← Library‹ 妖人ゴング ゴングとは何者

怪人かいじんは、また、しゃべりはじめました。

「明智あけち君くん、おれは執念しゅうねんぶかいぞ。戦たたかいは、これからだ。おれはマユミと俊一しゅんいちを、かならず、とりこにしてみせる。一いち度どは、きみのおせっかいで失敗しっぱいしたが、そんなことで、ひきさがるおれじゃない。花崎はなさき検事けんじに、そういっておいてくれ。一いち週間しゅうかん、そうだ、きょうから一いち週間しゅうかんのうちに、マユミと俊一しゅんいちをつれだしてみせる。そして、二に度どと、顔かおを見みることができないようにしてやる。妖あやかし人にんゴングの名誉めいよにかけて、これを宣言せんげんする。わかったか。明智あけち君くん、いつか、きみにあうときもあるだろう。用心ようじんするがいい。おれは、こうと思おもったことは、きっと、やりとげる男おとこだ。」

この恐おそろしいことばがおわると、またしても、

「ウワン、ウワン、ウワン、ウワン……。」

と、あのいやらしい音おとが、ひびいてきました。そして、その音おとが、だんだん小ちいさくなって消きえてしまうと、ぷっつりと電話でんわがきれました。

「どうせ、遠とおくの公衆こうしゅう電話でんわからかけたのでしょう。電話でんわ局きょくでしらべて、警察けいさつにしらせてみても、とても、まにあいません。こうなれば、あいてがせめてくるのを、待まつほかはありません。ところで……。」

明智あけち探偵たんていは、もとのいすにもどって、テーブルごしに、じっと花崎はなさきさんの顔かおを見みつめました。

「こいつは、魔法まほうつかいの妖あやかし人にんみたいに見みせかけていますが、むろん、われわれとおなじ人間にんげんです。おそらく、あなたに、深ふかいうらみをもっているやつです。マユミさんや、俊一しゅんいち君くんをいじめるのも、あなたに、気きがちがうほど心配しんぱいさせるためです。なにか、そういう、うらみをうける、お心こころあたりはありませんか。」

「わたしは、いちじは、鬼おに検事けんじというあだなをつけられていたほどで、悪わるいやつには、ようしゃなく、びしびしやるほうでしたから、犯罪はんざい者しゃには、ずいぶん、うらまれているわけです。しかし、それはみんなむこうが悪わるいからで、こんな復讐ふくしゅうをうけるおぼえはないのですが……。」

「でも、犯罪はんざい者しゃというやつは、じぶんの悪わるいのは棚たなにあげておいて、検事けんじさんを、うらむことがよくあるものです。なにか、重おもい罪つみをおかしたもので、このごろ、刑務けいむ所しょを出でたものとか、または、脱獄だつごくしたものとか、そういう、お心こころあたりはありませんか。」

「それなら、たいして多おおくはありません。まあこんな連中れんちゅうですね。」

花崎はなさきさんは、テーブルのうえにあったメモの紙かみに、五ご―六ろく人にんの名なを書かいて、明智あけちに出だしてみせました。

明智あけちは、その人名じんめいを、じっと見みていましたが、ある名なまえを、指ゆびでおさえて、

「これです!」

と、低ひくいけれども力ちからのこもった声こえで、いいました。

「えっ? そいつが、あのゴングですって?」

「そうです。こいつでなければ、妖あやかし人にんゴングにばけることはできません。こいつならば、じつに恐おそろしいあいてです。」

明智あけちはそういって、じっと、花崎はなさきさんの顔かおを見みつめました。花崎はなさきさんも、青あおざめた顔かおになって明智あけちを見みつめました。そうして、ふたりは、たっぷり一いち分間ふんかん、身みうごきもせず、異様いようなにらみあいをつづけたのです。

やっとしてから、明智あけちのひきしまっていた顔かおが、にこにこ顔かおにかわりました。

「いや、そんなに、ご心配しんぱいになることはありません。わたしがついていれば、けっして、あいつの思おもうようにはさせません。しかし、よほど用心ようじんしなくてはいけません。こうなったら、非常ひじょう手段しゅだんをとるほかはないのです。あいてが、妖あやかし人にんの魔法まほうつかいですから、こちらも魔法まほうつかいになるのです。そんなとほうもないことをと、おっしゃるかもしれませんが、そのとほうもないことをやらないと、あいつには勝かてないのです。」

そして、明智あけちは、なにか、ひそひそと、花崎はなさきさんの耳みみにささやくのでした。それをきくと、花崎はなさきさんの顔かおが、すこし明あかるくなってきました。

「なるほど、悪魔あくまの知恵ちえには、悪魔あくまの知恵ちえで、というわけですね。二に重じゅう底ていの秘密ひみつというわけですね。わかりました。明智あけちさんのお考かんがえに、したがいましょう。いっさい、おまかせしますよ。」

そして、ふたりは、またなにか、ひそひそと、ささやきあうのでした。

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