← Library‹ 妖人ゴング 少年人形

「あそこまで、いってみようか。」

チンピラのひとりが、そっと野上のかみ君くんに、ささやきます。

「もうすこし、待まつんだ。ひょっとして、みつかったら、たいへんだからね。」

野上のかみ少年しょうねんは、チンピラの肩かたをおさえ、とめました。あたりは、だんだん暗くらくなってきます。夕方ゆうがたと夜よるとのさかいめです。もう二十にじゅう分ふんもすれば、すっかり日ひがくれてしまうでしょう。

じっとがまんをして、十じゅう分ふんほども待まっていました。

すると、ふたりの悪者わるものが、さっきの建物たてものの角かどから姿すがたをあらわし、なにか小声こごえで話はなしながら、こちらへやってくるのです。

「おい、みんな、どっかへ、かくれるんだ。そして、あのふたりが、自動じどう車しゃに乗のって行いってしまうまで、待まつんだ。」

野上のかみ君くんが、小ちいさい声こえで、チンピラたちに命令めいれいしました。

すると、いけがきからのぞいていたチンピラたちは、パッと、地面じめんにうずくまり、はうようにして、むこうの木きのしげみの中なかへ、姿すがたをかくしてしまいました。なんというすばやさでしょう! チンピラたちは、こんなことには、なれきっているのです。

野上のかみ少年しょうねんも、そのあとにつづいて、木きのしげみに、もぐりこみました。そして、木きの葉はのすきまから、じっと、のぞいていますと、ふたりの悪者わるものは、いけがきのやぶれめから、外そとに、出でてきました。

ふたりのほかに、俊一しゅんいち少年しょうねんの姿すがたは、どこにも見みえません。いったい、どうしたのでしょう? 手足てあしをしばられ、さるぐつわをはめられた俊一しゅんいち君くんは、撮影さつえい所しょの建物たてもののどこかに、とじこめられてしまったのでしょうか。

野上のかみ少年しょうねんは、いっこくもはやく、俊一しゅんいち君くんを助たすけださなければならないと思おもいました。悪者わるもののあとを追おうよりも、俊一しゅんいち君くんの命いのちのほうがたいせつです。

やがて、悪者わるものたちは、そこにおいてあった自動じどう車しゃに乗のって、どこともしれず、たちさってしまいました。少年しょうねんたちの自動じどう車しゃは、ずっと遠とおくのほうに待まっていたので、悪者わるものは、それと気きがつかないで、すれちがって行いったのです。

もうだいじょうぶと思おもったとき、野上のかみ君くんは、五ご人にんのチンピラに合図あいずをして、みんなが、木きのしげみからはいだしました。

「これから、撮影さつえい所しょの中なかを探さがすんだ。俊一しゅんいち君くんは、きっと、どこかにとじこめられている。ほうっておいたら、死しんでしまうかもしれない。いっしょうけんめいに探さがすんだよ。」

野上のかみ君くんがいいますと、チンピラたちは、コックリ、コックリと、うなずいてみせて、すぐに、いけがきのやぶれめから、中なかにとびこんでいくのでした。

建物たてものの角かどをまがると、そこに広ひろいあき地ちがあって、撮影さつえいにつかう大だい道具どうぐや小しょう道具どうぐが、あちこちにおいてあります。はりこの鳥居とりいだとか、石灯籠いしどうろうだとか、石膏せっこうでつくった銅像どうぞうのようなもの、そのほか、いろいろのものが、雨あまざらしになって、おいてあるのです。

そのなかに、白しろい石膏せっこうのライオンがうずくまっていました。日本橋にほんばしの三越みつこしの玄関げんかんにおいてある、青銅せいどうのライオンと、よくにた形かたちです。あれほど大おおきくありませんが、ほんもののライオンよりは、すこし大おおきいくらいです。それが、やはり、石膏せっこうの四角しかくな台だいの上うえにうずくまっているのです。全身ぜんしんまっ白しろのライオンです。チンピラのひとりは、ライオンのそばによって、その足あしをなでながら、

「こんなの一いちぴきほしいなあ!」

と、つぶやきました。すると、みんなが、そのそばによって、ライオンの恐おそろしい顔かおを見みあげるのでした。

それから少年しょうねんたちは、撮影さつえい所しょの中なかの建物たてものから、建物たてものへと、まわり歩あるきましたが、どの建物たてものも、みんなかぎがかかっていて、はいれません。

ただ一ひとつ、大おおきなスタジオだけは、夜よるになっても、まだ撮影さつえいをつづけていて、入口いりぐちがすこしひらいていたので、野上のかみ君くんは、その中なかへはいっていきました。

