← Library‹ サーカスの怪人 青い自動車

怪かい老人ろうじんは、原はらっぱを出でて、大通おおどおりまでくると、そこを走はしっていたタクシーを呼よびとめて、乗のりこみました。

ものかげにかくれて、それを見みていた三さん少年しょうねんは、相手あいてに逃にげられてしまっては、たいへんですから、いそいで大通おおどおりにとび出だしましたが、さいわい、すぐうしろから、からのタクシーが走はしってきましたので、小林こばやし少年しょうねんは手てをあげて、それを呼よびとめ、三さん人にんいっしょに乗のりこみました。

「ぼくはこういうものです。犯人はんにんを追跡ついせきしているのです。あの青あおい車くるまを見みうしなわないように、つけてください。」

小林こばやし君くんは、そういって、運転うんてん手しゅに名刺めいしをわたしました。

運転うんてん手しゅは、へんな顔かおをして、その名刺めいしを見みていましたが、びっくりしたように、うしろをむいて小林こばやし君くんの顔かおをながめました。

「じゃあ、あんたが、明智あけち探偵たんていの有名ゆうめいな少年しょうねん助手じょしゅの小林こばやしさんかい。わかったよ。あの車くるま、見みうしないはしないから安心あんしんしな、だが、あいつは大おおものかい?」

まだ若わかい元気げんきな運転うんてん手しゅは、目めをかがやかせてきくのでした。

「うん、大おおものだよ。いまにわかるよ。たのむよ。相手あいてに気きづかれないようにね。」

二十にじゅう面相めんそうの車くるまは青あおいボディー、小林こばやし君くんたちのは黒くろいボディー、その二に台だいの自動じどう車しゃの追おっかけっこがはじまりました。

東京とうきょうの町まちで、自動じどう車しゃを尾行びこうするのは、けっしてやさしいしごとではありません。たくさんの自動じどう車しゃが、むこうからも、こちらからも、すれすれになって走はしっているのです。ほかの自動じどう車しゃにあいだへはいられたら、むこうが見みえなくなってしまいます。四よつ角かどで赤あか信号しんごうが出でたら、青あおになるまで止とまっていなければなりません。そのあいだに、あいては遠とおくはなれてしまいます。

しかし、小林こばやし君くんたちの乗のった車くるまの運転うんてん手しゅは、頭あたまのいいすばしっこい青年せいねんでした。それに名めい探偵たんていの助手じょしゅと聞きいていさみたっているので、じつにうまく運転うんてんして、けっして相手あいてを見みうしないません。執念しゅうねんぶかく青あおい車くるまのあとを追おいつづけました。

二十にじゅう分ふんも走はしると、小林こばやし君くんは、ハッとしました。むこうに、見みおぼえのあるグランド=サーカスの大だいテントが見みえてきたからです。

二十にじゅう面相めんそうが笠原かさはらさんに化ばけて、その団長だんちょうをつとめていたサーカスです。

かれは、もとのふるすへもどって、いったい、なにをしようというのでしょう。

青あおい車くるまはサーカスの前まえでとまり、怪かい老人ろうじんがおりていくのが見みえました。

こちらの車くるまは、相手あいてに気きづかれぬよう、ずっと、てまえにとめて、三さん少年しょうねんもおりました。

怪かい老人ろうじんは、テントの中なかへはいっていきました。

いよいよへんです。サーカスには、まだ見物けんぶつがいるのです。楽屋がくやにも、たくさんのサーカス団だん員いんが出番でばんを待まっています。二十にじゅう面相めんそうはその大おおぜいの中なかへはいっていって、どうするつもりなのでしょう。

小林こばやし少年しょうねんはそれを見みると、ノロちゃんに、なにかささやきました。すると、ノロちゃんは、大おおいそぎで町まちのほうへ走はしっていきました。笠原かさはら邸ていにいる明智あけち探偵たんていに、電話でんわでこのことを、知しらせるためです。

あとに残のこった小林こばやし、井上いのうえの二に少年しょうねんは、怪かい老人ろうじんのはいっていったテントの裏口うらぐちに近ちかづき、そっと中なかをのぞいてみました。

もうそこには、怪かい老人ろうじんのすがたはありません。ひとりのサーカス団だん員いんが、きょとんとした顔かおで立たっていました。

小林こばやし君くんは、その団員だんいんのそばへ近ちかづいていって、話はなしかけました。

「ぼくをおぼえてますか。明智あけち探偵たんていの助手じょしゅの小林こばやしです。」

すると、若わかい団員だんいんは、にっこりして、

「おぼえているよ。で、なにか用事ようじがあるのかね。」

「いま、背中せなかのまがったおじいさんが、はいっていったでしょう。」

「うん、はいっていった。笠原かさはら団長だんちょうからの使つかいだといってね。」

「あれは、たいへんなやつですよ。」

小林こばやし君くんはそういって、団員だんいんの耳みみに口くちをよせ、しばらく、なにかささやいていました。

それを聞ききおわると、団員だんいんはまっ青さおになってしまいました。笠原かさはら団長だんちょうが怪人かいじん二十にじゅう面相めんそうだったと聞きいて、腰こしをぬかさんばかりにおどろいたのです。

「で、いまはいっていったじいさんが、その二十にじゅう面相めんそうだというのか。」

「そうです。まちがいありません。いま電話でんわで知しらせましたから、じきに警官けいかん隊たいがかけつけてきます。それまで、逃にがさないようにしておきたいのです。みんなに知しらせないで、おもな人ひとだけにそういって、あの老人ろうじんのゆくえを捜さがしてください。どんな恐おそろしいたくらみがあるかわかりませんからね。」

そこで団員だんいんは、楽屋がくやへはいっていって、副ふく団長だんちょう格かくの空中くうちゅう曲芸きょくげい師しに、そのことをつたえ、四、五しご人にんで、そのへんをしらべてまわりましたが、怪かい老人ろうじんのすがたは、どこにもありません。楽屋がくやにいた大おおぜいのものが、ひとりも老人ろうじんを見みていないのです。

では、客席きゃくせきのほうへまぎれこんだのかと、円形えんけいの馬場ばばをひとまわりしてみましたが、見物けんぶつ席せきにもそれらしいすがたは見みえません。怪かい老人ろうじんはテントの裏口うらぐちへはいったかと思おもうと、そのまま消きえてしまったのです。

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