← Library‹ 妖人ゴング 防空壕の中

そのあくる日ひのことです。花崎はなさきさんの家いえの俊一しゅんいち君くんの勉強べんきょう部屋へやに、見みなれぬ刑事けいじが、見みはりばんをつとめていました。

刑事けいじは、かわりあってやってくるので、毎日まいにち同おなじではありませんが、今日きょうの刑事けいじは、いままで、一いち度どもきたことのない人ひとでした。その刑事けいじは、

「わたしは、二に―三み日かまえに刑事けいじをつとめるようになった、しんまいです。」

と、あいさつして、にやにや笑わらいました。なんだか、へんな刑事けいじさんです。

その刑事けいじは、お昼ひるから夜よるまで、ずっと見みはりをつづけていましたが、夜よるの九きゅう時じごろ、うちの人ひとが、みんな寝室しんしつへひきとり、あたりが、しーんとしずかになるのを待まって、刑事けいじは俊一しゅんいち君くんの洋室ようしつの窓まどをあけ、そこから庭にわへとびおりました。

まっ暗くらな庭にわに立たって、しばらく、そのへんを見みまわしていましたが、だれもいないことがわかると、広ひろい庭にわの木立こだちの中なかへはいっていきます。いったい、この刑事けいじは、なにをするつもりなのでしょう。

木立こだちの中なかに、土手どてのように小こだかくなったところがあります。刑事けいじはそのそばによって、土手どての横よこにある四角しかくな鉄てつのとびらを、パッとひらきました。

それは、むかし、戦争せんそうのときにつくった防空ぼうくう壕ごうの入口いりぐちだったのです。戦争せんそうのときは、空襲くうしゅうがあると、家いえじゅうのものが、そこへ逃にげこんだものです。

花崎はなさきさんの庭にわにある防空ぼうくう壕ごうは、ぜんぶコンクリートでつくり、鉄てつのとびらをあけ、階段かいだんをおりて、コンクリートの地下ちか室しつにはいるようになっていました。

がんじょうなコンクリートづくりなので、こわすのがたいへんですし、物置ものおき部屋へやにつかうこともできますので、花崎はなさきさんは、防空ぼうくう壕ごうをこわさないで、そのままにしておいたのです。

刑事けいじは、まっ暗くらな階段かいだんをおり、そこにもう一いち枚まいしまっている鉄てつのドアを、こつこつと、たたきました。

「だれ?」

中なかから、子こどもの声こえが聞きこえました。

「わたしだよ。おとうさんだよ。ちょっと、ここをあけなさい。」

刑事けいじが、花崎はなさきさんとそっくりな声こえでいいました。このあやしい刑事けいじは、ものまねの名人めいじんです。

カチカチと、かぎの音おとがして、鉄てつのドアがひらきました。

あっ、こんなところに! ……その地下ちか室しつの中なかには、ゆくえ不明ふめいになったマユミさんと俊一しゅんいち君くんが、かくれていたのです。てんじょうからさがった小ちいさな電灯でんとうが、ふたりの顔かおを照てらしています。

ふたりはゴングをだますために、どこかへいってしまったと見みせかけて、じつは、こんな地下ちか室しつの中なかで、不ふ自由じゆうな思おもいをしていました。食事しょくじは、だれも見みていないときに、おかあさんが、そっと運はこんでいてくださったのです。

ふたりは、おとうさんと思おもいこんで、ドアをひらいたのですが、そこに見みしらぬ男おとこが立たっていたので、ハッとしてドアをしめようとしました。しかし、もう、おそかった! 刑事けいじは、ドアをおしひらいて、地下ちか室しつの中なかへ、ヌーッとはいってきました。

「きみたち、マユミさんと、俊一しゅんいち君くんだね。」

刑事けいじが、にやにや笑わらいながらいうのです。

「そうだよ。きみはだれなの?」

俊一しゅんいち君くんが、ききかえしました。

「わたしは、警視けいし庁ちょうの刑事けいじだよ。きみたちを迎むかえにきたのだ。もう、外そとへ出でてもだいじょうぶだよ。」

それを聞きくと俊一しゅんいち君くんは、しばらく考かんがえていましたが、ハッとなにかに気きづいたようすで、

「じゃあ、なぜ、おとうさんだなんて、うそをいったの?」

「いや、あれは、ちょっといたずらをしたんだ。なんでもないよ。さあ、いこう。」

刑事けいじはそういって、ふたりの手てをとろうとしましたが、ふたりは、さっと身みをひいて、それをさけました。

「いやだよ。じゃあ、なぜ、おとうさんやおかあさんが、じぶんでこないんだい? ぼくたちは、ちゃんと約束やくそくしたんだ。この地下ちか室しつへは、おとうさんと、おかあさんと、明智あけち先生せんせいのほかは、だれもはいってこないはずなんだよ。もし、そのほかの人ひとがはいってきたら、敵てきだと思おもえといわれているんだ。」

俊一しゅんいち君くんが、そこまでいいますと、ねえさんのマユミさんがひきとって、あとをつづけました。

「そうよ。それに、けさ、おかあさまに聞きいたわ。ゆうべ、家いえの空そらに、ゴングの顔かおがあらわれたんですって、あれは、ゴングがやってくる前まえぶれよ。」

「そうだ。きみは、そのゴングか、ゴングの手下てしただろう。え、そうだろう。ぼくたちを、つれだしにきたんだろう?」

俊一しゅんいち君くんも、叫さけぶようにいうのです。すると、刑事けいじが、いやな笑わらい声ごえをたてました。

「ウフフフフフフ……、おまえたちは、なかなかりこうだな。そう気きがつけばしかたがない。おれはゴングだよ。ウフフフ……、手下てしたじゃない。おれが、あの恐おそろしいゴングなのだ。おれは変装へんそうの名人めいじんだから、なににだってばけられる。きょうはほんものの刑事けいじを、あるところへ閉とじこめておいて、その身みがわりになって、ここへやってきたのだ。さあ、ふたりともおれといっしょに、くるんだっ!」

マユミさんと俊一しゅんいち君くんは、顔かおを見みあわせて、くすりと笑わらいました。なぜでしょう。妖あやかし人にんゴングが、こわくないのでしょうか。

俊一しゅんいち君くんが、いたずらっぽい顔かおをして、いいました。

「ところがね、ゴング君くん、おあいにくさまだよ。おれは俊一しゅんいち君くんじゃないのさ。ここにいるのは、マユミさんじゃないのさ。」

少年しょうねんは、にわかに、ことばづかいが悪わるくなって、へんなことをいいだしました。

「おれは、チンピラ隊たいの安公やすこうというんだよ。そいから、このねえさんは、やっぱり、おいらのなかまで、ひでちゃんっていうんだ。さすがのゴングおじさんも、すっかり、だまされたねえ。ワーイだ!」

いったかと思おもうと、ひでちゃんと安やす公こうは、ゴングがつかまえようとする手ての下したをくぐって、すばやく逃にげだしました。そして、あっと思おもうまに入口いりぐちの外そとへとびだして、ピシャンとドアをしめ、外そとからかぎをかけてしまいました。

さすがの妖あやかし人にんゴングも、チンピラ隊たいの安あん公こうに、してやられたのです。にせものだときいて、びっくりしたので、つい、つかまえる手てのほうが、おるすになったからでしょう。

チンピラ隊たいの少年しょうねんたちは、みんなリスのように、すばしっこいのですが、なかでも安あん公こうは身みがかるいので有名ゆうめいでした。大敵たいてきゴングを、むこうにまわして、まんまと、うまくやってのけたのは、えらいものです。

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