← Library‹ サーカスの怪人 魔法のたね

正一しょういち君くんが、骸骨がいこつ男おとこといっしょに、消きえうせてしまったあくる日ひには、骸骨がいこつ男おとこの捜査そうさ本部ほんぶが、警察けいさつ署しょにおかれたので、お昼ひるすぎには、笠原かさはらさんも刑事けいじたちも、そのほうへ出でかけ、笠原かさはらさんのお家いえには、るすばんのほかはだれもいなくなってしまいました。

そのすきを見みすまして、あの探偵たんていずきのかわいい女中じょちゅうさんは、そっと二に階かいにあがり、正一しょういち君くんがつれさられた寝室しんしつにしのびこみました。そして、部屋へやの中なかをすみからすみまで見みてまわったあとで、窓まどの鉄てつごうしを、とくべつ念おもいりにしらべました。

鉄てつごうしの下したがわのわくは、二に本ほんのボルトでとめてあることがわかりました。ボルトというのは、鉄てつの棒ぼうのさきにねじがきってあって、そこへ、ナットという六角ろっかく形けいの金物かなものをはめて、スパナ(ねじまわし)でしめつけるようになっているものです。

「へんだなあ。こんな鉄てつごうしのとめかたって見みたことがないよ。」

女中じょちゅうさんは、男おとこの子このような声こえで、ひとりごとをいいながら、こんどは、鉄てつごうしの上うえのほうをしらべていましたが、

「あッ、わかった!」

と叫さけぶと、いきなり寝室しんしつをかけだし、どこからかスパナをさがしだして、もどってきました。そして、スパナを持もった右手みぎてを、窓まどの鉄てつごうしのすきまからそとに出だし、下したがわのわくのしめつけてある六角ろっかくのナットのねじをもどして、二ふたつのナットをはずしてしまいました。そして、両手りょうてを鉄てつごうしにかけて、グッとおしてみますと、スーッと、むこうへひらいていくではありませんか。鉄てつごうしの上うえのほうが、ちょっと見みたのでは、わからないような、ちょうつがいになっていて、鉄てつごうしぜんたいが、むこうへひらくのです。

鉄てつごうしの右みぎがわのわくも、左ひだりがわのも、そとから四よんつずつのナットで、しめつけてあるように見みえますが、それはにせもので、ただナットだけが、とりつけてあって、ボルトはないのです。ですから、下したがわの二ふたつのナットさえはずせば、鉄てつごうしが、上うえのちょうつがいで、いくらでもむこうへひらくようになっているのです。

「これで、寝室しんしつのなぞがとけたぞ!」

女中じょちゅうさんは、また、男おとこの子この声こえでひとりごとをいいましたが、すぐに、隣となりの空あき部屋べやへとんでいって、そこの窓まどの鉄てつごうしをしらべました。すると、そこにも同おなじしかけがしてあって、下したがわの二ふたつのナットをはずせば、鉄てつごうしがひらくようになっていました。

まえのばんに、骸骨がいこつ男おとこが、この部屋へやに逃にげこんで消きえてしまったのは、この鉄てつごうしのそとに出でて、ナットをもとのようにしめておいて、一いち階かいとのあいだにあるせまい屋根やねの上うえにしゃがんで、かくれていたのでしょう。

そして、女中じょちゅうさんが、懐中かいちゅう電灯でんとうで庭にわの足あしあとをしらべたときには、また、部屋へやの中なかにもどって、かくれていたのにちがいありません。

それから、正一しょういち君くんをつれさったときも、寝室しんしつのほうの鉄てつごうしをひらいて逃にげたのでしょうが、しかし、あのとき庭にわをしらべても、やっぱり足あしあとがなかったのは、なぜでしょう。このときは、人ひとがいっぱいいたので、もう一いちど寝室しんしつへもどるというようなことは、できなかったはずです。

女中じょちゅうさんは、そんなことを、心こころの中なかで考かんがえていましたが、どうも、ふにおちないところがあります。そこでふと思おもいついて、鉄てつごうしから、窓まどの下したの屋根やねへ出でてみる気きになりました。

