← Library‹ 妖人ゴング ふしぎな家

小林こばやし君くんは、マユミさんにばけているのを、見みやぶられてはたいへんですから、わざと目めをほそくして、ぶるぶるふるえているような、ようすをしていました。

さいわい、部屋へやがうす暗ぐらいので妖あやかし人にんゴングは、まだにせものとは気きがつきません。いや、たとえ、部屋へやが明あかるくても、明智あけち探偵たんていにおそわった小林こばやし君くんの変装へんそう術じゅつは、なかなか見みやぶれるものではないのです。

「ウフフフ……、マユミ! こわいか。だが、安心あんしんするがいい。べつに、おまえをとって食くおうというわけではない。ただ、しばらくのあいだ、おれのうちに閉とじこめておくのだよ。ベッドもあるし、ごはんも三さん度ど三さん度ど、ちゃんと、たべさせてやる。おまえは、その閉とじこめられた部屋へやから、一いち歩ほも、外そとへ出でられないというだけのことだよ。さあ立たつんだ。そして、あっちの部屋へやへいくのだ。……おいきみ、手てをかしてやりな。」

すると、ゴングのうしろにいた、ひとりの部下ぶかが、ツカツカと、トランクのそばによって、小林こばやし君くんをひき起おこすのでした。

小林こばやし君くんは、あくまで女おんならしいようすで、立たちあがる力ちからもないように見みせかけながら、トランクを出でて、床ゆかの上うえにうずくまりました。そして、あたりを見みまわしますと、そこは、じつにきみょうな部屋へやなのです。

四方しほうとも壁かべばかりで、窓まどというものが、ひとつもありません。まるで大おおきなコンクリートの箱はこのような部屋へやです。むこうにドアがひらいていますから、外そとに、廊下ろうかがあるのでしょうが、そこは、まっ暗くらで、なにも見みえません。部屋へやの中なかにも、小ちいさな電灯でんとうがひとつ、ついているばかりです。

「それじゃ、このむすめを、れいの部屋へやへ閉とじこめておきな。……マユミ、そのうちに、ゆっくり、話はなしにいくからな。あばよ。」

ゴングは、そういって、さようならというように、手てをふってみせました。

すると、部下ぶかのあらくれ男おとこは、小林こばやし君くんの手てをひっぱって、ドアの外そとにでました。暗くらい廊下ろうかをひとつまがると、そこのドアをひらいて、小林こばやし君くんを中なかへつきたおしておいて、パタンとドアをしめ、外そとからかぎをかけると、そのまま立たちさってしまいました。

その部屋へやには、電灯でんとうがついていないので、まっ暗くらです。小林こばやし君くんは、万まん年ねん筆ひつ型がたの懐中かいちゅう電灯でんとうを持もっていましたが、それをつけるのは危険きけんだと思おもったので、手てさぐりで壁かべをつたって、グルッと、部屋へやをひとまわりしてみました。ここにも、窓まどというものが、ひとつもありません。この家いえに住すんでいる悪人あくにんたちは、太陽たいようの光ひかりがこわいので、わざと、窓まどをつくらなかったのでしょうか。それとも、なにかほかに、わけがあるのでしょうか。

部屋へやのすみにベッドがおいてあることが、手てさぐりでわかりましたので、小林こばやし君くんは、ともかく、その上うえに寝ねころんで、からだを休やすめました。長ながい時間じかんトランクの中なかで、きゅうくつな思おもいをしていたので、そうしてながながと、寝ねそべっていると、じつにいい気持きもちです。

「やつらが、ぼくをマユミさんだと思おもいこんでいるうちに、この家いえのようすをさぐって、逃にげださなければならない。それには、どんな計略けいりゃくをめぐらせばいいのだろう?」

小林こばやし君くんは目めをつむって、いろいろと考かんがえていましたが、いままでのつかれが出でたのか、しらぬまに眠ねむってしまいました。悪人あくにんに閉とじこめられ、これからどんなめにあうかしれないのに、グウグウ寝ねてしまうとは、なんというだいたんさでしょう。さすがは少年しょうねん名めい探偵たんていです。こんなことには、なれきっているのです。

