← Library‹ 妖人ゴング ゴングの秘密

そのとき防空ぼうくう壕ごうの土手どてのそばに、みょうなことが起おこっていました。

そこには少年しょうねん探偵たんてい団だんとチンピラ隊たいの子こどもたちが、十じゅう人にんばかり集あつまって、なにかひそひそとささやきあっていました。

「ね、この考かんがえ、いいだろう。おれ、マネキン人形にんぎょう屋やのゴミ箱ばこから、これをひろってきたんだよ。子こどものマネキン人形にんぎょうだよ。こいつに俊一しゅんいちさんの服ふくを着きせるんだよ。」

チンピラ隊たいの安あん公こうという少年しょうねんが、とくいになって、みんなに話はなしているのです。安あん公こうはじぶんと同おなじくらいの大おおきさの、マネキン人形にんぎょうをわきに立たたせて、両手りょうてでたおれないように、かかえていました。かたほうの耳みみがかけ、手足てあしもきずだらけになって、もうつかえない人形にんぎょうです。

「きみは、ずいぶん、へんなことを考かんがえるんだねえ。そんなこと、うまくいくと思おもうかい?」

少年しょうねん探偵たんてい団だんのひとりが、からかうようにいいました。

「うまくいかないかもしれないよ。だって、もともとじゃないか。まあ、ためしに、やってみるんだよ。だれか俊一しゅんいちさんの洋服ようふくかりてきてくれよ。」

チンピラの安あん公こうは、あくまでいいはるのです。

みんなは、小林こばやし団長だんちょうの意見いけんをきいてみました。すると、小林こばやし少年しょうねんは、

「やってみたらいいよ。安あん公こうの考かんがえはおもしろいよ。ゴングのやつ、だれも助たすけにきてくれないんだから、ひょっとしたら、その手てにのるかもしれない。ぼく、俊一しゅんいち君くんの洋服ようふくかりてきてやるよ。」

小林こばやし少年しょうねんは、そういって、まっ暗くらな庭にわのなかをかけだしていきましたが、しばらくすると、俊一しゅんいち君くんの着きがえの服ふくを持もって、帰かえってきました。

それから、みんなして、きずだらけの人形にんぎょうに俊一しゅんいち君くんの服ふくを着きせ、人形にんぎょうをしゃがませ、地面じめんにみじかい木きの棒ぼうを立たて、たおれないようにしました。頭あたまには学生がくせい帽ぼうを深ふかくかぶせましたから、ちょっと見みたのでは、俊一しゅんいち君くんとそっくりです。人形にんぎょうの顔かおも、なんだか俊一しゅんいち君くんににているようです。

小林こばやし少年しょうねんは懐中かいちゅう電灯でんとうで、それをしらべながら、

「うまくできたね。ぼくだって、ちょっと見みたら俊一しゅんいち君くんだと思おもうよ。」

と、安あん公こうの知恵ちえをほめるのでした。

やみのなかに、花崎はなさき俊一しゅんいち君くんのカカシがしゃがんでいるわけです。

それにしても、このカカシは、いったい、どんな役目やくめをするのでしょうか。チンピラの安あん公こうは、じつにへんなことを、思おもいついたものです。

カカシができあがると、少年しょうねんたちはそのまわりに立たって、時ときのくるのを待まちかまえるのでした。

そのあいだにも、防空ぼうくう壕ごうの水みずの中なかと、てんじょうの穴あなの上うえとの、きみょうな問答もんどうがつづいていました。

「で、きさま、おれの魔法まほうの種たねがわかるというのか。」

水みずの中なかのゴングが、あざけるように叫さけびました。

「空そらいっぱいにゴングの顔かおがあらわれたのは、ガラスにかいた絵えを映写えいしゃしたんだよ。」

明智あけち探偵たんていが、こともなげに答こたえました。

「子こどもだましだよ。しかし、大おおじかけな子こどもだましだ。まずヘリコプターを飛とばせて、白しろい煙けむりを空そらいっぱいに、まきちらかすのだ。その煙けむりがスクリーンになる。それに向むけて、どこかの屋上おくじょうにすえつけた、サーチライトのような強つよい光ひかりの映写えいしゃ機きで、ガラスにかいたゴングの顔かおをうつすのだ。空そらにあらわれるゴングの顔かおが、なんだかもやもやして、はっきりしなかったのはそのためだよ。ゴングが笑わらっているように見みえたのも、スクリーンの白しろい煙けむりが動うごくので、そんなふうに感かんじられたのだ。

どうだ、そのとおりだろう。返事へんじをしないところをみると、ぼくのいったことが、あたっているのだね。

だが、そんなことをするのには、たいへん費用ひようがかかる。ゴングは、なぜそんなバカなまねをしたのか。それは花崎はなさきさんをおどかすためだよ。いや、世間せけんぜんたいをおどかすためだよ。そして、このぼくに挑戦ちょうせんしたのだ。え、そうだろう。きみはそういう大おおげさなことがすきだからねえ。」

ああ、空そらにあらわれた怪物かいぶつは、ガラスの絵えを映写えいしゃしたのにすぎなかったのです。それにしても、なんというきばつなことを考かんがえついたものでしょう。

