← Library‹ サーカスの怪人 名探偵と二十面相

「きみは笠原かさはらさんに深ふかいうらみがあったので、グランド=サーカスが、いちばんさかんになったときを見みすまして、いよいよ、復讐ふくしゅうをはじめたのだ。しかし、きみの目的もくてきは、そればかりじゃなかったね。」

明智あけち探偵たんていが、こわい顔かおで、二十にじゅう面相めんそうをにらみつけました。すると二十にじゅう面相めんそうは、ふてぶてしく笑わらいながら、

「アハハハハ……、もちろんだよ。おれの目的もくてきは、ほかにあった。おれには、笠原かさはらよりも、にくいやつがいる。だれだと思おもうね。いうまでもない、きみだよ。明智あけち小五郎こごろうだよ。」

笑わらい顔がおが、パッとかわって、恐おそろしい表情ひょうじょうになりました。二十にじゅう面相めんそうは、ぎりぎりと歯はぎしりをしているのです。

「おれはきみのために、かぞえきれないほど、ひどいめにあっている。いつでも、きみがじゃまをするのだ。そして、おれは牢屋ろうやにつながれる。だがね、明智あけち君くん。おれには、牢屋ろうやの鉄てつごうしなんかないもどうぜんだ。ゆうゆうと牢屋ろうやをぬけ出だすのだ。なんのためだと思おもうね? ほかでもない、きみに復讐ふくしゅうがしたいからさ。きみをアッといわせて、かぶとをぬがせてやりたいからさ。

わかったかね、明智あけち君くん。こんどの骸骨がいこつ男おとこも、ほんとうは、きみがあいてだった。むろんおれは、人殺ひとごろしはきらいだ。あの射撃しゃげき場じょうの事件じけんでも、ほんとうに正一しょういちを殺ころす気きはなかった。きみに腕うでだめしをさせてやったのさ。

もし、きみがぼんくらで、あのときおれをとめにこなかったら、おれはわざとねらいをはずしてうつつもりだったよ。ウフフフフ……、それともしらないで、きみは、あわてふためいて、射撃しゃげき場じょうへやってきたね。」

それを聞きいて、明智あけちは、ニコニコと笑わらいました。

「そうだったのか。それほどきみは、ぼくと知恵ちえくらべがやりたいのだね。そんなら、知恵ちえくらべは、いまだよ。きみはここから、逃にげられるかね? 逃にげる知恵ちえがあるかね?

この部屋へやには、ぼくと笠原かさはらさんがいる。きみはひとりだ。それにこれを見みたまえ、ぼくは、ちゃんとピストルを持もっている。そして、この家いえのまわりは、二十にじゅう人にんの警官けいかんが取とりまいているのだ。いや、そればかりじゃない。ぼくのほうには、もっと奥おくの手てがある。どんな奥おくの手てだかは、いまはいえないがね。

どうだ、きみの知恵ちえで、このかこみをやぶって、逃にげだすことができるかね?」

「ウフフフフ……、おい、明智あけち君くん、きみは勝かちほこったような顔かおをしているね。だが、だいじょうぶかい? きみのほうに、奥おくの手てがあれば、おれにだって奥おくの手てがないはずはないよ。たとえば、この西洋せいよう館かんだ。きみたちは、事件じけんがおこってから、いそいでこのうちを買かったと思おもっているだろうが、そうじゃない。ここはずっとまえから、おれのかくれがのひとつなんだ。でなければ、二に階かいの窓まどの鉄てつごうしが、ちょうつがいで開ひらいたり、屋根やねに人間にんげんのかくれる穴あながあったりするはずがないじゃないか。

ウフフフフ……、どうやら、すこしばかり、きみがわるくなってきたらしいね。そうだよ。この家いえには、どんなしかけがあるか、わからないのだよ。用心ようじんしたまえ。おい、明智あけち君くん、なんだか顔色かおいろがよくないじゃないか。」

二十にじゅう面相めんそうは、あくまで、人ひとをくっています。

しかし、明智あけちはへいきなものです。明智あけちのほうでは、二十にじゅう面相めんそうの秘密ひみつをすっかり知しっているからです。

「で、その秘密ひみつのしかけをつかって、逃にげるというのかね。ハハハハハ……、まあ、やってみるがいい。」

「え? やってもいいのかね。」

「いいとも、やってみたまえ。」

「よしッ、それじゃあ、こうだッ!」

二十にじゅう面相めんそうが立たちあがって、パッと、二に、三さん歩ほうしろにさがったかと思おもうと、カタンと音おとがして、たちまち、そのすがたが消きえうせてしまいました。

いや、消きえうせたのではありません。応接おうせつ室しつの床ゆかに落おとしぶたがあって、それが開ひらき、二十にじゅう面相めんそうのからだは、地下ちか室しつへ落おちていったのです。

それを見みると、明智あけち探偵たんていは、窓まどのそばへとんでいって、持もっていたピストルを空そらにむけて、ダーンと発射はっしゃしました。なにかのあいずです。

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