← Library‹ サーカスの怪人 恐ろしい夢

それから、二ふた日かめの、まよなかのことです。

正一しょういち少年しょうねんは、おとうさんの笠原かさはらさんと、同おなじ部屋へやに、ベッドをならべて眠ねむっていました。

妹いもうとのミヨ子こちゃんは、まだ小ちいさいのだから、もしものことがあってはと学校がっこうもやすませて、台東たいとう区くにある笠原かさはらさんのしんせきのうちへ、あずけてあるのです。ですから、寝室しんしつには、ミヨ子こちゃんのすがたは見みえません。

この寝室しんしつは、二ふた日かまえ骸骨がいこつ男おとこが逃にげこんだ、あの二に階かいの空あき部屋べやの隣となりにあるのです。やっぱり、窓まどには、頑丈がんじょうな鉄てつごうしがはめてあります。

ドアのそとの廊下ろうかには、刑事けいじとサーカス団だん員いんが、長ちょうイスに腰こしかけて、がんばっています。三さん人にんの刑事けいじと、三さん人にんの団員だんいんがかわりあって、朝あさまで見みはりばんをつとめるのです。

これでは、骸骨がいこつ男おとこがしのびよるすきがありません。正一しょういち君くんはあんぜんです。たとえ見みはりの目めをかすめて、寝室しんしつにはいれたとしても、正一しょういち君くんの隣となりのベッドには、力ちからの強つよい笠原かさはらさんが寝ねているのです。正一しょういち君くんを、むざむざ、骸骨がいこつ男おとこの思おもうままにさせるはずがありません。

そのとき、正一しょういち君くんは、恐おそろしい夢ゆめを見みていました。

うす暗ぐらい空そらから、豆まめつぶのようなものが、いっぱい、ふってくるのです。それが、下したへ落おちてくるほど、だんだん、大おおきくなってきます。ピンポンの球たまぐらいの大おおきさの白しろいものが、たくさん、正一しょういち君くんの頭あたまの上うえに落おちてくるのです。

よく見みると、その白しろいものには、まっ黒くろな目めと、三角さんかくの黒くろい鼻はなと、歯はをむき出だした口くちがありました。骸骨がいこつの首くびです。何十なんじゅう、何百なんびゃくともしれぬ骸骨がいこつの首くびが、ふってくるのです。

正一しょういち君くんは、死しにものぐるいで逃にげだしました。しかし、いくら走はしっても骸骨がいこつの雨あめはやみません。どこまでいっても、空そらは骸骨がいこつでいっぱいなのです。

正一しょういち君くんは、走はしりつかれて、地面じめんにたおれてしまいました。その頭あたまの上うえへ骸骨がいこつがふってくるのです。ピンポンの球たまが、ちゃわんほどの大おおきさになり、おぼんほどの大おおきさになり、スーッと、目めの前まえにせまってくるのです。

やがて、骸骨がいこつの顔かおは、目めの前まえにおおいかぶさるほどの大おおきさになりました。それにかくされて、ほかの骸骨がいこつは、もう見みえません。巨人きょじんのような、たった一ひとつの骸骨がいこつの顔かおが、正一しょういち君くんをおしつぶさんばかりに近ちかづいてきたのです。

正一しょういち君くんはキャーッと叫さけびました。すると、骸骨がいこつの恐おそろしい口くちが、パクッとひらいて、いきなり、正一しょういち君くんの肩かたに食くいついてきたではありませんか。

「これ、正一しょういち、どうしたんだ。しっかりしなさい。」

おとうさんの笠原かさはらさんが、ベッドをおりて、うなされている正一しょういち君くんを起おこしてくれたのです。

「こわい夢ゆめでも見みたのか。」

骸骨がいこつに食くいつかれたと思おもったのは、おとうさんが、正一しょういち君くんの肩かたをつかんで、ゆり動うごかしていたのです。

「ああ、ぼく、こわい夢ゆめ見みちゃった。でも、もうだいじょうぶ。」

正一しょういち君くんが、元気げんきな声こえで答こたえましたので、おとうさんは、そのまま、寝室しんしつのいっぽうにあるドアをひらいて、洗面せんめん室しつへはいっていきました。

