← Library‹ サーカスの怪人 大グマの秘密

小林こばやし少年しょうねんたちとサーカスの団員だんいんが、骸骨がいこつ男おとこのゾウを追おって、テントのそとにかけ出だしました。入口いりぐちのそとの原はらっぱには、見物けんぶつの人ひとたちが大おおきな輪わをつくって、ワアワアとさわいでいます。その見物けんぶつの輪わのなかに、さっきのゾウが、きょとんとして立たっていました。

そこには、ゾウに乗のっていた骸骨がいこつ男おとこのすがたが見みえないのです。

「あっちへ逃にげた。あっちへ逃にげた。」

見物けんぶつたちは、口々くちぐちにわめきながら、テントの裏うらのほうを指ゆびさしています。

小林こばやし君くんやサーカスの人ひとたちは、そのほうへかけつけました。裏口うらぐちからはいって、楽屋がくやをさがしましたが、だれもいません。みんなそとへ出でてしまって、楽屋がくやはからっぽなのです。骸骨がいこつ男おとこのすがたも、どこにも見みえません。

原はらっぱでは、むこうの大型おおがたバスの中なかで、やすんでいたゾウ使つかいの男おとこが、さわぎを知しってかけ出だしてきて、ゾウをテントの中なかにつれもどすのでした。

そこへ警視けいし庁ちょうの白しろい自動じどう車しゃが三さん台だい、警官けいかんをいっぱい乗のせてやってきました。明智あけち探偵たんていは中村なかむら警部けいぶといっしょに、まっさきの車くるまに乗のりこんでいました。

ふたりは自動じどう車しゃをおりると、見物けんぶつたちに、ようすを聞きき、警官けいかん隊たいに大だいテントのまわりを、グルッと取とりかこむよう命めいじておいて、三さん人にんの警官けいかんだけをつのって、テントの裏口うらぐちにいそぎました。

「アッ、先生せんせい……、あいつは、また消きえてしまいました。」

テントにはいると、小林こばやし少年しょうねんがとび出だしてきて、明智あけち探偵たんていに、いままでのことを、報告ほうこくするのでした。

それから、明智あけち探偵たんていと中村なかむら警部けいぶたちも、いっしょになってほうぼうを捜さがしまわりましたが、骸骨がいこつ男おとこはどこにも見みえません。

しばらくすると、小林こばやし少年しょうねんが明智あけち探偵たんていのそばによって、ひそひそとささやきました。

「うん、そうか。きみが見みつけたんだね。よし、行いってみよう。」

明智あけち探偵たんていは、そばにいた中村なかむら警部けいぶに目めくばせをして、みんなで、小林こばやし君くんのあとからついていきました。

小林こばやし、井上いのうえ、野呂のろの三さん少年しょうねんが案内あんない役やくです。大だいテントの中なかの楽屋がくやの隣となりに、動物どうぶつのおりのおいてある場所ばしょがあります。

おりには小ちいさな車くるまがついていて、サーカスがはじまると、原はらっぱにおいてあるトラックからおろして、ここへ運はこぶようになっているのです。

そこにはいると、ムッと動物どうぶつのにおいがしました。むこうに大おおきなおりが三みつならんで、その中なかに一いちぴきずつライオンがいました。寝ねそべっているのもあれば、のそのそ、おりの中なかを歩あるきまわっているのもあります。

その横よこに、トラとヒョウのおりが並ならんでいます。みんな人ひとになれた動物どうぶつですから、大おおぜいが、どかどかとはいってきても、おどろいて吠ほえるようなことはありません。トラもヒョウものんきそうに、のそりのそり、とおりの中なかを歩あるいています。

