← Library‹ 妖人ゴング 地底の声

お話はなしかわって、こちらは東京とうきょう世田谷せたがや区くの花崎はなさきさんの家いえです。ここでも、みょうなことが起おこっていました。

西多摩にしたま郡ぐんの山やまの中なかにかくれていたのは、にせものだったのですから、ほんもののマユミさんと俊一しゅんいち君くんは、花崎はなさきさんの家いえの、どこかに身みをひそめていたのかというと、そうでもありません。ふたりは、花崎はなさきさんの家いえからも、姿すがたを消けしてしまったのです。明智あけち探偵たんていの計略けいりゃくで、ほんもののほうも、どこかへ、かくしてしまったのです。

おとうさんの花崎はなさき検事けんじとおかあさんだけは、明智あけちと相談そうだんのうえ、ふたりの子こどもをかくしたのですから、ほんとうのことを知しっていましたが、やとい人にんなどは、なにも知しりません。マユミさんと俊一しゅんいち君くんが、どこかへいってしまったので、ゴングにさらわれたのではないかと、おおさわぎです。

おとうさんやおかあさんも、うわべは心配しんぱいそうにして、ほうぼうへ電話でんわをかけてたずねたり、警視けいし庁ちょうの中村なかむら警部けいぶにもしらせましたので、警部けいぶは数すう名めいの刑事けいじをつれて、花崎はなさきさんの家いえをしらべにきました。

この中村なかむら警部けいぶは明智あけち探偵たんていの親友しんゆうですから、ちゃんと、ほんとうのことを知しっていました。でも、世間せけんには、ふたりがゆくえ不明ふめいになったと、見みせかけておかなければ、ゴングをだますことができませんので、わざと、家やさがしをしたりして、さわいで見みせたのです。

それから毎日まいにち、ひとりの刑事けいじが花崎はなさきさんの家いえにつめきって、なにかの見みはりをすることになりました。刑事けいじといっても、ふつうのセビロを着きているのですから、花崎はなさきさんの事務じむ員いんとしか見みえません。だれもあやしむものはないのです。

しかし、その刑事けいじさんは、いったい、なにを見みはっていたのでしょう。花崎はなさきさんの家いえの西洋せいよう館かんのはしにある、俊一しゅんいち君くんの勉強べんきょう部屋へやに、刑事けいじさんはいつも腰こしかけて、窓まどの外そとを見みていました。ゴングが庭にわへしのびこんでくるのを、待まちかまえているのでしょうか?

そのうちに、みょうなことが起おこってきました。

ある夕ゆうがたのこと、ひとりのお手伝てつだいさんが顔色かおいろをかえて、マユミさんたちのおかあさんの部屋へやへ、かけこんできました。

「おくさま、なんだかへんですわ。いま、お庭にわを歩あるいていましたら、どこかから歌うたをうたっている声こえが、かすかに聞きこえてきたのです。それが、俊一しゅんいちさんが、いつもおうたいになる歌うたで、声こえも俊一しゅんいちさんと、そっくりなのです。わたくし、おやっと思おもって、庭にわの木きのあいだを探さがしてみましたが、だれもいません。それでいて、歌うたの声こえは、いつまでも、かすかにつづいているのです。おくさま、その声こえは、なんだか地ちの底そこから、ひびいてくるように思おもわれました。わたくし、恐おそろしくなりました。俊一しゅんいちさんは、もしかしたら、庭にわの地ちの底そこにいらっしゃるのではないでしょうか。その歌うたは、さびしい悲かなしそうな声こえでしたわ。」

と、さもこわそうに、うしろをふりかえりながら、うったえるのでした。

おかあさんは、それを聞きいても、べつに心配しんぱいらしいようすもなく、笑わらいながら、お手伝てつだいさんをたしなめました。

「それは気きのせいですよ。そんなばかなことがあるものですか。きっとへいの外そとで、どこかの子こどもが、うたっていたのよ。」

お手伝てつだいさんは、おくさまが取とりあってくださらないので、そのまま、ひきさがりましたが、このふしぎなできごとは、けっして、お手伝てつだいさんの気きのせいではなかったのです。

俊一しゅんいち君くんは、ほんとうに、地ちの底そこで、悲かなしい歌うたをうたっていたのです。いったい俊一しゅんいち君くんはどこにいたのでしょうか。

ところが、その晩ばんのこと、もっともっと恐おそろしいことが起おこりました。

花崎はなさきさんの家いえの上うえのまっ暗くらな空そらを、一いち台だいのヘリコプターが、通とおりすぎました。ブーンというプロペラの音おとが聞きこえたのです。

しかし、飛行ひこう機きやヘリコプターが、家いえの上うえをとおるのは、いつものことですから、だれも、あやしむものはありませんでした。

すると、それからまもなく、花崎はなさきさんのお庭にわの空そらいっぱいに、あの恐おそろしい怪物かいぶつの顔かおがあらわれたのです。

「ウワン……ウワン……ウワン……ウワン……。」

という、ぶきみな音おとが、教会きょうかいの鐘かねのようにひびきわたったので、花崎はなさきさんをはじめ家いえの人ひとは、みんな、窓まどや縁えんがわに出でて、空そらを見みあげました。

すると、あの恐おそろしい顔かおが、らんらんと目めを光ひからせ、牙きばをむきだして、やみの空そらいっぱいに、花崎はなさきさんの庭にわを見みおろして、ウワン、ウワンと、笑わらっていたではありませんか。

あいては雲くもの上うえの怪物かいぶつです。どうすることもできません。みんなは、一ひとつの部屋へやに逃にげこんで、耳みみをおさえて、うずくまっているほかはないのでした。

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