どのくらい眠ねむったのか、ふと目めをさますと、あたりは、やっぱりまっ暗くらでした。まだ夜よるが明あけないのかしらと思おもいましたが、よく考かんがえてみると、この部屋へやには窓まどがないのですから、昼間ひるまでも、まっ暗くらなのでしょう。

小林こばやし君くんは、夜光やこうの腕うで時計とけいを見みました。八はち時じです。ゆうべ川かわへほうりこまれたのは、夜中よなかの一時いちじすぎでしたから、八はち時じといえば、あくる日ひの朝あさにちがいありません。

八はち時じなら悪人あくにんたちももう起おきているでしょう。いつ、この部屋へやへやってくるかもしれません。小林こばやし君くんは、ベッドの上うえに、身みをおこして、いざというときの用意よういをしました。

しばらくすると入口いりぐちのドアのほうで、カタンという音おとがして、パッと、電灯でんとうがつきました。やみになれた目めには、ひじょうに明あかるく、まぶしいほどでしたが、じつは十じゅうワットぐらいのうす暗ぐらい電灯でんとうなのです。

小林こばやし君くんは、その電灯でんとうの光ひかりで、ドアを見みました。すると、ドアに小ちいさな四角しかくいのぞき穴あながあって、そのむこうから、何者なにものかの目めが、じっと、こちらを見みつめていました。さっき、カタンと音おとがしたのは、その、のぞき穴あなのふたをひらく音おとだったのです。

小林こばやし君くんは、それを見みると、さも、こわそうな顔かおになって、いきなり、ベッドの上うえにうつぶしてしまいました。むろん、ほんとうに、こわいと思おもったのではありません。マユミさんにばけているのですから、こわがって見みせなければならないのです。

すると、カチカチとかぎをまわす音おとがして、スーッとドアがひらき、ゆうべの部下ぶかの男おとこがはいってきました。パンと牛乳ぎゅうにゅうをのせたおぼんを持もっています。

「マユミさん、なにもそんなに、こわがることはないよ。親分おやぶんとちがって、おれは親切しんせつものだからな。エヘヘヘヘ……。さあ、これをたべな。それから、トイレは、むこうのすみにあるよ。部屋へやから出だすわけにいかないから、まあ、あれでがまんするんだよ。」

見みると、むこうのすみに、西洋せいよう便所べんじょのような白しろいせとものがおいてありました。そのそばの台だいの上うえに、大おおきな水みずさしと、コップと、洗面せんめん器きもあります。ゆうべは、まっ暗くらで気きがつかなかったけれど、ちゃんと、そこまで用意よういがしてあったのです。

そうして、昼ひるの食事しょくじ、夜よるの食事しょくじと、なにごともなく一いち日にちがたって、二ふた日か目めの夜よるがきました。妖あやかし人にんゴングは、一いち度ども、姿すがたをあらわしません。どこかへ出でかけているのでしょうか。

小林こばやし君くんは、一いち日にちじゅう、じっとがまんをしていましたが、今夜こんやこそは、このふしぎな家いえを探検たんけんする決心けっしんでした。夜よるのふけるのを待まって、部屋へやをぬけだすつもりです。

腕うで時計とけいが十じゅう一いち時じになったころ、小林こばやし君くんはスカートの中なかにはいている半はんズボンのポケットから、まがった針金はりがねをとりだしました。そして、ドアのそばへいって、その針金はりがねをかぎ穴あなにさしこんで、なにかゴチゴチやっていましたが、しばらくするとカチンと錠じょうがはずれて、ドアがひらきました。

ある大だいどろぼうは、針金はりがね一いち本ほんあれば、どんな錠前じょうまえでもひらいてみせると、いったそうですが、探偵たんていのほうでも、ときには、錠前じょうまえをやぶる必要ひつようがあるので、明智あけち探偵たんていは、そのやりかたを、小林こばやし君くんにおしえておきました。ですから、小林こばやし君くんは、いつでも、ポケットに、その道具どうぐの針金はりがねを用意よういしていました。いま、それが、役やくにたったのです。

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