こちらのほうに、クマのおりがおいてあって、その中なかにおそろしく大おおきなヒグマがうずくまっていました。

小林こばやし少年しょうねんは、そのクマのおりの前まえに立たちどまって、うしろにいたサーカス団だんの人ひとに、

「このおりを、あけてください。」

といいました。

「エッ。これをあけるんですって、そんなことをしたら、大たいへんですよ。こいつは、おそろしく気きのあらいやつですから。」

サーカスの人ひとは、びっくりして小林こばやし君くんの顔かおをながめるのでした。

小林こばやし君くんはニコニコしながら、サーカス団だん員いんの耳みみに口くちをよせて、なにかささやきました。

「エッ、このクマのなかに?」

団員だんいんは、おったまげた顔かおで、クマを見みつめていましたが、

「アッ、いけねえ。鍵かぎがはずれている。」

と叫さけびながら、おりの戸とに近ちかづきました。

そのときです。おりの戸とが、中なかからパッと開ひらき、大おおグマが「ごうッ……。」とうなりながら、いきなり、みんなの前まえにとび出だしてきたではありませんか。

それを見みると小林こばやし少年しょうねんが、せいいっぱいの声こえで叫さけびました。

「こいつは、ほんとうのクマじゃありません。クマの毛けがわの中なかに、二十にじゅう面相めんそうがかくれているのです。恐おそれることはありません。みなさん、つかまえてくださいッ。」

サーカス団だんの人々ひとびとと警官けいかんとが、クマにとびかかっていきました。

「うおうッ……。」

恐おそろしいうなり声ごえをたてて、あと足あしで立たちあがったクマは、人々ひとびとにのしかかるようにして、戦たたかいをいどんできます。

恐おそろしい組くみうちが、はじまりました。

「うおうッ、うおうッ。」

サーカスの団員だんいんのひとりがクマの下したじきになって、もがいています。三さん人にんの警官けいかんが、上うえになっているクマをおしころがそうと、とびかかっていきました。

それから、組くんずほぐれつ大だい格闘かくとうがつづきました。

「さあ、つかまえたぞ。はやく縄なわを縄なわを……。」

ひとりの警官けいかんはクマの背せなかにしがみつき、ひとりの警官けいかんは、クマの前足まえあしをはがいじめにし、ふたりのサーカス団だん員いんは、クマのあと足あしに、すがりついています。

ひとりの警官けいかんは、腰こしにさげていた縄なわをとりだそうとしました。しかし、そのひまはなかったのです。

「アッ……。」という声こえが、おこりました。クマにとりついていた人ひとたちが、はずみをくって地面じめんにころがりました。その人ひとたちの下したには、クマの毛けがわだけが、ひらべったくなって残のこっていたのです。

毛けがわの腹はらには、かくしボタンがついていて、そこから人間にんげんが出入でいりできるように、こしらえてありました。二十にじゅう面相めんそうは、とっ組くみあいのあいだに、そのボタンをひとつひとつはずしておいて、みんながクマをつかまえたと思おもって安心あんしんしているうちに、パッとそこからとび出だしたのです。

それは骸骨がいこつ男おとこのすがたでした。恐おそろしい骸骨がいこつが、人々ひとびとをかきわけ、つきとばしながら、弾丸だんがんのように走はしっていくのです。

みんなが、ふいをうたれて、アッとおどろいているまに骸骨がいこつ男おとこは、その部屋へやの入口いりぐちにさがってるカーテンのむこうへ、すがたを消けしてしまいました。

そのとき、「ひひひ……ん。」というウマのいななき声こえが、聞きこえてきました。

「アッ、あいつ、ウマに乗のって逃にげるつもりだッ。」

中村なかむら警部けいぶが叫さけびました。

「よしッ、追おっかけるんだ。ぼくはウマに乗のる。きみたちは自動じどう車しゃで追おっかけたまえ。」

明智あけちもそういって、かけだしました。明智あけち探偵たんていは、どんなスポーツでもできるのでした。乗馬じょうばもお手てのものです。

明智あけちはサーカスの楽屋がくやにとびこんで、そこにあった長ながいほそびきのたばをつかみとると、テントの中なかのうまやにかけつけ、いちばん強つよそうなウマをえらんで、それをひき出だして、くらの上うえにとびのりました。

そのとき、二十にじゅう面相めんそうの骸骨がいこつ男おとこはウマに乗のって、もうテントのそとに出でていました。原はらっぱにのこっていた見物けんぶつたちの「ワアッ、ワアッ……。」という声こえが、聞きこえてきます。

名めい探偵たんていと怪人かいじん二十にじゅう面相めんそうとの、ふしぎな競馬けいば競走きょうそうがはじまったのです。明智あけち探偵たんていは、うまく二十にじゅう面相めんそうに追おいつくことができるでしょうか。

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