← Library‹ 黄金豹 豹のゆくえ

武夫たけお君くんは少年しょうねん探偵たんてい団だんの副ふく団長だんちょうで、なかなか勇気ゆうきのある子こどもでしたから、それを見みても、すぐには逃にげださないで、部屋へやのすみの安楽あんらくイスのうしろに身みをひそめて、じっとようすを見みていました。

豹ひょうは、ぐるぐると部屋へやの中なかを歩あるきまわっていましたが、やがて、だんだん、こちらへ近ちかづいてくるのです。武夫たけお君くんは、気きづかれたのではないかと、ギョッとして、からだをちぢめました。大おおきな安楽あんらくイスのうしろの、せまいすきまですから、すぐにはとびかかれませんが、でも、武夫たけお君くんがかくれていられるくらいですから、豹ひょうだって、はいれないことはありません。

イスのかげから目めばかり出だして、じっと見みていますと、豹ひょうは、のそりのそりと、こちらへやってきます。そのあいだが、もう二にメートルほどの近ちかさになりました。

武夫たけお君くんのからだじゅうに、つめたい汗あせが、にじみだしました。顔かおはもう、まっ青さおです。でも、目めをそらすことができません。じっと豹ひょうの顔かおをにらみつけていました。

その恐おそろしい豹ひょうの顔かおが、ジリッ、ジリッと近ちかづいてきます。もう一いちメートルになりました。まるで映画えいがの大おおうつしのように、目めの前まえいっぱいに、その金色きんいろの顔かおがひろがって見みえるのです。青あおく、燐りんのように光ひかる目めが、じっとこちらをにらんでいます。まっ赤かな口くちが、すこし開ひらいて、白しろい牙きばが見みえています。

あの口くちが、いまにも、ガッと開ひらいて、とびかかってくるのではないかと思おもうと、武夫たけお君くんはもう、生いきたここちもありません。全身ぜんしん、汗あせがびっしょりになって、心臓しんぞうが、どきん、どきんと、恐おそろしい早はやさで、うっています。口くちの中なかが、からからにかわいて、叫さけぶことも、どうすることもできません。

豹ひょうの顔かおは、もう五十ごじゅうセンチほどに近ちかづきました。そして、ごろごろと、のどをならしていましたが、いきなり、まっ赤かな口くちを、ガッと開ひらきました。黒くろっぽい舌したが、口くちの中なかで、へらへら動うごいています。

武夫たけお君くんは、もうだめだと思おもいました。いまにあの口くちで、頭あたまからくいつかれるのだと、かんねんしたのです。

「ウオーッ。」豹ひょうは、耳みみもさけるような恐おそろしい声こえで、うなりました。武夫たけお君くんは、もうだめだと、目めをつむってしまいました。

ところがふしぎなことに、いつまでたっても、豹ひょうはとびかかってこないのです。オヤ、へんだなと思おもって、そっと目めをひらいて見みますと、豹ひょうはもう三さんメートルもむこうに、遠とおざかっていました。そして、あと足あしでニューッと立たちあがると、ピョンピョンととぶようにして、ドアの外そとへ出でていくではありませんか。

豹ひょうは、武夫たけお君くんがかくれているのを気きづかなかったのです。あんなに近ちかよってきたのは、武夫たけお君くんを発見はっけんしたからではなかったのです。

武夫たけお君くんは、まだ、からだがふるえていましたが、勇気ゆうきを出だして、そろそろ、かくれ場所ばしょからはい出だし、ドアのそばまでいって、そっと廊下ろうかをのぞいて見みました。

豹ひょうは、やっぱり、あと足あしで立たったまま、ピョンピョンととぶようにして、むこうの角かどをまがっていきます。

武夫たけお君くんは、執念しゅうねんぶかく、そのあとをつけて、廊下ろうかのまがり角かどにいき、のぞいて見みますと、豹ひょうはまたむこうのまがり角かどにかくれました。

そして、どこまでも、あとをつけていきましたが、お勝手かってに近ちかいところで、ふと豹ひょうのすがたを見みうしなってしまいました。そこには、庭にわばんの助造すけぞうじいさんの部屋へやがあります。その部屋へやの戸とは、ピッタリしまっていましたが、ほかに逃にげこむ場所ばしょはありません。豹ひょうはあの戸との中なかにかくれているにちがいないと思おもいました。

武夫たけお君くんは足音あしおとをしのばせて、そこに近ちかづき、入口いりぐちの戸とに耳みみを近ちかづけて、ようすをうかがいましたが、中なかからは、なんのもの音おとも聞きこえません。

しばらくそうして、じっとしていても、なにごともおこらないので、武夫たけお君くんは、戸とのすきまから中なかをのぞいて見みました。しかし、すきまがほそすぎて、なにも見みえません。おもいきって、戸とに指ゆびをかけ、そっと、音おとのしないように、一いちセンチほど開ひらきました。そこに目めをあてて見みますと、助造すけぞうじいさんが、たたみの上うえにすわって、タバコを吸すっているのが見みえました。

じいさんが、のんきそうにタバコを吸すっているからには、部屋へやの中なかに豹ひょうがいないことはたしかです。武夫たけお君くんは、ガラッと戸とをあけて、じいさんに声こえをかけました。

「助じょじいや、たいへんだよ。いま、黄金おうごん豹ひょうがここへきたんだよ。じいや、気きがつかなかった? この部屋へやしか、逃にげこむところはないんだがなあ。」

そして、武夫たけお君くんは、応接おうせつ室しつの毛けがわが生いきた豹ひょうになって逃にげだしたことを、てみじかに話はなしました。

「へえ、毛けがわがねえ。なんて恐おそろしいやつだ。だが、わしはなんにも気きがつきませんでしたよ。どこへいきやがったのかな。この廊下ろうかへきたら、わしの部屋へやのほかには、いきどころがねえはずだからね。」

じいさんは、ふしぎそうな顔かおをして、武夫たけお君くんを見みました。そして、なぜか、ニヤリと笑わらったのです。

武夫たけお君くんは、その笑わらい顔がおを見みると、なんだか、へんな気きもちになってきました。ふと、さっきの豹ひょうは、このじいやに化ばけてしまったのではないかと、とほうもない考かんがえが、浮うかんでくるのでした。

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