← Library‹ 妖人ゴング 俊一君の危難

お話はなしは、すこしもとにもどって、そのおなじ日ひの夕方ゆうがたのことでした。マユミさんの弟おとうとの、小しょう学校がっこう六ろく年ねん生せいの花崎はなさき俊一しゅんいち君くんは、学校がっこうに野球やきゅうの試合しあいがあって、帰かえりがおそくなり、午後ごご五ご時じすぎに、友ともだちの野上明のがみあきら君といっしょに、おうちへいそいでいました。世田谷せたがや区くのさびしいやしき町まちです。

妖あやかし人にんゴングの巨大きょだいな顔かおが、俊一しゅんいち君くんのうちの池いけの中なかにあらわれたほどですから、俊一しゅんいち君くんも、ねえさんのマユミさんと同おなじように、妖あやかし人にんのために、ねらわれているのかもしれません。明智あけち探偵たんていは、それを心配しんぱいして、俊一しゅんいち君くんのおとうさんの花崎はなさき検事けんじと相談そうだんして、俊一しゅんいち君くんを、ひとりで歩あるかせないことにしました。

いま、いっしょに歩あるいている野上のかみ君くんは、おなじ六ろく年ねん生せいですが、学校がっこうでも、いちばんからだが大おおきく、いちばん力ちからの強つよい少年しょうねんで、また、少年しょうねん探偵たんてい団だんの一員いちいんなのでした。それで、この野上のかみ少年しょうねんにたのんで、俊一しゅんいち君くんの護衛ごえいをつとめてもらっているわけなのです。

そればかりではありません。明智あけち探偵たんていはもっと用心ようじんぶかかったのです。ごらんなさい。ふたりの少年しょうねんが歩あるいていくうしろから、まるでふたりを尾行びこうでもするように、みなりのきたない子こどもたちが、ひとり、ふたり、三さん人にん、四よん人にん、五ご人にん、遠とおくはなれてついてくるではありませんか。

それは、小林こばやし少年しょうねんがつくったチンピラ別働べつどう隊たいの子こどもたちです。上野うえの公園こうえんで悪わるいことばかりしている浮浪ふろう少年しょうねんを集あつめて、すこしでもよいことをさせようと、少年しょうねん探偵たんてい団だんの別働べつどう隊たいをつくったのです。はじめは二十にじゅう人にん以上いじょういたのが、いまでは五ご人にんになっています。世よのなかがよくなって、浮浪ふろう少年しょうねんがへってきたからです。

この五ご人にんのチンピラ別働べつどう隊たいが、やっぱり、俊一しゅんいち君くんの護衛ごえいをつとめているのです。すばしっこい連中れんちゅうですから、いざとなったら、なかなか役やくにたちます。

そのとき、人ひとどおりのない広ひろい道みちのうしろのほうから、砂すなけむりをあげて、一いち台だいの自動じどう車しゃが近ちかづいてきました。そして俊一しゅんいち君くんのそばまでくると、ぐっと速力そくりょくをおとし、俊一しゅんいち君くんとならんで徐行じょこうしていましたが、とつぜん、パッと、自動じどう車しゃのドアがひらき、中なかから太ふとい手てがニューッとでて、あっというまに、俊一しゅんいち君くんを、車くるまの中なかへ、ひきずりこんでしまいました。

「あっ、なにをするんだっ!」

いっしょに歩あるいていた野上のかみ君くんが叫さけびましたが、もう、あとのまつりでした。自動じどう車しゃはパタンとドアをしめて、グングン、むこうへ走はしっていきます。

野上のかみ少年しょうねんは、いきなりかけだして、自動じどう車しゃのあとを追おいました。それといっしょに、うしろからついてきた五ご人にんのチンピラ隊たいも、かけだしました。

「花崎はなさきくーん! 花崎はなさきくーん!」

みんなは、口くちぐちにわめきながら走はしりました。青あおい自動じどう車しゃを追おっかける六ろく人にんの少年しょうねん、しかもそのうちの五ご人にんは、きたならしい浮浪ふろう少年しょうねんです。じつに、へんてこな光景こうけいでした。

しかし、いくらいっしょうけんめいに走はしっても、人間にんげんが自動じどう車しゃに追おいつけるものではありません。だんだんはなれていくばかりです。

やがて、あまりにぎやかではないが、自動じどう車しゃのよく通とおる大通おおどおりにでました。そして、しあわせなことには、むこうから、からのタクシーが走はしってきたのです。

野上のかみ少年しょうねんが、「オーイ。」と呼よびとめると、タクシーはとまりました。

「ぼく、少年しょうねん探偵たんてい団だんのものです。あの青あおい自動じどう車しゃを追おっかけてください。あいてに気きづかれないように。……ぼくの友ともだちが、さらわれたのです。」

野上のかみ君くんがたのみますと、そのタクシーの運転うんてん手しゅは、すぐに承知しょうちしてくれました。まだ二十にじゅう代だいの快活かいかつな青年せいねん運転うんてん手しゅでした。

野上のかみ君くんが、ドアをひらいて乗のりこむあとから、五ご人にんのチンピラも、われさきにと車くるまの中なかへおしこんできました。三さん人にんの座席ざせきに、六ろく人にんがかさなりあって乗のったのです。

「ワー、みんな乗のるのかい。きみたちは学生がくせいじゃないね。それでみんな少年しょうねん探偵たんてい団だんなのかい?」

運転うんてん手しゅが、びっくりして、たずねました。

「うん、そうだよ。おれたちは、チンピラ別働べつどう隊たいっていうんだ。明智あけち先生せんせいと、小林こばやしさんの弟子でしだよ。」

運転うんてん手しゅはそれを聞きくと、べつにもんくもいわずに車くるまを走はしらせました。

「あいてに気きづかれないようにって、むずかしいな。よっぽど、あいだをへだてなくちゃね。」

青年せいねん運転うんてん手しゅは、この冒険ぼうけんが気きにいったらしく、おもしろそうに、そんなことをいいながら、それでも、たくみに自動じどう車しゃの尾行びこうをつづけるのでした。

だんだん、道みちがさびしくなり、両りょうがわに、畑はたけや森もりが見みえてきました。もう世田谷せたがや区くのはずれです。それに、日ひがくれて、あたりがうす暗ぐらくなってきました。

むこうに大おおきな建物たてものが見みえます。日東にっとう映画えいが会社かいしゃの撮影さつえい所しょです。

青あおい自動じどう車しゃは、その撮影さつえい所しょの裏うらがわのいけがきの外そとでピッタリとまりました。それを見みると、

「とめて! これからさきへいくと、あいてに気きづかれる。ぼくたち、ここでおります。待まっててくださいね。」

野上のかみ君くんが運転うんてん手しゅにたのみました。

「うん、いいとも、きみたちが、どんな活躍かつやくをするか、ここから見みているよ。」

青年せいねん運転うんてん手しゅは、たのしそうに答こたえました。

少年しょうねんたちは、車くるまをおりると、はなればなれになって、ものかげをつたいながら、青あおい自動じどう車しゃに近ちかづいていきました。

青あおい自動じどう車しゃのドアはひらいていました。そして、そこから、力ちからの強つよそうな、ふたりの男おとこが、俊一しゅんいち君くんをつるようにして、外そとに出でました。

ああ、ごらんなさい。俊一しゅんいち君くんは、手足てあしをぐるぐる巻まきにしばられ、さるぐつわまで、はめられているではありませんか。

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