふたりの書生しょせいと、ふたりの社員しゃいんが、たえず見みはりをしていますし、武夫たけお君くんも、武夫たけお君くんのおかあさんも、大おおぜいの女中じょちゅうたちも、みんなこちらのみかたです。さらに家いえのまわりの庭にわには、五ご人にんの警官けいかんが歩あるきまわり、鉄棒てつぼうを持もった助造すけぞうじいさんが、目めを光ひからせています。寸分すんぶんのすきまもない厳重げんじゅうな警戒けいかいです。

これほど用心ようじんをすれば、いくら怪獣かいじゅうでも、どうすることもできないだろうと、園田そのださんは、ひとまず安心あんしんしていたのですが、なにしろ、相手あいては千せん年ねんのこうをへた怪獣かいじゅうです。どんな魔法まほうを使つかって、純金じゅんきんの豹ひょうを盗ぬすみださないものでもありません。安心あんしんするのはまだ早はやいようです。

それが証拠しょうこに、黄金おうごん豹ひょうが武夫たけお君くんの部屋へやの窓まどの外そとに、あらわれたあくる日ひから、園田そのださんのやしきには、じつにきみの悪わるい、恐おそろしいできごとが、つぎつぎとおこるのでした。

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