水みずの中なかのゴングは、だまっていました。懐中かいちゅう電灯でんとうの光ひかりをあててみると、目めをつむっています。明智あけちにすっかりいいあてられて、一言いちごんもないというようすです。明智あけちはなおも話はなしつづけました。

「池いけの中なかから、巨人きょじんの顔かおが浮うきあがった秘密ひみつも、同おなじような子こどもだましだ。大おおきなゴムびきのぬのか、ビニールに巨大きょだいなゴングの顔かおをかいた。目めはガラスかプラスチックの目玉めだまをいれ、鼻はなは高たかくふくらませ、口くちは大おおきくくぼませ、やっぱりプラスチックかなにかで、二に本ほんの牙きばをはやした。

その大おおきなゴムぬのかビニールの下したには、空気くうきのもれない袋ふくろを、いくつもくっつけておき、長ながいゴム管かんで、庭にわの茂しげみのかげから、あっさく空気くうきを送おくったのだ。すると袋ふくろがふくらんで、巨大きょだいな顔かおぜんたいが、スーッと池いけの底そこから浮うきあがってくるというしかけなのだ。

どうだ、これもあたっているだろう。いかにも、きみの思おもいつきそうな手品てじなだからね。

俊一しゅんいち君くんが、あの巨大きょだいな顔かおを見みて逃にげだすと、木きの茂しげみにかくれて、あっさく空気くうきを送おくっていたきみは、すぐに、そこからとびだして、池いけの中なかの顔かおをひきあげ、袋ふくろの空気くうきをぬいて、小ちいさくおりたたみ、それを持もって、姿すがたをくらましてしまった。たぶん、そのときには助手じょしゅがいたのだろう。でなくては、あっさく空気くうきのしかけまで、ひとりで運はこびだすことは、むずかしいからね。」

これで妖あやかし人にんゴングの魔法まほうの種たねは、すっかりとけてしまいました。さすがに名めい探偵たんていです。明智あけちはずっと早はやくから、なにもかも見みぬいていたのでした。

水みずの中なかのゴングは、それでもまだ、だまりこんでいました。水みずの上うえに首くびだけが、じっと浮うかんでいますが、生いきているのか死しんでいるのかわからないほど、しずかです。

明智あけちは、なおも話はなしつづけます。

「おい、ばかに考かんがえこんでしまったね。ぼくのいったことが、みんなあたっていたので、すっかり、しょげてしまったんだね。ハハハハ……、ところが、きみにはまだ、もっとでっかい恐おそろしい秘密ひみつがあるのだ。

きみはなぜ、マユミさんと俊一しゅんいち君くんを、執念しゅうねんぶかくねらったか。それはおとうさんの花崎はなさき検事けんじを苦くるしめるためだ。きみは花崎はなさき検事けんじにひどいめにあったことがある。その復讐ふくしゅうをしようとしたのだ。

花崎はなさきさんは、すこしも悪わるい人ひとではない。しかし検事けんじとしては、罪人ざいにんをきびしくせめるのがつとめだ。だから、花崎はなさきさんにうらみを持もつものは、罪人ざいにんのほかにない。きみは花崎はなさきさんのかかりで、重おもい刑けいをうけたことがあるにちがいない。

ぼくは花崎はなさきさんに、そういう罪人ざいにんの心こころあたりはないかときいてみた。すると花崎はなさきさんは、じぶんをひどくうらんでいるかもしれないという五ご―六ろく人にんの名なまえを、紙かみに書かいて見みせてくださった。その中なかに、きみの名なまえがあったのだ。

ぼくは、さいしょから、その男おとこではないかとうたがっていた。ただ花崎はなさきさんに復讐ふくしゅうするだけなら、あんな大おおげさな魔法まほうを使つかうひつようはない。その男おとこは、世間せけんをあっといわせたかったのだ。ぼくの前まえに姿すがたをあらわして、これ見みよがしに、戦たたかいをいどんできたのだ。

マユミさんがぼくの助手じょしゅになったのが、こんどのきみの復讐ふくしゅうの、きっかけになったのかもしれない。マユミさんをひどいめにあわせれば、花崎はなさきさんを苦くるしめるだけでなく、ぼくをおこらせることができる。きみは、いっぺんに二ふたつの復讐ふくしゅうができるのだ。

またきみは、小林こばやし君くんや少年しょうねん探偵たんてい団だんにもうらみがある。だから小林こばやし君くんを、あんな恐おそろしいめにあわせたのだ。そして、少年しょうねん探偵たんてい団だんをおびきよせ、からかったり、いじめたりするつもりだったのだ。

きみ、ゴング君くん。花崎はなさきさんばかりでなく、ぼくや小林こばやし君くんに、そういううらみを持もっている男おとこが、世間せけんにふたりとあるだろうか。

ここまでいえば、もうわかっただろう。ぼくは、きみの正体しょうたいを見みやぶったのだ。」

明智あけち探偵たんていは、水みずの中なかに首くびを浮うかべているゴングの顔かおに、まっこうから懐中かいちゅう電灯でんとうの光ひかりをあてて、底力そこぢからのある重々おもおもしい声こえで、さいごの宣告せんこくをあたえました。

「きみは怪人かいじん二十にじゅう面相めんそうだっ! べつの名なは怪人かいじん四十よんじゅう面相めんそうだっ!」

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