← Library‹ 魔法博士 奇々怪々

ところが、それから二ふた日かめの朝あさになると、さすがのおとうさんも、とうとう、不二夫ふじお君くんの話はなしを信しんじないではいられぬような、できごとがおこりました。

怪人かいじんから電話でんわがかかってきたのです。おとうさんを、電話でんわ口くちに呼よびだして、あの歯車はぐるまのきしむようなぶきみな声こえで、不二夫ふじお君くんにいったのと同おなじことばを、くりかえしたのです。

「きみはいったい、だれだ? あんなものを盗ぬすんで、どうしようというのだ、売うろうとすれば、すぐにつかまってしまうぞ。」

「ウフフフ、おれは、金きんがほしいのじゃない。グーテンベルクの聖書せいしょそのものが、ほしいのだ。かならず、もらいにいくよ。」

やっぱり、不二夫ふじお君くんが想像そうぞうしたとおりでした。

「あれは、金庫きんこの中なかにしまってある。わしのほかには、だれにも、あけられない金庫きんこだ。魔法まほうでもつかわなければ、盗ぬすみだせるものじゃない。」

「ところが、おれは、その魔法まほうをつかうのだよ。ウフフフ……、まあ、せいぜい、用心ようじんするがいい。」

そして、電話でんわは、プッツリきれてしまいました。

これで、不二夫ふじお君くんが見みたのは、まぼろしでないことがわかりました。おとうさんも、すこし、きみが悪わるくなってきたものですから、すぐ警察けいさつにとどけることにしました。すると、三さん人にんの警官けいかんがやってきて、蔵くらの内うちと外そとを、見みはってくれることになりました。

不二夫ふじお君くんは不二夫ふじお君くんで、このことを電話でんわで、少年しょうねん探偵たんてい団だんの小林こばやし団長だんちょうにしらせますと、その日ひの午後ごごには、小林こばやし少年しょうねんが四よん人にんの団員だんいんをつれて、かけつけてくれましたが、なんと、その四よん人にんのなかに、井上いのうえ少年しょうねんと野呂のろ少年しょうねんもまじっていたではありませんか。これはどうしたことでしょう。井上いのうえ、野呂のろの二に少年しょうねんは、あやしい西洋せいよう館かんにとじこめられているはずでした。では、もう、あの西洋せいよう館かんから逃にげだしてきたのでしょうか。しかし、それなら、あのできごとを小林こばやし団長だんちょうに話はなすはずです。ところが、二に少年しょうねんはなにもいわないのです。まるで、なにごともなかったような顔かおをしています。なんだか、おかしいではありませんか。いったい、これはどうしたわけなのでしょう。

怪人かいじんは三み日かのうちに、もらいにいくというのですから、今日きょうにもやってくるかもしれません。それには、やっぱり夜よるがあぶないのです。そこで、みんなは、夕ゆうがたから持もち場ばをさだめて、金庫きんこの番ばんをすることにしました。

小林こばやし団長だんちょうと四よん人にんの少年しょうねんと、不二夫ふじお君くんとは、みんな蔵くらの中なかにはいって、すみずみに身みをかくし、金庫きんこをまもることになりました。不二夫ふじお君くんのおとうさんの山下やましたさんも蔵くらの中なかにはいって、扉とびらをピッタリしめ、その入口いりぐちにいすをおいて、がんばっているのです。三さん人にんの警官けいかんは、蔵くらのまわりの庭にわを警戒けいかいすることにしました。

庭にわはもう、夕ゆうやみにつつまれています。そのうす暗ぐらい木立こだちの中なかを、三さん人にんの警官けいかんは、四方しほうに目めをくばりながら、グルグル歩あるきまわっていました。

「おやっ、あれはなんだろう。ネズミぐらいの大おおきさだが、あんな金色きんいろのネズミはないよ、ほら、あの蔵くらの窓まどの下しただ。」

ひとりの警官けいかんが、目めばやく、それを見みつけて、ほかのふたりにしらせました。

三さん人にんの警官けいかんは、おもわず立たちどまって、そのほうを見みつめました。うす暗ぐらい中なかにも、蔵くらの白しろっぽい壁かべは、まだよく見みえます。その壁かべを、金色きんいろの小ちいさなものが、スルスルと、よじ登のぼっているでは、ありませんか。

よく見みると、けものでも、鳥とりでも、虫むしでもありません。人間にんげんの形かたちをしているのです。二十にじゅうセンチぐらいの、金色きんいろの西洋せいようのよろいを着きたこびとです。顔かおも頭あたまも金色きんいろです。

「あいつだ。ここのうちの子こどものいったのは、ほんとうだった。あんな小ちいさなこびとにばけてしのびこもうとしているんだ。」

「よし、ひっつかまえろ!」

三さん人にんは、蔵くらの壁かべにむかってかけだしました。しかし、小しょう怪人かいじんのほうが、すばやかったのです。警官けいかんたちが五ごメートルも走はしらぬうちに、金色きんいろのこびとは、スルスルと窓まどによじ登のぼって、鉄てつごうしの間あいだから、蔵くらの中なかへ消きえてしまいました。鉄てつごうしの内うちがわには、ガラス戸とがしまっているはずなのに、それをとおりぬけて、中なかへはいってしまったのです。