「おい、おい、きみはどこの子こだい? むやみにはいってきちゃいけないよ。」

入口いりぐちのうす暗ぐらいすみっこに、番人ばんにんがこしかけていて、野上のかみ君くんをひきとめました。

「悪者わるものが、この撮影さつえい所しょの中なかに、ぼくの友ともだちをかくしたのです。花崎はなさき俊一しゅんいちというのです。手足てあしをしばって、さるぐつわをはめて、自動じどう車しゃでここへつれてきて、裏うらのいけがきのやぶれめから、しのびこんだのです。」

「ほんとかい? きみ。そんなことをいってごまかして、撮影さつえいを見みにはいるんじゃないのかい?」

「そうじゃありません。ほんとうです。ふたりのおとなが、ぼくぐらいの子こどもをつれて、この中なかへはいりませんでしたか?」

「そんなもの、はいらないよ。きょうは、子こどもは、ひとりもはいらなかった。どっか、ほかを探さがしてごらん。」

番人ばんにんは、野上のかみ君くんのいうことを信しんじないらしく、いっこう、とりあってくれません。

野上のかみ君くんはしかたがないので、ほかを探さがすことにしました。入口いりぐちのあいているのは、あとは事務じむ所しょの建物たてものばかりです。そこへ、はいってみましたが、もう夜よるなので、だれもおりません。宿直しゅくちょくの人ひとがのこっているにちがいないと、ほうぼう探さがしても、ふしぎに人ひとの姿すがたが見みえないのです。

でも、まさか、悪者わるものが俊一しゅんいち君くんを、事務じむ所しょの中なかへつれこんだはずはないので、また、外そとへ出でて、裏うらのほうへ歩あるいていきますと、むこうのうす暗ぐらいなかから、なんだか小ちいさなやつが、ピョン、ピョンと、とぶように走はしってくるではありませんか。近ちかづくのを見みると、それはチンピラ隊たいのひとりでした。

「あっ、野上のがみさん、きてごらん。むこうに、へんなものがあるよ。」

「へんなものって?」

「いろんなものが、ごちゃごちゃおいてある。ひょっとしたら、俊一しゅんいちさんは、あそこに、いれられたのかもしれないよ。」

「よしっ、いってみよう。」

「野上のがみさん、懐中かいちゅう電灯でんとう、持もってるの?」

「うん、ちゃんと、ここに持もってるよ。探偵たんてい七ななつ道具どうぐの一ひとつだからね。」

野上のかみ少年しょうねんは、そういって、ポケットをたたいてみせました。

チンピラに案内あんないされて行いってみますと、それは撮影さつえいに使つかう小しょう道具どうぐが、いっぱいならべてある道具どうぐ部屋へやでした。どうしたわけか、そこの戸とには、かぎがかかっていなかったのです。

ふたりは、懐中かいちゅう電灯でんとうをつけて、中なかにはいりました。

長ながっぽそい部屋へやの両りょうがわに、ずっと棚たながあって、いろいろなものが、ならんでいます。むかしの行灯あんどんだとか、煙草盆たばこぼんだとか、いろいろな形かたちの掛かけ時計とけい、置おき時計とけい、むかしのやぐら時計とけい、花かびんや置おきもの、本棚ほんだなもあれば、洋酒ようしゅのびんをならべる飾かざり棚だなもあります。それから三さん面めん鏡きょうや、むかしのまるい鏡かがみと、鏡台きょうだい、まるで古こ道具どうぐ屋やの店みせのようです。

「あっ、あすこにいる!」

チンピラが、とんきょうな声こえをたてて、野上のかみ君くんに、しがみついてきました。

ギョッとして、そのほうへ、懐中かいちゅう電灯でんとうをむけますと、そこに、俊一しゅんいち君くんらしい小学しょうがく生せい服ふくの子こどもが、壁かべによりかかっているではありませんか。

野上のかみ君くんは、「あっ。」といって、かけよりました。

近ちかよって、懐中かいちゅう電灯でんとうで、その子こどもの顔かおを照てらしました。ちがいます。俊一しゅんいち君くんではありません。それじゃ、いったい、どこの子こなのでしょう。いや、どこの子こでもありません。それは人間にんげんではなかったのです。学生がくせい服ふくをきた人形にんぎょうにすぎなかったのです。

よく見みると、少年しょうねん人形にんぎょうのそばに、おとなの男おとこや女おんなの人形にんぎょうが、三みつも四よんつも壁かべにもたせかけてありました。みんな撮影さつえいに使つかう人形にんぎょうなのです。

「なあんだ。人形にんぎょうかあ。おれ、てっきり俊一しゅんいちさんだと思おもっちゃったよ。」

チンピラが、がっかりしたように、つぶやきました。

そのときです。道具どうぐ部屋へやの入口いりぐちから、もうひとりのチンピラが、かけこんできました。

「野上のがみさん、こんなとこにいたのか。ずいぶん探さがしたよ。……みつかったよ。みつかったよ。俊一しゅんいちさんのかくれているとこがさ。」

そのチンピラは、息いきせききっていうのでした。

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