← Library‹ 魔法博士 巨人の口

階段かいだんをおりて、懐中かいちゅう電灯でんとうでてらしてみますと、コンクリートの壁かべに、人間にんげんの通とうれるぐらいの穴あなが、あいていることがわかりました。

「あのじいさんは、きっと、この中なかへもぐっていったんだよ。はいってみようか。」

小林こばやし君くんが、ささやきますと、井上いのうえ少年しょうねんは、「うん、はいってみよう。」と答こたえましたが、おくびょうもののノロちゃんは、なにもいいません。懐中かいちゅう電灯でんとうでてらしてみると、青あおい顔かおをしてふるえているのです。

「きみ、こわいの? じゃあ、ひとりで帰かえるかい?」

井上いのうえ君くんが、しかるようにいいますと、ノロちゃんは、泣なきだしそうな顔かおになって、

「だって、ひとりで帰かえるの、いやだよ。きみたちが、いくなら、ぼくもついていくよ。」

と、しぶしぶ答こたえました。あとでおくびょうものと笑わらわれるのが、いやだからでしょう。

そこで、三さん人にんは、その壁かべの穴あなへもぐりこんでいきましたが、せまい穴あなの中なかを、はうようにして進すすんでいきますと、じきに、広ひろい部屋へやのようなところへでました。

そこはもう防空ぼうくう壕ごうではありません。何者なにものかが、防空ぼうくう壕ごうの壁かべをやぶって、そのおくに、広ひろい地底ちていの部屋へやをつくったのです。なんだか、ひどく広ひろい部屋へやのようです。

三さん人にんは、てんでに懐中かいちゅう電灯でんとうをてらしてみましたが、その光ひかりはまっすぐに進すすむばかりで、向むこうの壁かべにいきあたりません。よほど広ひろい部屋へやのようです。

すると、そのとき、小林こばやし少年しょうねんが、「あっ。」と驚おどろきの声こえをたてました。やみの中なかから、まっ黒くろな手てのようなものが、ヌーッとでて、小林こばやし君くんの懐中かいちゅう電灯でんとうを、うばいとってしまったからです。

それから、その黒くろい手ては、じつに、すばやくはたらいて、井上いのうえ君くんとノロちゃんの懐中かいちゅう電灯でんとうも、うばいとってしまいました。

三みつの電灯でんとうが、つぎつぎと消きえさって、あたりは、真しんのやみとなったのです。

「だれだ! そこにいるのは、だれだっ!」

小林こばやし君くんが、叫さけびました。しかし、なんのてごたえもありません。やみの中なかに、やみよりも黒くろいやつが、息いきをころして、かくれているのです。

ノロちゃんは、井上いのうえ君くんのからだに、しがみついていました。そして、ガタガタふるえているのです。

「ね、逃にげだそうよ。はやく、はやく逃にげようよ。」

しかし、おとうさんからボクシングをならって、腕うでにおぼえのある井上いのうえ君くんは、びくともしません。こわがるノロちゃんの肩かたをしっかりだいてやって、じっと、やみの中なかに立たちはだかっていました。

すると、またしても、ふしぎなことがおこったのです。十じゅうメートルも向むこうの空中くうちゅうに、ぼんやりと、まるい光ひかりがあらわれました。懐中かいちゅう電灯でんとうのような白しろい光ひかりではありません。なにか色いろのついた、ふしぎな形かたちのゾーッとするような光ひかりです。

三さん人にんは、おもわず、それを見みつめました。

やがて、その光ひかりは、映写えいしゃ機きのピントをあわせるように、だんだん、はっきりしてきました。

さしわたし一いちメートルもあるような、恐おそろしく大おおきな魚さかなの形かたちです。ぜんたいが白しろっぽくて、そのまんなかに、丸まるい茶色ちゃいろのものがあり、その中心ちゅうしんに、小ちいさな丸まるい穴あながあって、そこから、強つよい光ひかりが、チカッ、チカッと、こちらへとびだしてくるのです。

ああ、わかった。魚さかなではありません。巨大きょだいな人間にんげんの目めです。一いちメートルもある人間にんげんの目めです。そのまわりには、太ふといまっ黒くろな毛けが、シャクシャクとはえています。まつげです。そして、その巨大きょだいな目めが、ときどきパチッパチッと、まばたきをするのです。あの光ひかりのとびだしてくる小ちいさな丸まるい穴あなは、ひとみです。そのまわりに、茶色ちゃいろのかさのようにひろがっているのは、黒目くろめの部分ぶぶんです。その外そとが白目しろめ。その白目しろめのすみに、まっかな血管けっかんが、きみ悪わるくうねっています。

