← Library‹ 妖人ゴング 名探偵の奥の手

マユミさんと俊一しゅんいち君くんは、しかたがないので、縁えんがわに腰こしかけている明智あけちの上うえ半身はんしんを、ほそびきでぐるぐると巻まきつけました。

ゴングは、ピストルをかまえながら、そのそばにより、ほんとうにしばってあるかどうかをたしかめ、ほそびきの結むすびめを、いっそうかたく締しめつけるのでした。

「明智あけち先生せんせい、きのどくだが、おれの勝かちだね。マユミと俊一しゅんいちは、おれがつれていくよ。いなかじいさんに手てをひかれた、いなか者もののきょうだいだ。だれもあやしむものはない。さあ、ふたりとも、こっちへきなさい。」

ゴングのいなかじいさんは、急きゅうにやさしい顔かおになって、ふたりの手てをとろうとしました。

すると、そのとき、みょうなことが起おこったのです。

クックックックッ……というような、へんな音おとが聞きこえてきました。おやっと思おもって耳みみをすますと、その音おとは、からだをしばられて、うつむいているしらひげの口くちから、もれているようです。

その音おとが、だんだん大おおきくなってきました。明智あけちの老人ろうじんが、首くびをあげました。おかしくてたまらないという顔かおつきです。笑わらいをかみころしていたのです。それが、とうとう爆発ばくはつしました。

「ワハハハハ……、きみのほうに奥おくの手てがあれば、ぼくのほうにだって、いろいろ奥おくの手てがあるんだよ。小林こばやし君くん。かつらを取とって、見みせてやりたまえ。」

それを聞きくと、いなかむすめのマユミさんが、両手りょうてを頭あたまにあげて、女おんなのかつらを、スッポリとぬいでみせました。女おんなの子こだとばかり思おもっていたのが、じつは、男おとこの子この変装へんそうだったのです。

「ハハハハ……。どうだね、また、いっぱい食くったね。小林こばやし君くんは、このあいだ、マユミさんに変装へんそうして、きみにひどいめにあったばかりだ。おなじトリックに、二に度どもかかるなんて、ゴングも、もうろくしたもんだね。

それから、この子こども、俊一しゅんいち君くんじゃないよ。俊一しゅんいち君くんによく似にた子こどもをさがしだして、ここへつれてきたのさ。ハハハハ……。どうだね、せっかく、ぼくをしばっても、マユミさんと俊一しゅんいち君くんがにせものでは、なんにもならなかったね。

いや、そればかりじゃない。ぼくの奥おくの手ては、まだあるんだよ。ほら、見みてごらん。ぼくは、縄なわぬけの名人めいじんだからね。」

しらひげの老人ろうじんは、そういって、すっくと立たちあがったかとおもうと、しばられていた両手りょうてを、ヌッとつきだしてみせました。ほそびきは胴体どうたいに、ぐるぐる巻まきになっていますが、両手りょうてがぬけてしまったのですから、もうなんの不ふ自由じゆうもありません。

勝かちほこっていたゴングのいなかじいさんは、このふいうちに、あっけにとられて、ピストルを持もつ手ても、だらりとたれたまま、ぼんやりつっ立たっていました。

きびんな小林こばやし少年しょうねんが、それを見みのがすはずはありません。女おんなの寝ねまきをきた小林こばやし君くんのからだが、宙ちゅうにおどりました。

「あっ、ちくしょう!」

いなかじいさんが、どなったときには、もうピストルは、小林こばやし君くんの手てににぎられていました。ふいをうって、ピストルをうばい取とってしまったのです。

小林こばやし君くんは、そのピストルをかまえて、ゴングにねらいをさだめました。こんどは、ゴングじいさんのほうが、両手りょうてをあげる番ばんでした。

しかし、ゴングもさるものです。いちじはおどろいたようですが、たちまち、気力きりょくをとりもどして、にやにや笑わらいだしました。

「ウフフフ……、で、どうしようというのだね。ピストルをうつのかね。だが、きみには、うてないのだよ。うてば、おれが死しぬんだからね。きみたちは、人ひとごろしなんか、できっこないよ。では、ピストルでおどかして、おれをしばろうとでも、いうのかね。ところが、それもだめだよ。おれは、しばられないからね。おれはもう、このうちに用事ようじはないから、おいとまをするばかりだ。それじゃあ、あばよ。」

ゴングのじいさんは、相手あいてがピストルをうつはずはないとたかをくくって、いけがきのしおり戸どのほうへ、ゆうゆうと歩あるいていくのでした。

「待まちたまえ!」

明智あけち探偵たんていが、自信じしんにみちた、おもおもしい声こえで呼よびかけました。ゴングじいさんは、思おもわず立たちどまって、こちらをふりむきます。

「きみ、あれが聞きこえないかね。ほら、だんだん、近ちかづいてくるじゃないか。ぼくのほんとうの奥おくの手てというのは、これなんだよ。」

明智あけちは、にこにこ笑わらっていました。

ゴングじいさんの顔かおが、まっさおになりました。いけがきのむこうから聞きこえてくる音おとが、恐おそろしい意味いみをもっていたからです。

それは、自動じどう車しゃの音おとでした。いけがきのむこうに、その黒くろいボディが見みえたかとおもうと、キーンというブレーキの音おとがして、しおり戸どの前まえに自動じどう車しゃがとまり、そのドアがひらいて、三さん人にんの警官けいかんが、手てに手てにピストルを持もって、とびだしてくるのが見みえました。

立たちすくんだゴングじいさんのうしろから、明智あけちの声こえがひびきます。

「わかったかね。きみはもう、のがれられないのだ。無電むでんをそなえつけるひまがなかったので、伝書でんしょバトでまにあわせたのだ。さっき、きみが裏うらのほうへまわっているすきに、ぼくは、伝書でんしょバトを飛とばした。近ちかくの町まちの警察けいさつ署しょでかっている伝書でんしょバトだよ。

ハトは十じゅう分間ふんかんで警察けいさつへ飛とんでいった。ハトの足あしには、ゴングがきたという手紙てがみをいれた通信つうしん筒とうがつけてあった。そこで、警官けいかんの出動しゅつどうとなったのだよ。ぼくは、いろんなことをいって、きみをひきとめ、この自動じどう車しゃがくるのを待まっていたのさ。」

三さん人にんの警官けいかんは、もう、しおり戸どをあけてはいってきました。

ああ、妖あやかし人にんゴングは、とうとう、つかまってしまうのでしょうか。

しかし、相手あいては魔法まほうつかいのような怪物かいぶつです。まだ、どんな奥おくの手てが残のこっていないともかぎりません。なんだか心配しんぱいです。胸むねがドキドキしてきます。

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