正一しょういち君くんは、おとうさんを安心あんしんさせるために元気げんきなことをいいましたが、ほんとうは、こわくてしょうがないのです。眠ねむれば、またこわい夢ゆめを見みるのかと思おもうと、目めをふさぐ気きになれないのです。

「どうして、おとうさんは、こんなにおそいのだろう。なぜ、はやく洗面せんめん室しつから帰かえってこないのだろう?」

正一しょういち君くんがふしぎに思おもっていますと、その洗面せんめん室しつの中なかで、どしんと、もののたおれるような音おとがして、「ううん。」という、うめき声ごえが聞きこえてきました。

正一しょういち君くんはギョッとして、ふとんの中なかに、もぐりこみましたが、そのまま、しいんとしてなんのもの音おとも聞きこえません。

「どうしたんだろう。おとうさんが、洗面せんめん室しつでたおれたのかしら。」

おずおず、ふとんから顔かおを出だして、そのほうを見みました。

「アッ?」正一しょういち君くんは、心臓しんぞうがのどまで、とびあがってくるような気きがしました。

あいつがいるのです。あの恐おそろしい骸骨がいこつ男おとこが、部屋へやのすみから、こちらへ、歩あるいてくるのです。ぴったり身みについた、黒くろいシャツとズボン、黒くろい手てぶくろ、黒くろい靴下くつした、顔かおは、いま墓場はかばから出でてきたような骸骨がいこつです。

正一しょういち君くんはベッドの上うえに起おきあがって、逃にげだそうとしましたが、逃にげることができません。ヘビにみいられたカエルのように、じっと、怪物かいぶつの顔かおを見みつめたまま、わき見みができないのです。声こえをたてることも、身みうごきすることも、できないのです。

「うふふふふ……、こんどこそ、もう逃にがさないぞ! おれのすみかへ、いっしょにくるのだ!」

骸骨がいこつの長ながい歯はの口くちが、がくがくと動うごいて、そこから、きみの悪わるい声こえが聞きこえてきました。

それからどんなことがあったか? 正一しょういち君くんは、もう、無我むが夢中むちゅうでした。

さっきの夢ゆめのつづきのように、骸骨がいこつの顔かおが、目めの前まえいっぱいに、近ちかづいてきたのです。

正一しょういち君くんは、もう死しにものぐるいです。やっと声こえが出でました。

「キャーアッ……。」と、つんざくようなひめいをあげました。そして、めちゃくちゃに手てと足あしを動うごかして、ていこうしました。

しかし、骸骨がいこつ男おとこは鉄てつのような腕うでで、正一しょういち君くんをベッドから引ひきずりおろし、床ゆかにころがして、その上うえに馬うまのりになると、まるめた布ぬのを口くちの中なかにおしこみ、てぬぐいのようなもので、口くちのところをしばってしまいました。さるぐつわです。正一しょういち君くんは、もう声こえをたてることができません。

そうしておいて、どこからか、二に本ほんのほそびきを取とりだすと、正一しょういち君くんの手てをうしろにまわして、しばりあげ、足あしもしばってしまいました。

正一しょういち君くんのからだが、スーッと宙ちゅうに浮うきあがりました。骸骨がいこつ男おとこがだきあげて、こわきにかかえたのです。そうして、どこかへ、つれていくのでしょうが、怪物かいぶつは、いったい、どうして、この寝室しんしつから出でるつもりなのでしょう。

ドアのそとには、刑事けいじとサーカス団だん員いんががんばっています。窓まどには鉄てつごうしがはめてあります。洗面せんめん室しつは、寝室しんしつから出入でいりできるばかりで、ほかに出口でぐちはありません。いよいよ、骸骨がいこつ男おとこが魔法まほうをつかうときがきたのです。

それにしても、さきほど洗面せんめん室しつへはいっていった笠原かさはらさんは、なにをしているのでしょう。なぜ、正一しょういち君くんを助たすけにきてくれないのでしょう。

しかし、笠原かさはらさんは、洗面せんめん室しつから出でられない、わけがあったのです。正一しょういち君くんがひどいめにあっていることは、よくわかっていても、助たすけにこられない、わけがあったのです。

Next chapter →
Click a word · hold for the whole sentence 0%