まっ暗くらな中なかに、その巨大きょだいな一ひとつの目めだけがあらわれて、こちらを、にらみつけているのです。一ひとつ目め小僧こぞうのおばけには顔かおがありますが、こいつには、顔かおがないのです。ただ目めばかりが、空中くうちゅうにただよっているのです。

三さん人にんの少年しょうねんは、それを見みると、あまりの恐おそろしさに、おもわず、あとじさりをして、入口いりぐちの方ほうへ、逃にげようとしました。ところが、いつのまにか、入口いりぐちの穴あながなくなっていたのです。いくら手てさぐりをしても、コンクリートの壁かべばかりで、どこにも穴あながないのです。

三さん人にんは、やみの中なかで、ひとかたまりになって、その巨人きょじんの目めを、見みつめていました。見みまいとしても、磁石じしゃくでひきつけられるように、しぜんと目めがそのほうをむくのです。

すると、またしても、恐おそろしいことがおこりました。

やみの中なかに、パッと、もう一ひとつ巨大きょだいな目めが、あらわれたのです。巨人きょじんの目めが二ふたつならんだのです。そして、むちのような太ふとい、まっ黒くろなまつげにおおわれた、その二ふたつの目めが、パチッ、パチッと、まばたいているのです。

逃にげ場ばをうしなった少年しょうねんたちは、やみの中なかで、ただ、おたがいのからだをだきあって、じっとしているほかはありませんでした。

やがて、こんどは、二ふたつの目めの、ずっと下したの方ほうに、ふとんを二に枚まいかさねたような、まっかなものが、ぼーっとあらわれてきました。巨大きょだいなくちびるです。その横よこはばは、二にメートルもあります。あつぼったい、まっかなくちびるです。

それから、向むこうの壁かべぜんたいが、ぼんやり白しろくなってきました。どこからか、光ひかりがあたっているのです。そして、そこに、びっくりするような巨大きょだいな顔かおが、浮うきあがってきたのです。六ろく畳じょうじきの部屋へやほどの人間にんげんの顔かおです。

太ふといまっ黒くろなまゆ、それも二にメートルにちかい長ながさです。その下したに、さっきから、あらわれていた二ふたつの目めが光ひかっています。小鼻こばなのひらいた大おおきな鼻はな、そしてあの、ふとんをかさねたような巨大きょだいなまっかなくちびるです。

その顔かおのあごは地面じめんについています。すると、巨人きょじんのからだは、いったい、どこにあるのでしょう。地面じめんの中なかに、うずまっているのでしょうか。いや、そうではありません。あとでわかったのですが、この奈良ならの大仏だいぶつさまのような巨人きょじんは、はらばいに寝ねそべっていたのです。そして、あごを地面じめんにつけて、顔かおをこちらにむけていたのです。

そのとき、畳たたみ一いち畳じょうほどの巨大きょだいなくちびるが、ガッとひらいて、白しろい牙きばのような歯はが、むきだしになりました。その歯はの一ひとつ一ひとつが、ランドセルほどの大おおきさです。歯はのおくには、黒くろっぽい巨大きょだいな舌したが、うねうねと、うごめいています。

すると、やみの中なかに、にわかに強つよい風かぜが吹ふきおこりました。巨人きょじんが三さん人にんの少年しょうねんを、口くちの中なかへ吸すいこもうとしているのです。その息いきが、風かぜのように強つよいのです。

三さん人にんは、その風ふうに吸すいつけられまいとして、ひっしに、がんばりました。しかし、いくらがんばっても三さん人にんのからだは、ジリジリと、巨人きょじんの口くちのほうへ近ちかづいていくのです。風かぜばかりではありません。なにか、目めに見みえぬ、黒くろい手てのようなものが、うしろから、少年しょうねんたちのからだを、おしています。それが、グングンおしてくるので、もう、どうすることもできません。三さん人にんは、みるみる、巨大きょだいな口くちの前まえに近ちかづき、小林こばやし君くんがさいしょに、そのまっかなくちびると白しろい歯はの中なかへ、のめりこんでしまいました。そして、井上いのうえ君くんも、ノロちゃんも、そのあとから、つぎつぎと巨人きょじんの口くちにのまれていきました。

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