← Library‹ 妖人ゴング 電話の声

俊一しゅんいち君くんのおうちの池いけの事件じけんがあってから、また三み日かほどたったある日ひのこと、麹町こうじまちアパートの二に階かいにある明智あけち探偵たんてい事務じむ所しょの客間きゃくまで、ひとりの客きゃくが明智あけち探偵たんていと話はなしをしていました。

黒くろいビロードのだぶだぶの上着うわぎをきて、大おおきな赤あかいネクタイをむすび、かみの毛けをながくのばした、画家がかか詩人しじんのような、三十さんじゅう五ご―六ろくの男おとこです。大おおきなめがねをかけています。

この人ひとは人見良吉ひとみりょうきちという、あまり有名ゆうめいでない小説しょうせつ家かですが、お金持かねもちとみえて、一いち月がつほどまえに、このアパートへ越こしてきて、明智あけち探偵たんていと同おなじ二に階かいの小ちいさな部屋へやに、ひとりぼっちで住すんでいるのです。人見ひとみさんは、探偵たんてい小説しょうせつ家かではありませんが、探偵たんていめいたことがすきで、よく明智あけち探偵たんていのところへ、話はなしにくるのでした。

「じつにおどろくべき怪物かいぶつが、あらわれましたね。あなたの助手じょしゅのマユミさんがおそわれたところをみると、どうやら、あなたに挑戦ちょうせんしているらしいではありませんか。」

人見ひとみさんが、ひたいにたれかかる長ながいかみを、指ゆびでかきあげながらいうのです。

「そうかもしれません。とほうもないことを考かんがえだすやつも、あるものですね。」

明智あけちが、にこやかに答こたえます。

「それにしても、空そらに巨人きょじんの顔かおがあらわれたり、池いけの中なかから、巨人きょじんの顔かおが、浮うきあがったりしたのは、いったい、どういうしかけでしょうね。あなたは、あれも、人間にんげんのしわざとお考かんがえですか。」

「むろん、そうですよ。ぼくには、手品てじなの種しゅもおおかたは、わかっています。」

「え、おわかりですって? ほう、そいつは、すばらしい。ひとつ、ぼくに聞きかせてもらいたいものですね。」

「いや、それは、もうすこし待まってください。いつか、あなたに、くわしくお話はなしするときがあるでしょうから。」

そんな話はなしをしているところへ、助手じょしゅのマユミさんが、コーヒーを持もってはいってきて、ふたりのまん中なかのテーブルにおきました。

「あ、マユミさん。もうすっかり元気げんきにおなりですね。しかし、このあいだの晩ばんは、おどろいたでしょう。」

人見ひとみさんが、声こえをかけますと、マユミさんは、はずかしそうに、ニッコリ笑わらって答こたえました。

「ええ、ふいに、あんな恐おそろしいかげが、あらわれたものですから……。」

そのとき、となりの書斎しょさいのデスクの上うえにおいてある電話でんわのベルが鳴なりだしたので、明智あけちはそこへはいっていって、受話じゅわ器きを耳みみにあてました。すると、ウワン、ウワン、ウワン、ウワンと、みょうな音おとが聞きこえます。耳みみなりかと思おもいましたが、そうでなくて、むこうの電話でんわ口こうで、そんな音おとがしているのです。二十にじゅう秒びょうほどで、その音おとがやむと、こんどは、へんなしわがれ声こえが聞きこえてきました。

「きみは明智あけち先生せんせいかね。」

「そうです。あなたはどなたですか。」

「いまの音おとを聞きかなかったかね。あの音おとで、さっしがつかないかね。」

おばけのような、気味きみのわるい声こえです。明智あけち探偵たんていは、さてはと、感かんづきましたが、わざと、だまっていますと、せんぽうは、いよいよ、気味きみのわるいことをいいだすのです。

「きみの助手じょしゅのマユミを用心ようじんしたまえ。いいかね。いまから三み日かののち、今月こんげつの十じゅう五ご日にちに、マユミは消きえてなくなるのだ。きみがいくら名めい探偵たんていでも、それをふせぐことはできない。……十じゅう五ご日にちを用心ようじんしたまえ。」

そういったかと思おもうと、またしても、ウワン、ウワン、ウワンという、いやな音おとが、受話じゅわ器きの中なかから、ひびいてきました。

明智あけち探偵たんていは、そのまま受話じゅわ器きをかけて、にこにこ笑わらいながら、客間きゃくまにもどってきました。人見ひとみさんは、その顔かおを、いぶかしげに見みつめています。

マユミさんが、部屋へやを出でていくのを待まって、明智あけち探偵たんていが口くちをひらきました。

「人見ひとみさん、あなたのおっしゃるとおりでしたよ。やつは、挑戦ちょうせんしてきました。」

「えっ、あの怪物かいぶつがですか。」

「そうです。今月こんげつの十じゅう五ご日にちに、マユミを消けしてみせるというのです。」

「えっ、消けしてみせる?」

「つまり、誘拐ゆうかいするというのでしょうね。予告よこくの犯罪はんざいというやつですよ。」

そういいながら、明智あけちはへいきで、にこにこしています。

「そうすると、あの巨人きょじんは、やっぱり、ふつうの人間にんげんだったのですね。しかし、だいじょうぶですか。あいては魔法まほうつかいみたいな怪物かいぶつですからね。」

「あいてが魔法まほうつかいなら、こっちも魔法まほうを使つかうばかりですよ。まあ、見みていてください。」

明智あけちは、自信じしんたっぷりです。

「でも、犯罪はんざいを予告よこくしてくるほど大胆だいたんなやつですから、油断ゆだんはなりませんよ。あいつには、どんなてがあるか、わからないじゃありませんか。」

小説しょうせつ家かの人見ひとみさんは、いかにも心配しんぱいらしく、いうのです。

「そういう怪物かいぶつとたたかうのが、ぼくの役目やくめですよ。けっして、ひけはとりませんから、ご安心あんしんください。」

明智あけち探偵たんていは、人見ひとみさんを、ぐっとにらみつけながら、きっぱりと、いいきるのでした。

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