← Library‹ 妖人ゴング さいごの手段

立たちすくんでいたゴングじいさんが、パッと身みをひるがえしました。

「おれには、さいごの奥おくの手てがあるんだっ。」

と叫さけびざま、明智あけち探偵たんていのほうへ突進とっしんしてきました。小林こばやし君くんは、ピストルをかまえていましたけれど、うつことができません。それほどゴングは、すばやかったのです。

明智あけちにとびかかるかと見みていると、そうではなくて、明智あけちの横よこをとおりすぎて、いきなり、縁えんがわにとびあがり、あっと思おもうまに、奥おくの部屋へやにかくれてしまいました。

そのとき、警官けいかんたちは、もう、縁えんがわの近ちかくまできていましたが、ゴングじいさんの姿すがたが見みえないので、ピストルをうつこともできません。

「裏うらへまわってください。裏うらから逃にげるつもりです。」

明智あけちの声こえに、警官けいかんたちは、家いえの横よこを裏うらのほうへ、とんでいきましたが、もう、まにあいません。ゴングじいさんは、一いち直線ちょくせんに、家いえの中なかを突つっきって、裏手うらてにとびだすと、そのまま、いけがきを乗のりこして、裏山うらやまの森もりの中なかへ逃にげこんでしまいました。そのはやいこと! まるで、つむじ風かぜがとおりすぎるようでした。

三さん人にんの警官けいかんが、それにつづいて、森もりの中なかへとびこんでいったことは、いうまでもありません。

道みちもない森もりの中なか。頭あたまの上うえは、いくえにも木この葉はにとざされて、まっ暗くらです。イバラやつる草くさが、ゆくてをふさいでいて、なかなか、はやくは進すすめません。

ゴングじいさんの姿すがたは、はるかむこうに、ちらちらと見みえたりかくれたりしています。三さん人にんの警官けいかんは、ターン、ターン、ターンと、空そらにむかって、おどかしのピストルを発射はっしゃしました。

しかし、そんなことで、おどろくゴングではありません。かれの姿すがたは、ますます遠とおざかっていくばかりです。

そのとき、警官けいかんたちは、ぞっとして立たちどまりました。

「ウワン……ウワン……ウワン……ウワン……。」

どこともしれず、あの恐おそろしい音おとが聞きこえてきたからです。はじめは小ちいさく、だんだん大おおきく、しまいには、こまくやぶれるばかり恐おそろしいひびきとなって、おそいかかってくるのです。

ふと気きがつくと、むこうの木きのあいだに、白しろいもやのようなものがたちこめていました。だれかたき火びでもしているのかと思おもいましたが、そうでもありません。うす暗ぐらい森もりの下したに、白しろいものが、ボーッとたちこめているのです。

警官けいかんたちは、思おもわず立たちどまって見みていますと、その白しろいもやの中なかに、ぼんやりと、へんなものがあらわれてきました。

あっ! 人ひとの顔かおです。五ごメートル四方しほうもあるような、でっかい人ひとの顔かおです。いや人間にんげんではありません。人間にんげんに、あんな牙きばがはえているはずはないのです。

ギョロリと光ひかったまんまるな目め、大おおきな鼻はな、耳みみまでさけた恐おそろしい口くち、そこから、ニューッと、とびだしている大おおきな牙きば。

妖あやかし人にんゴングです。ゴングが正体しょうたいをあらわしたのです。

「撃うてっ!」

警官けいかんのひとりが叫さけびざま、怪物かいぶつの顔かおにむかってピストルを発射はっしゃしました。あとのふたりも、それにつづいて、ターン、ターンとピストルを撃うちました。

しかし、白しろいもやの中なかの怪物かいぶつは、びくともしません。大おおきな口くちを、キューッとまげて、あざ笑わらっているばかりです。

勇敢ゆうかんな警官けいかんたちは、いきなり、白しろいもやにむかって突進とっしんしていきました。怪物かいぶつにつかみかからんばかりのいきおいです。

ところが、近ちかづくにしたがって、もやの中なかの怪物かいぶつが、とけるように、くずれていきました。そして、警官けいかんたちが、もやの中なかにふみこんだときには、もう、そこには、なにもないのでした。ただ、うすい煙けむりのようなものが、ふわふわと、ただよっているばかりです。

そのとき、またしても、警官けいかんたちを、あざ笑わらうように、あのぶきみな音おとが、ひびいてきました。

「ウワン……ウワン……ウワン……ウワン……。」

その音おとにまじって、もうひとつの、みょうな音おとが聞きこえてくるのです。

「ブルン、ブルン、ブルン、ブルルルル……。」

そして、サーッと嵐あらしのような風かぜが吹ふきつけてきました。そのへんの立たち木ぎが、ざわざわとゆれています。

怪物かいぶつが、なまぐさい風かぜをまきおこして、天てんにでものぼっていくのでしょうか。警官けいかんたちは、なんだか、そんな感かんじがしました。

白しろいもやをくぐりぬけて、なおも進すすんでいきますと、むこうのほうが、パッと明あかるくなりました。そこで森もりがなくなって、原はらっぱがひろがっているらしいのです。小山こやまのいただきが、原はらっぱになっているのでしょうか、つむじ風かぜは、その原はらっぱのほうから吹ふきつけているらしいのです。

警官けいかんたちは、やっと、森もりをぬけて、原はらっぱに出でました。

「あっ! あれをみたまえ。」

さきにたっていた警官けいかんが、空そらを指ゆびさして叫さけびました。

ああ、ごらんなさい。小山こやまのいただきの原はらっぱの空そらには、一いち台だいのヘリコプターが、舞まいあがっているではありませんか。

「あっ、ゴングは、あれに乗のって逃にげだしたんだ。あいつは、ヘリコプターを、ちゃんと、ここに待またせておいたんだ。」

まだ、そんなに高たかくあがっていないので、すきとおったプラスチックばりの操縦そうじゅう席せきが、よく見みえます。そこには、ゴングの部下ぶからしいひとりの操縦そうじゅう者しゃと、いなかじいさんにばけたゴングとが乗のっていて、いなかじいさんは下したを見みおろして、にやにや笑わらっているのが、まざまざと見みえるのです。

警官けいかんたちは、こぶしをふるって、空そらにどなりつけましたが、なんのかいもありません。つづけざまにピストルをぶっぱなしましたが、ヘリコプターにはあたりません。

ヘリコプターは、上うえへ上うえへとのぼって、東京とうきょうのほうにむかって遠とおざかっていきます。豆まめつぶのように小ちいさくなり、それも、やがて見みえなくなってしまいました。

妖あやかし人にんゴングは、明智あけち探偵たんていのために裏うらをかかれて、なにもすることもできず逃にげさったのです。しかし、さすがの名めい探偵たんていも、ゴングをとらえることはできませんでした。まさか、ヘリコプターまで用意よういしているとは気きがつかなかったからです。

Next chapter →
Click a word · hold for the whole sentence 0%