庭にわにめんしたがわだけ、一いち階かいのほうが出でっぱっていて、そこに一いちメートルほどのはばの屋根やねが、ずっと、つづいているのです。

女中じょちゅうさんは、その屋根やねの上うえを、ネコのように四よつんばいになって、隣となりの寝室しんしつの窓まどのほうへ、はっていきましたが、ちょうど、こちらの空あき部屋べやと寝室しんしつとのあいだの壁かべの前まえで、みょうなことを発見はっけんしました。そこの屋根やねが、はば五十ごじゅうセンチ、長ながさ二にメートルほど、ほかの屋根やねと色いろがちがっているのです。さわってみますと、そこだけ、かわらでなくて、鉄てつの板いたでできているらしいのです。見みたところは、形かたちも、色いろもかわらとそっくりですが、鉄てつの板いたをかわらをならべたような形かたちにして、かわらと同おなじ色いろをぬったものだということがわかりました。

女中じょちゅうさんは、そのほそ長ながい鉄てつの板いたに、手てをかけて、ひっぱってみました。するとこれも、ちょうつがいになっていて、ふたのようにひらくのです。うすい鉄てつの板いたですから、そんなに重おもくはありません。

「ああ、あいつは、ここにかくれていたのかもしれない。」

女中じょちゅうさんは、鉄てつの板いたの下したが、ほそ長ながい空洞くうどうになっていて、人間にんげんが横よこになってかくれられるのにちがいない、と思おもいました。

そこで、力ちからをこめて、その鉄てつの板いたを、グッとひらいたのですが、ひらいたかとおもうと、女中じょちゅうさんは「アッ!」と声こえをたてて、そのまま、身みうごきもできなくなってしまいました。

じつに、おどろくべきものを発見はっけんしたのです。ああ、これは、どうしたことでしょう。その空洞くうどうの中なかには、手足てあしをしばられ、さるぐつわをはめられた、ひとりの少年しょうねんが、ぐったりとなって、横よこたわっていたではありませんか。

それは正一しょういち君くんでした。骸骨がいこつ男おとこにさらわれたとばかり思おもっていた正一しょういち君くんが、こんなところに、かくされていたのです。

いったい、これは、どうしたわけでしょうか? 骸骨がいこつ男おとこは、正一しょういち君くんを、つれさったのではないのです。すると、あいつは、まえのばんに空あき部屋へやで消きえたときと、同おなじように、家いえの中なかへ、もどったのでしょうか。そうにちがいありません。庭にわに足あしあとが残のこっていなかったのが、なによりの証拠しょうこです。

さあ、わからなくなってきました。骸骨がいこつ男おとこは、一いちども、そとへ逃にげなかった。いつも家いえの中なかにもどって、どこかにかくれていた。しかしそれなら、あの大おおぜいの人ひとたちに見みつからぬはずはありません。骸骨がいこつ男おとこはどうして、みんなの目めをくらますことができたのでしょうか?

女中じょちゅうさんは、屋根やねの空洞くうどうに横よこたわっている正一しょういち君くんを、助たすけだすこともわすれて、このふしぎななぞをとくために、一生いっしょう懸命けんめいに考かんがえました。目めをつむり、全身ぜんしんの力ちからを頭あたまに集あつめて、いっしんふらんに考かんがえました。

そうして、考かんがえているうちに、女中じょちゅうさんの顔かおが、だんだん、青あおざめてきたではありませんか。目めはおびえたように、まんまるにひらき、口くちはすこしあいたままで、まるで人形にんぎょうのように、からだが動うごかなくなってしまったのです。

「ああ、恐おそろしい。そんなことがあっていいものだろうか。」

女中じょちゅうさんは、ふるえ声ごえで、ひとりごとをいいました。やっぱり男おとこの子この声こえです。

「そうだ。きっとそうだ。よしッ、ためしてみよう。もし、そうだったとしたら……。」

女中じょちゅうさんはそういって、屋根やねの鉄てつの板いたを、ソッとしめてしまいました。正一しょういち君くんを助たすけださないことに決心けっしんしたのです。正一しょういち君くんには気きのどくだけれども、ある恐おそろしい事実じじつをたしかめるためには、このままにしておかなければならないと、考かんがえたのです。

そして、かわいい女中じょちゅうさんは、まだ、青あおざめた顔かおのまま、部屋へやの中なかへもどり、鉄てつごうしのナットを、もとのとおりにしめてから、階段かいだんをおりていくのでした。

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