← Library‹ 妖人ゴング 巨人の顔

外そとの廊下ろうかはまっ暗くらです。悪人あくにんたちは、みんな寝ねてしまったのか、なんの物音ものおとも、聞きこえてきません。

小林こばやし君くんは、しばらく、耳みみをすまして、じっとしていましたが、もうだいじょうぶと思おもったのか、半はんズボンのポケットから、万まん年ねん筆ひつ型がたの懐中かいちゅう電灯でんとうをとりだして、それで足あしもとを照てらしながら、音おとをたてないように、廊下ろうかを歩あるいていきました。廊下ろうかは白しろっぽい壁かべです。

じきに、まがり角かどがあって、それから、廊下ろうかが左右さゆうにわかれていました。右みぎのほうは、ゆうべ、トランクからだされた部屋へやのあるほうです。小林こばやし君くんは、そちらへいかないで、左ひだりにまがりました。

すこしいくと、大おおきな白しろっぽい扉とびらにつきあたりました。その扉とびらには錠じょうがかかっていて、そこからさきへはいけません。小林こばやし君くんはしかたがないので、あとにもどろうとしました。

そのときです。二にメートル四方しほうもある、その大扉だいひから、とつぜん、とほうもないものが浮うきだしてきたではありませんか。

巨人きょじんの顔かおです。ギラギラ光ひかった巨大きょだいな目めが、こちらをグッとにらみつけています。一いちメートルもある大おおきな口くちが、グワッとひらいて、白しろい牙きばがあらわれました。そして……、

「ウワン、ウワン、ウワン、ウワン……。」

あのゴングの声こえです。ドラを鳴ならすような、ものすごいひびきです。

小林こばやし君くんは、いきなり逃にげだしました。ところが、廊下ろうかを走はしっていくと、また、目めの前まえに、あの顔かおが、ボーッとあらわれてきたではありませんか。そして、巨大きょだいな口くちを、みにくくゆがめて、「ウワン、ウワン、ウワン……。」と笑わらうのです。

窓まどのない家いえには、ばけものがすんでいたのです。しかも、巨大きょだいな顔かおばかりで、からだのないばけものです。

小林こばやし君くんは、無我むが夢中むちゅうでじぶんの部屋へやに逃にげもどり、ピッタリとドアをしめて、中なかから、とってをおさえていました。さすがの小林こばやし君くんも、このとほうもないばけものには、すっかりおびえてしまったのです。

まもなく、廊下ろうかに足音あしおとが聞きこえてきました。だれか、やってくるのです。ドアのとってが、外そとからグーッとまわされました。

小林こばやし君くんは、いっしょうけんめいに、とってをにぎっていましたが、外そとの力ちからのほうが強つよくて、とうとう、パッと、ドアがひらきました。

「きさま、女おんなににあわない、だいたんなやつだなっ。……ひょっとすると……。」

とびこんできて、やにわに、どなりつけたのは、あのいやらしい怪物かいぶつゴングでした。

かれは何なんを思おもったのか、ツカツカと、小林こばやし君くんのそばによると、ランランと光ひかる目めで、じっと、その顔かおをにらみつけていましたが、ヒョイと手てをのばしたかと思おもうと、小林こばやし君くんの頭あたまの毛けをつかんで、いきなり、かつらを、めくりとってしまいました。

すると、マユミさんにばけた女おんなのかつらの下したから、小林こばやし君くんの少年しょうねんの頭あたまが、あらわれたのです。

「きさま、にせものだなっ。やっぱり思おもったとおりだ。男おとこの子こが女おんなに変装へんそうしていたんだ。きさま、なにものだっ? あっ、わかったぞ。小林こばやしだな、明智あけちの弟子でしのチンピラ探偵たんていだなっ。ちくしょう! おれを、まんまといっぱいくわせやがった。」

ゴングは、いまいましそうに、どなりつけたあとで、あごに手てをあてて、ちょっと考かんがえていましたが、なにか決心けっしんしたらしく、ぶきみに笑わらって、

「ようし、このお礼れいには、いいことがある。おれは人ひとを殺ころすのがきらいだから、殺ころしはしないが、きさまを、おもしろいものの中なかへいれてやる。運うんがわるければ、そのまま死しんでしまうのだ。だが、そんなことは、おれの知しったことじゃない。おれが手てをかけて殺ころすのじゃないのだからな。ウフフフ……、こいつは、うまいおもいつきだぞ。ウフフフ……。」

ゴングが笑わらうと、どこからともなく、あのぶきみな音おとが、ウワン、ウワン、ウワン……と、聞きこえてくるのでした。

ああ、ゴングのおもいつきとは、いったいどんなことなのでしょう。殺ころすのではないけれども、運うんがわるければ、死しぬかもしれないとは、なんという恐おそろしいたくらみでしょう。

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