← Library‹ 妖人ゴング ふたりの老人

東京とうきょう都との西にしのはし、西多摩にしたま郡ぐんに、平沢ひらさわという村むらがあります。多摩たま川かわの上流じょうりゅうに近ちかい山やまの中なかで、けしきのよい小ちいさな村むらです。

その村むらはずれに、一いち軒けんのわらぶきの農家のうかがあります。いちばん近ちかい家いえでも、百ひゃくメートル以上いじょうはなれているという、さびしい一いち軒けん家やです。

このごろ、そこへ、見みなれぬ人ひとたちが住すむようになりました。しらが頭あたまに、白しろいあごひげのはえた、七十ななじゅうにちかいようなおじいさんと、十じゅう六ろく―七ななのいなかむすめと、十じゅう二に歳さいぐらいの男おとこの子こと、としとったばあやとの四よん人にんぐらしです。

いなかむすめは、あまり美うつくしくありませんし、男おとこの子こも、黒くろくよごれたきたない顔かおをしています。ふたりは、きょうだいのようですが、学校がっこうへもいかず、山やまへ遊あそびにいくわけでもなく、いつも、一間ひとまにとじこもって、本ほんを読よんでいます。なんだか元気げんきのない子こどもたちです。

おじいさんも、畑仕事はたけしごとなどしないで、たいていは家いえにいて、草花くさばななどのせわをして、暮くらしています。

ある朝あさはやくのことでした。ちょうど、夏なつで、縁えんがわの前まえには鉢植はちうえのアサガオがたくさんならんでいて、赤あかや青あおや紫むらさきの大おおきな花はなが、美うつくしくひらいていました。

カーキ色いろの仕事しごと服ふくをきたおじいさんは、その前まえにしゃがんで、アサガオの葉はの虫むしをとっていましたが、そのとき、

「おはよう。せいがでますな。」

という声こえが聞きこえました。

ふりかえってみると、いけがきの外そとから、いなかもののじいさんが、にこにこ笑わらいながらのぞいていました。

よごれたゆかたを着きて、しりはしょりしています。やっぱり、半分はんぶんしらがになったごましお頭あたまで、もじゃもじゃと、ぶしょうひげをはやしています。日ひにやけた黒くろい顔かおです。

「どなただね。見みかけないお人ひとじゃが……。」

しらひげのおじいさんが答こたえますと、いなかじいさんは、また、にこにこ笑わらって、

「わしは、この隣村りんそんのものじゃが、アサガオが、あんまりみごとなもんで、つい、声こえをかけただよ。」

「そうかね。おまえさんも、アサガオがすきかね。まあ、いいから、こっちへはいって見みてください。」

そういわれたので、いなかじいさんは、しおり戸どをあけて、のこのこ、中なかへはいってきました。

「まあ、ここへ、おかけなさい。いま、お茶ちゃでもいれますから。」

そういって、しらひげのおじいさんが、縁えんがわに腰こしをかけると、いなかじいさんも、ならんで腰こしかけ、アサガオのそだてかたについて、話はなしがはずみましたが、いなかじいさんは、庭にわぜんたいの草花くさばなが見みたいというので、縁えんがわから立たって、庭にわの奥おくのほうまで見みまわるのでした。

主人しゅじんのしらひげのおじいさんも、そのあとから歩あるいていきましたが、ふたりのあいだが、ずっとへだたって、いなかじいさんが、家いえの角かどをむこうへまがっていくのを待まって、こちらの軒下のきしたにおいてある木きの箱はこのふたをひらき、その前まえにしゃがんで、なにかやっていましたが、やがて立たちあがると、箱はこの中なかから一ひと羽わのハトが、ばたばたと飛とびだして、サーッと空そらに舞まいあがり、そのまま、どこかへ飛とびさってしまいました。

いなかじいさんは、それには気きがつかず、むこうの角かどからもどってきました。

それから、ふたりのおじいさんは、しばらく肩かたをならべて、庭にわの草花くさばなを見みまわっていましたが、もとの縁えんがわへもどろうと歩あるきだしたとき、あとから、しらひげのおじいさんが声こえをかけました。

「ああ、もしもし、これ、あんたのじゃありませんか。ここに落おちてましたが。」

それは、ラシャでつくった、ひどくでっかいかみいれでした。

「あ、そうです。そうです。それは、わしのさいふです。」

いなかじいさんは、あわてて、それを受うけとると、ふところへ、ねじこみました。

「ハハハ……、よっぽど、だいじなものがはいっているとみえますね。なかなか、重おもいじゃありませんか。」

「いや、いや、くだらないもんです。お金かねだといいんだが、ハハハ……。」

と、じいさんは、ごまかしてしまいました。

ふたりが、もとの縁えんがわに腰こしをかけると、しらひげのおじいさんは、

「では、お茶ちゃをいれますから、ちょっと、待まっていてください。」

といって、奥おくへはいっていきました。

いなかじいさんは、ひとりになると、あたりを、キョロキョロ見みまわして、縁えんがわから家やの中なかへあがり、そっと、むこうの障子しょうじの奥おくをのぞくのでした。その障子しょうじの奥おくには、まだ、かやがつってあって、きょうだいの子こどもが眠ねむっているのです。

じいさんは、障子しょうじのすきまから、そのかやのほうを、じっと見みています。気味きみのわるいじいさんです。ひょっとしたら、どろぼうかもしれません。

そのとき、とつぜん、しらひげのおじいさんが、べつの部屋へやから出でてきました。

「おきのどくだが、とうとう、わなにかかったね。」

いなかじいさんは、ぎょっとしてふりむき、

「え、なんだって?」

と、しらばっくれて、しかし、もう逃にげごしになっています。

「ハハハハ……、だめだよ。逃にげようたって、わしは、こうみえても、かけっこの名人めいじんだからね。」

いなかじいさんは、縁えんがわまではいもどって、もとのところに腰こしかけました。

「なにいってるだね。わしは、ただちょっと……。」

「ハハハ……、ただちょっと、かやの中なかのふたりを、たしかめにいったのだろう? じつは、もうくるか、もうくるかと、わしは、きみを待まちかまえていたのだよ。うまく、わなにかかったねえ。」

ふたりの老人ろうじんは、恐おそろしい顔かおでにらみあいました。おたがいの腹はらの底そこまで、見みすかそうとしているのです。

そのとき、いなかじいさんは、すばやく、ふところに手てをいれて、さっきのさいふの中なかから、小型こがたのピストルをとりだし、さっと、しらひげのおじいさんにつきつけました。

「これはどうだね。ハハハ……、きみが拾ひろってくれたさいふの中なかには、これがいれてあったのさ。じたばたすると、ぶっぱなすぞっ。」

しかし、しらひげのおじいさんは、すこしもさわぎません。にこにこ笑わらって、じっとあいてを見みています。

「きさま、これが、こわくないのか。命いのちがおしくないのか。」

「命いのちはおしいよ。だが、そんなピストルは、こわくもなんともないよ。さっき、拾ひろったというのはうそで、きみのふところからぬきとって、たまをみんな出だしておいたのだよ。」

おじいさんは、そういって、カーキ色いろの服ふくのポケットから、ピストルのたまを六むいつとりだし、てのひらにのせて、じゃらじゃらいわせるのでした。

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