← Library‹ 魔法博士 巨大なもの

三さん少年しょうねんは、とらわれの身みですから、いやだと思おもっても逃にげるわけにいきません。怪かい黒人こくじんのいうとおり、そのあとに、ついていくほかはないのです。

暗くらいトンネルには、いくつも枝道えだみちがあります。そのひとつをまがって、しばらくいきますと、コンクリートの階段かいだんがあって、それをのぼり、やがて広ひろい場所ばしょに出でました。

それは洞窟どうくつではなくて、てんじょうの高たかい、広ひろい廊下ろうかのようなところでした。ここはもう地上ちじょうなのかもしれませんが、うす暗ぐらくて、ガランとしているので、まるで地下ちか鉄てつのプラットホームみたいなかんじです。てんじょうも壁かべも床ゆかも、コンクリートでできていて、いっぽうの壁かべにそって、ずっと部屋へやが並ならんでいるらしく、いくつもドアが見みえています。

高たかいところに、小ちいさな電灯でんとうがついているだけで、うす暗ぐらく、向むこうの方ほうは、よく見みえないほどです。

さきに立たっていた怪かい黒人こくじんは、その広ひろい廊下ろうかのまんなかに立たちどまって、三さん人にんの少年しょうねんをふりむき、きみ悪わるくニヤリと笑わらいました。

「さあ、ここで、待まっているんだ。いまに、ふしぎなものが、あらわれるからね。」

そういって、かれは、うす暗ぐらい廊下ろうかのつきあたりの方ほうを、じっと見みつめています。三さん少年しょうねんも、つい、その方ほうを、ながめないではいられませんでした。

外そとは、ひえびえとつめたくて、シーンと、しずまりかえっています。なにか恐おそろしいことが、おこりそうです。あのうす暗ぐらい向むこうの方ほうから、とほうもないばけものが、あらわれてくるのではないでしょうか。

三さん人にんが、目めをこらして、その方ほうを見みていますと、やがて、ずっと向むこうの廊下ろうかのつきあたりに、なにか、もやもやと、動うごいているものがあります。暗くらくて、よくわかりませんが、ネズミ色いろの、ぼやっとした、ひどく大おおきなものです。

そのとき、三さん人にんは、ぎょくんと、心臓しんぞうがのどのところまで、とびあがるような気きがしました。なんともいえない、恐おそろしい音おとがしたからです。

ふつうのラッパの百ひゃく倍ばいもあるような大おおきなラッパが、ガーッと、なったような音おとでした。しかも、ラッパのような、ほがらかな音おとではありません。いんきな、しわがれた音おとで、しかも、つんぼになるような、とほうもなく大おおきな音おとなのです。

三さん人にんの少年しょうねんは、おたがいによりそって、いつでも逃にげだせるように、身みがまえしていました。しかし目めは、向むこうの暗くらやみに、釘くぎづけになっているのです。

暗くらやみの中なかの、もやもやしたものが、だんだん、はっきりしてきました。そのものが、こちらへ近ちかづいてきたからです。それは人間にんげんの何十なんじゅう倍ばいもあるような、大おおきなものでした。そいつは、生いきているのです。巨大きょだいなからだを、ゆすぶりながら、こちらへ歩あるいてくるのです。

耳みみが見みえました。犬いぬの耳みみの百ひゃく倍ばいもある、おそろしく大おおきな耳みみです。その耳みみが、うちわのように、ハタハタと動うごいています。

からだにくらべて、ひどく小ちいさな目めがふたつ、やみの中なかに光ひかっています。白しろい大おおきな二に本ほんの牙きばが見みえます。そして、その牙きばと牙きばとのあいだに、なんだか、太ふといネズミ色いろの棒ぼうのようなものが、ダランとさがっています。それが、グーッと、こちらの方ほうへ、のびてくるように見みえるのです。