一いち階かいの窓まどでも、地面じめんからは高たかいところにあるので、台だいがなければ、とても、中なかをのぞくことはできません。警官けいかんたちはしかたがないので、その窓まどの下したから声こえをそろえてどなりました。

「金色きんいろのこびとが、窓まどからはいりました。用心ようじんしてください!」

蔵くらの中なかへ、その声こえが、かすかに聞きこえましたので、山下やましたさんと六ろく人にんの少年しょうねんは、はっと身みがまえをして、キョロキョロと、あたりを見みまわしました。

蔵くらの中なかは、もうまっ暗くらですから、電灯でんとうがつけてあります。その明あかるい光ひかりで、すみずみまで、よく見みえるのです。

すると、そのとき、窓まどの下したの本棚ほんだなと本棚ほんだなの切きれめになっている、くぼんだところから、金色きんいろのものが、パッととびだして、まんなかの大だい金庫きんこのうしろへかくれました。黄金おうごん怪人かいじんです。こびとになって、窓まどからしのびこんだ怪人かいじんは、中なかへはいると、子こどもぐらいの大おおきさになって、本棚ほんだなのくぼみから、とびだしてきたのです。

蔵くらのすみずみにかくれていた少年しょうねん団員だんいんたちは、小林こばやし団長だんちょうをまっ先さきに、それぞれ、かくれ場所ばしょから、大だい金庫きんこの方ほうへかけよろうとしましたが、そのとき、金庫きんこのうしろから、ふたたび、姿すがたをあらわした怪人かいじんを見みると、あっと立たちすくんでしまいました。それはもう子こどもではなくて、見みるも恐おそろしい、あのおとなの黄金おうごん怪人かいじんだったからです。

全身ぜんしん、金色きんいろにかがやく怪物かいぶつが、大だい金庫きんこの正面しょうめんに、こちらを向むいて立たちはだかり、両手りょうてをふりうごかして、歯車はぐるまのきしるような声こえで笑わらっているのです。まっ黒くろな三み日か月がつがたの口くちがキューッとまがって、おばけのような黄金おうごん仮面かめんが、笑わらっているのです。

「きさま、金庫きんこに手てをかけたら、これをぶっぱなすぞっ!」

入口いりぐちの近ちかくにいた山下やましたさんが、いつのまに用意よういしたのか、ピストルをかまえて、怪人かいじんにねらいをさだめていました。

しかし、なんのききめもありません。怪人かいじんはそれを見みると、いっそう、歯車はぐるまの音おとを高たかくして笑わらいつづけるのです。

そのとき、どうしたわけか、パッと電灯でんとうが消きえて蔵くらの中なかは、まっ暗くらになってしまいました。停電ていでんでしょうか。いや、そうではありません。何者なにものかが、一方いっぽうの壁かべについているスイッチをおしたのです。

「だれだっ? 電灯でんとうを消けしたのは、はやくだれか、そこのスイッチをいれるんだ。」

山下やましたさんが叫さけびましたが、不二夫ふじお君くんは、遠とおくにいましたし、ほかの少年しょうねんたちは、スイッチの場所ばしょをしりませんので、やみの中なかをウロウロするばかりです。

そのときやみの中なかから、きみの悪わるい歯車はぐるまのような声こえがひびいてきました。

「グーテンベルクの聖書せいしょは、たしかにちょうだいした。諸君しょくん、あばよ!」

それをきくと、山下やましたさんは、ものをもいわず、スイッチのところへ走はしっていって、それをおしました。

蔵くらの中なかが、パッと、もとの明あかるさになりました。大だい金庫きんこの扉とびらはしまったままで、べつに異常いじょうはありません。そして、怪人かいじんの姿すがたは、もうどこにも見みえませんでした。かき消けすように、いなくなってしまったのです。

山下やましたさんは少年しょうねんたちといっしょに、蔵くらの中なかを、グルグルまわって怪人かいじんをさがしましたが、金庫きんこのうしろにも、本棚ほんだなのくぼみにも、怪人かいじんの姿すがたは見みえません。煙けむりのように消きえてしまったのです。

なんという奇々きき怪々かいかいのできごとでしょう。黄金おうごん怪人かいじんはだんだん小ちいさくなったり、だんだん大おおきくなったり、自由じゆうじざいに、からだの大おおきさをかえることができるのです。小ちいさくなったときには、ネズミぐらいの大おおきさですから、ほんのわずかのすきまから、逃にげだすことができます。いま、消きえうせたのも、急きゅうにからだを小ちいさくして、窓まどの鉄てつごうしのすきまから、逃にげだしたのかもしれません。

もし、からだをそんなに大おおきくしたり、小ちいさくしたりするやつがあるとすれば、それは、ばけものです。しかし、このお話はなしは怪談かいだんではありません。おばけや幽霊ゆうれいのお話はなしをしているのではありません。この奇々きき怪々かいかいのできごとには、なにかわけがあるのです。手品てじなのようなしかけがあるのに、ちがいありません。では、それはどんな手品てじななのでしょうか。

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