← Library‹ サーカスの怪人 怪老人

お話はなしは、すこし前まえにもどって、二十にじゅう面相めんそうが警官けいかんの制服せいふくを着きこみ、地下ちか道どうの入口いりぐちに番ばんをしていたふたりの巡査じゅんさを、うまくごまかして、裏うらの原はらっぱを、町まちのほうへいそいでいるときです。その原はらっぱに、ふしぎなことが起おこりました。

原はらっぱには、人間にんげんの腰こしまでかくれるほど、草くさがいっぱいはえているのですが、その草くさむらが、風かぜもないのに、ざわざわと、動うごきはじめたのです。それも一いちヵ所かしょではありません。あちらでもこちらでも、動うごいているのです。

草くさむらに、なにか動物どうぶつがかくれていて、いちどに動うごきだしたのでしょうか。大おおきなヘビが草くさをわけて、はっているような、気きみのわるい、動うごきかたです。

その動物どうぶつは、警官けいかんに化ばけた二十にじゅう面相めんそうのあとを追おって、進すすんでいくようにみえます。あちこちの草くさの動うごきが、そのほうへそのほうへと、うつりかわっていくのです。

「ねえ、きみ、あのおまわりさん、あやしいよ。キョロキョロあたりを見みまわして、逃にげていくじゃないか。あとをつけてみよう。」

「うん、あいつ、ひょっとしたら、骸骨がいこつ男おとこの二十にじゅう面相めんそうかもしれないぜ。明智あけち先生せんせいは、たとえ警官けいかんでも、見みのがしてはいけないっていわれたからね。」

そんなささやき声ごえが、動うごいている草くさむらの中なかから、聞きこえてきました。

すがたは見みえないけれども、ひとりは小林こばやし少年しょうねん、もうひとりは井上いのうえ一郎いちろう君くんの声こえでした。

草くさむらの中なかを、はうようにして進すすんでいたのは、けだものではなくて、少年しょうねん探偵たんてい団だん員いんだったのです。草くさむらは、ほうぼうで動うごいているのですから、その人数にんずうは、ふたりや三さん人にんではありません。すくなくとも十じゅう人にんぐらいの少年しょうねんたちが、草くさむらに身みをかくして、あやしい人間にんげんが出でてくるのを、待まちかまえていたのです。

もう、夕ゆうがたで、あたりはうす暗ぐらくなっていました。その夕ゆうやみの中なかを、あやしい警官けいかんは、草くさをわけて走はしっていましたが、原はらっぱの中なかの小島こじまのように、こんもりと、ひくい木きのしげったところへくると、いきなり、そのしげみの中なかへ、とびこんで、すがたをかくしました。

「いよいよ、へんだな。みんなで、あのまわりを取とりかこんで、見みはっていることにしよう。」

「じゃ、みんなに連絡れんらくしてくるよ。」

井上いのうえ君くんが、草くさの中なかをはっていって、近ちかくにいる団員だんいんにそのことをささやきました。すると、その団員だんいんが、つぎの団員だんいんにささやき、たちまち、小林こばやし少年しょうねんの命令めいれいが、みんなにつたわりました。そして少年しょうねんたちは、草くさむらに身みをかくしたまま、木きのしげみを、グルッと取とりかこんで、あやしい警官けいかんをとり逃のがさないように、見みはりをつづけるのでした。

しばらくすると、がさがさと木きの枝えだが動うごいて、しげみの中なかから、思おもいもよらぬひとりの老人ろうじんがあらわれました。

ねずみ色いろの背広せびろに、ねずみ色いろのとりうち帽子ぼうしをかぶった、しらがあたまの老人ろうじんです。背中せなかをまるくして、ステッキにすがって、草くさむらの中なかを、とぼとぼと、むこうへ歩あるいていきます。

「へんだぞ。変装へんそうしたのかもしれない。しらべてみよう。」

小林こばやし少年しょうねんは、井上いのうえ君くんにそうささやいておいて、そっと木きのしげみに近ちかづき、かさなりあった枝えだをわけて、その中なかへしのびこみました。

よく捜さがしてみても、そこにはもう、だれもいません。やっぱり、あいつは、老人ろうじんに変装へんそうして逃にげだしたのです。警官けいかんのすがたのままでは、気きがついて、追おっかけられる心配しんぱいがあるからでしょう。むろんこういうときの用意よういに、しげみの中なかへ、老人ろうじんの服ふくをかくしておいたのにちがいありません。

そんなら、警官けいかんの服ふくがここに残のこっているはずだと、あたりを捜さがしてみますと、木きのしげみの奥おくにそれがまるめて、つっこんであるのを発見はっけんしました。

ふろしきづつみのようにして、こわきにかかえていた、ガウンのまるめたのも、いっしょにおいてありました。

小林こばやし君くんは、いそいで、しげみをとび出だすと、井上いのうえ君くんにささやきました。

「巡査じゅんさの服ふくが残のこしてあるよ。だから、あの老人ろうじんが二十にじゅう面相めんそうだ。追跡ついせきしよう。……もうひとりいるといいな。」

「それじゃあ、ノロちゃんをつれていこうか。」

「うん、それがいい。そして、あとの団員だんいんたちには、明智あけち先生せんせいに、このことをつたえるようにいってくれたまえ。」

井上いのうえ君くんは、すぐそばの草くさむらにかくれていた、ノロちゃんの野呂のろ一平いっぺい君くんを呼よび、そこにいたもうひとりの少年しょうねんに、みんなに明智あけち先生せんせいのところへいくように、連絡れんらくをたのみました。

そして、小林こばやし、井上いのうえ、野呂のろの三さん少年しょうねんは、やっぱり草くさの中なかに身みをかがめて、大おおいそぎで、あやしい老人ろうじんのあとをつけるのでした。

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