足あしが見みえました。ひとかかえもある大木たいぼくのような、太ふとい足あしです。それが、ズシン、ズシンと、地じひびきをたてて、近ちかづいてくるのです。

「あっ、ゾウだっ!」

小林こばやし君くんが、おもわず叫さけびました。それはゾウでした。巨大きょだいなゾウが、コンクリートの廊下ろうかを歩あるいてくるのでした。さっきの恐おそろしい音おとは、ゾウのうなり声ごえだったのです。それにしても、こんなところにゾウがいるなんて、おもいもよらないことでした。これがほんとうのゾウでしょうか。やっぱり、魔法まほう博士はかせの幻術げんじゅつではないのでしょうか。

「わかったかい。ゾウだよ。魔法まほうの国くにには、どんな動物どうぶつだっているのさ。」

怪かい黒人こくじんが、笑わらいながら、いうのでした。

しかし、巨きょゾウには、ゾウ使つかいが、ついているのではありません。ひとりで、歩あるいてくるのです。足あしにくさりがついているわけでもありません。

三さん少年しょうねんは、ゾウがおこって、鼻はなで巻まきあげたり、足あしでふんだりするのではないかと、恐おそろしくなってきました。

「だいじょうぶだよ。逃にげたりしたら、かえってあぶないよ。」

ノロちゃんが、逃にげだしそうになったので、小林こばやし君くんが、その手てをとって、ひきとめました。

そのうちに、ゾウはズシン、ズシンと、もう三さんメートルほどに、近ちかづいてきました。恐おそろしく大おおきなやつです。長ながい鼻はなが、グーッと、こちらへのびてきました。

そして、あっとおもうまに、その鼻はなが、怪かい黒人こくじんにクルクルと巻まきついたかとおもうと、黒人こくじんは、ゾウの頭あたまの上うえに持もちあげられていました。

たいへんです。もし、そのまま、地面じめんに投なげつけられたら、黒人こくじんは死しんでしまうかもしれません。

三さん少年しょうねんが、それを見みて、手てに汗あせをにぎっていますと、ゾウの鼻はなは、黒人こくじんを大おおきな頭あたまの上うえまで持もちあげると、そこでそっとはなしました。すると、黒人こくじんは、なれたもので、ひょいと、ゾウの頭あたまと背中せなかのあいだに、うまのりになりました。そして、ニコニコしながら、ゾウの耳みみのうしろのへんを、ひら手てで、ペタペタたたいています。

そのとき、ゾウは、長ながい鼻はなを、上うえの方ほうに高たかくのばして、ゴーッと、うなりました。あのラッパを百ひゃく倍ばいにしたような恐おそろしい声こえです。

それから、高たかくあげていた鼻はなをおろして、そのまま、グーッと、こちらに向むけてきました。その鼻はなは、三さん少年しょうねんのうちのだれかを、ねらっているのです。

少年しょうねんたちは、ぎょっとして逃にげだしました。三さん人にんのうちで、いちばんすばやいのは、ノロちゃんでした。しかし、巨きょゾウの足あしは、もっと、はやかったのです。長ながい鼻はなが、ヌーッとノロちゃんの方ほうへ、のびてきました。

ノロちゃんが、逃にげながら振ふりむきますと、うす黒ぐろい、ぐにゃぐにゃしたゾウの鼻はなが、すぐ目めの前まえにせまっていました。

「キャーッ、たすけてくれ……。」

ノロちゃんは、まっさおになって、恐おそろしい叫さけび声ごえをたて、もう、逃にげる力ちからもなくなって、その場ばに立たちすくんでしまいました。

ゾウの鼻はなは、大おおきなヘビのように、ノロちゃんのからだに、巻まきついてきました。そして、ぎゅっとしめつけられたかとおもうと、ノロちゃんは、もう宙ちゅうに浮うきあがっていました。

「ワ、ワ、ワ、ワ……。」

ノロちゃんは、気きでもちがったように、わけのわからぬ声こえをたてながら、もがきました。しかし、いくらあばれても、ゾウの鼻はなは、はなれません。

そのありさまを見みると、小林こばやし、井上いのうえの二に少年しょうねんも、ノロちゃんの足あしをつかんで、ひきもどそうとしましたが、とてもかないません。たちまちノロちゃんは、ゾウの頭あたまの上うえまで、持もちあげられてしまいました。

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