← Library‹ 魔法博士 笑う怪人

山下やましたさんはいそいで、金庫きんこの前まえにいってしらべてみましたが、金庫きんこの扉とびらはちゃんとしまっていて、かぎもかかったままでした。しかし、怪人かいじんは、たしかに盗ぬすみだしたといいました。では、あいつは魔法まほうの力ちからで、扉とびらもひらかないで、中なかのものを取とりだすことができたのでしょうか。

山下やましたさんは、じぶんだけが知しっている、暗号あんごうのダイヤルをまわして、扉とびらをひらき、中なかをしらべてみました。

「なあんだ。聖書せいしょはちゃんと、ここにあるじゃないか。」

金庫きんこの中なかの棚たなに、聖書せいしょをいれた、うすべったい桐きりの箱はこがおいてあります。山下やましたさんはその桐きりの箱はこをとりだして、中なかを見みますと、聖書せいしょは一いち枚まいもなくなっていないことが、わかりました。

「あいつ、盗ぬすめなかったもんだから、まけおしみをいって、逃にげだしたんだな。」

山下やましたさんは、そばにいる少年しょうねん探偵たんてい団だん員いんたちの顔かおを見みて笑わらってみせました。少年しょうねんたちも、ざまをみろといわぬばかりに、声こえをそろえて笑わらいました。

すると、その笑わらい声ごえが、まだ消きえないうちに、またしても、とつぜん、蔵くらの中なかが、まっ暗くらになってしまいました。だれかが、スイッチをきったのです。

黄金おうごん怪人かいじんは、あんなことをいって、ゆだんさせておいて、まだ、蔵くらの中なかにかくれていたのかもしれません。それをおもうと、みんなゾーッとして、シーンとしずまりかえってしまいました。スイッチのところへいくのも、恐おそろしいのです。みんなが、ためらっているあいだに、だれかスイッチをおしたのか、カチッと音おとがして、ふたたび電灯でんとうがつきました。見みると金庫きんこの向むこうがわに、あの金色きんいろのものすごいやつが、ヌーッと立たちはだかっているではありませんか。

怪人かいじんはそこに立たちはだかったまま、恐おそろしい顔かおで、だまってこちらをにらんでいます。そして山下やましたさんや少年しょうねんたちと怪人かいじんとの、息いきづまるようなにらみあいが、一いち分ふんほどもつづきました。そのあいだ、だれも身みうごきさえしなかったのです。

「ウヘヘヘヘ……。」

怪人かいじんが、三日月みかつきがたの口くちを大おおきくひらいて、機械きかいのような声こえで笑わらいました。そして、本棚ほんだなのガラス戸との並ならんだまえを、ツーッと、スイッチのある壁かべの方ほうへ走はしったかとおもうと、パチッと、また電灯でんとうが消きえました。

それと同時どうじでした。

「あっ、やられたっ! 聖書せいしょをとられた。はやく、スイッチを!」

山下やましたさんの、とんきょうな叫さけび声ごえが、暗くらやみの中なかにとどろいたのです。

「ウヘヘヘヘ……、どうだ。おどろいたか。さっき盗ぬすんだといったのは、きみに金庫きんこをひらかせる手てだったのさ。これがおれの魔法まほうだよ。いくらおれでも、扉とびらをひらかないで、金庫きんこの中なかのものは取とりだせないからね。ウヘヘヘヘ……。」

きみの悪わるい笑わらい声ごえが、聞きこえているあいだは、だれもスイッチに近ちかよる勇気ゆうきがありません。ただ、じっと、からだをかたくして立たちすくんでいるばかりでした。

怪人かいじんはそれっきり、声こえをたてませんでした。まっ暗くらで、どこにいるかわかりません。もう逃にげだしてしまったのかもしれません。それから一いち分ふんほどして、やっと山下やましたさんは、スイッチのところへかけよりました。そしてパッと電灯でんとうがついたのです。

みんなが、おずおずと蔵くらの中なかを歩あるきまわって、すみからすみまでしらべました。しかし怪人かいじんの姿すがたは、どこにも見みえません。またしても煙けむりのように、消きえうせてしまったのです。やっぱり、こびとになって、窓まどから出でていったのでしょうか。

山下やましたさんは、その窓まどを全部ぜんぶひらいて、大おおきな声こえで、庭にわにいる警官けいかんを呼よびました。

「怪物かいぶつが聖書せいしょを盗ぬすんで、逃にげました。いまです。まだ、庭にわの中なかにいるところです。気きがつかなかったですか。」

すると、窓まどの外そとへ、ふたりの警官けいかんがかけよってきました。

「えっ、盗ぬすまれた? しかしぼくたちは、さっきから、ずっとこのへんにいたのです。もうひとりは向むこうがわの窓まどの外そとにいます。なにも見みませんでしたよ。窓まどから、あの小ちいさな金色きんいろのやつが出でてくるのじゃないかと、注意ちゅういして見みていました。しかし、なにも出でてきませんでした。」

蔵くらには、二ふたつ窓まどがあるのです。山下やましたさんは、そのもう一ひとつの窓まどのそばへかけよって、外そとにいる警官けいかんに、大おおきな声こえでたずねました。すると、その警官けいかんも、なにも見みなかったと答こたえるのでした。

ねんのために、みんなが蔵くらをでて、広ひろい庭にわをさがしましたが、なにも発見はっけんできませんでした。黄金おうごん怪人かいじんは、こんどこそ、ほんとうに消きえてしまったのです。

山下やましたさんは、歯はぎしりをして、くやしがりました。小林こばやし少年しょうねんも、こんなにたくさん少年しょうねん探偵たんてい団だん員いんがいて、怪人かいじんをふせぐことができなかったのを、はずかしくおもいました。でも、いまさらどうすることもできません。あのとうといグーテンベルクの聖書せいしょは、どこともしれず、持もちさられてしまったのです。

「それにしても、ふしぎなことがある。わたしが聖書せいしょのはいった桐きりの箱はこを持もっているのを、電灯でんとうが消きえたかとおもうと、すぐに、あいつが、ひったくっていった。そのときあいつはスイッチの前まえにいたんだから、そんなにはやく、わたしのそばへ来こられるはずがない。あいつの金色きんいろの手てがぐっと五ごメートルものびて、箱はこを取とっていたのだろうか。あいつのからだには、そんな、とほうもないしかけがあるんだろうか。」

山下やましたさんは、あとになって、ふしぎそうに、そのことをくりかえすのでした。

Next chapter →
Click a word · hold for the whole sentence 0%