← Library‹ 魔法人形 怪老人の正体

それからまた、部長ぶちょう刑事けいじと怪かい老人ろうじんの問答もんどうがつづきました。

小林こばやし君くんは、甲野こうのさんから、ルミちゃんの事件じけんは、警察けいさつに知しらせないようにといわれていましたが、もうこうなったら、かくすわけにはいきません。中村なかむら警部けいぶにすっかり話はなしてしまいました。杉並すぎなみ署しょの署長しょちょうや部長ぶちょう刑事けいじも、中村なかむら警部けいぶからそれを聞きいて、なにもかも知しっているのです。

「きみは、赤堀あかほり鉄てつ州しゅうという人形にんぎょう師しだね。」

部長ぶちょう刑事けいじが、怪かい老人ろうじんをにらみつけてたずねました。

「そうだよ。おれはおばけ人形にんぎょうをつくる名人めいじんだよ。」

「赤坂あかさかの甲野こうの光雄みつおという金持かねもちを、知しっているだろう?」

「ふうん、聞きいたような名なだが、べつに知しりあいではないね。」

「まだしらばっくれているな。きみは、その甲野こうのさんのむすめの、ルミちゃんという、かわいい女おんなの子こを、さらっただろう。」

「さらった? おれがかね。」

「そうだよ。そして、ルミちゃんとそっくりの人形にんぎょうを木きの箱はこに入いれて、甲野こうのさんの家いえへ、運送うんそう屋やにとどけさせただろう。」

それを聞きくと、赤堀あかほり老人ろうじんは、びっくりしたように目めをむきました。

「とんでもない、おれは、そんなこと、まるで知しらないよ。」

「だが、こちらには、ちゃんと証人しょうにんがあるんだぜ。木きの宮みや運送うんそう店てんの店員てんいんだ。その店員てんいんは、たしかに赤堀あかほり鉄てつ州しゅうという人形にんぎょう師しにたのまれて、木箱きばこをはこんだといっている。」

「それじゃあ、その店員てんいんにあわせてもらいたいもんだね。顔かおを見みれば、おれか、おれでないか、すぐにわかることだ。」

老人ろうじんのびっくりしたようすが、真しんにせまっていて、どうも芝居しばいらしくないので、中村なかむら警部けいぶと署長しょちょうは、いぶかしげに顔かおを見みあわせました。

「それじゃ、木きの宮みやの店員てんいんを呼よびだすことにしよう。そのあいだに、ルミちゃんの事件じけんを、このじいさんに話はなしてやりたまえ。」

署長しょちょうが部長ぶちょう刑事けいじに命めいじました。そして、ひとりの刑事けいじが運送うんそう店てんへ出でかけていくのでした。部長ぶちょう刑事けいじは、公園こうえんでルミちゃんがさらわれたことから、電話でんわで一千いっせん万まん円えんの身みのしろ金きんをゆすってきたこと、運送うんそう屋やがルミちゃん人形にんぎょうをとどけたこと、小林こばやし少年しょうねんが、運送うんそう屋やから赤堀あかほり老人ろうじんの西洋せいよう館かんをききだして、女おんなの子こに変装へんそうして、そこへしのびこんだことなどを、すっかり話はなしてきかせました。

「うーん、そういうわけだったのですか。それで、女おんなの子こがよろいびつにかくれていたわけがわかりましたよ。そうとは知しらぬものですから、あんなひどいめにあわせてごめんなさいよ、小林こばやし君くん。」

老人ろうじんはにわかに、ていねいなことばになって、そこに立たっている小林こばやし少年しょうねんに、すまないという顔かおをして見みせるのでした。

「いや。そればかりじゃない。手足てあしをしばられて、焼やけ死しぬばかりになっていたわしを、きみが、火事かじ場じょうから救すくいだしてくれたのですね。どうもすまんことをしました。かんべんしてください。まったくどろぼうだと思おもいこんでいたので、ああして、よろいびつに閉とじこめて、あとで警察けいさつへひきわたすつもりだったのです。きみ、どうか、かんべんしてくださいよ。」

そういって、いかにもはずかしそうにしているのを見みると、アトリエでろうそくの光ひかりをうけて、恐おそろしい悪人あくにんにみえた顔かおが、みょうにおどけた、こっけいな感かんじにかわってきました。

小林こばやし君くんは、なんだか老人ろうじんがかわいそうになりましたが、どうしても、たしかめたいことがあったので、それをたずねてみました。

「そういえば、ぼくにも、ふにおちないことがあるんですよ。アトリエが火事かじになったとき、あんたは、よいつぶれたまま縄なわでしばられていた。ぼくは、よろいびつの中なかにいたので、だれがしばったかわからないのです。まさかじぶんで、じぶんをしばったわけではないでしょう。だれがしばったのか思おもいだせませんか。」

すると、老人ろうじんは頭あたまをかいて、

「じつにだらしのない話はなしだが、わしは、なにもおぼえていないのです。寝ねている間あいだに、だれかにしばられてしまったのです。」

といったまま、考かんがえこんでしまいました。

そのとき、さっき出でていった刑事けいじが、木きの宮みや運送うんそう店てんの店員てんいんをつれてはいってきました。

「きみにあの木箱きばこの配達はいたつをたのんだのは、この人ひとではないかね。」

部長ぶちょう刑事けいじが、店員てんいんを老人ろうじんの前まえに呼よんでたずねました。

「ちがいます。やっぱり白しろいひげをはやしていましたが、この人ひととはちがいます。」

店員てんいんは、一目ひとめ見みて、きっぱりといいきりました。

「だが、赤堀あかほり鉄てつ州しゅうという人形にんぎょう師しは、この人ひとだよ。きみの店みせへ配達はいたつをたのんだのも、赤堀あかほり鉄てつ州しゅうだったね。」

「そうです。名なまえはそうでしたが、そのときの人ひとは、この人ひとじゃありません。」

これで、赤堀あかほり老人ろうじんのうたがいがはれたわけです。

「待まってくださいよ。これには、なにか深ふかいわけがありそうですよ。」

老人ろうじんは、しきりに首くびをふりながら、ゆっくりしゃべりはじめました。

「まあ、聞きいてください。そのルミちゃんとかの人形にんぎょうを送おくったのは、むろん、わしではありません。そいつは、わしの名なまえをかたったのです。そして犯人はんにんはこのわしだと思おもいこませておいて、ほんとうのことがわからないうちに、わしを焼やき殺ころそうとしたのです。

そいつは、わしがよいつぶれていたのをさいわいに、身みうごきができぬようにしばっておいて、アトリエに火ひをつけたのです。そうだ。それにちがいない。そうして、わしが焼やけ死しんでしまえば、死人しにんに口くちなしで、わしが犯人はんにんだったということになって、じぶんには、うたがいがかからない。ちくしょうめ、うまく考かんがえやがったな。」

「待まちたまえ。犯人はんにんは、あすの晩ばん、身みのしろ金きんを、甲野こうのさんのところへ取とりにくるといっているんだぜ。いま犯人はんにんが死しんだことになれば、身みのしろ金きんが取とれないじゃないか。」

部長ぶちょう刑事けいじが、よこやりを入いれました。

「うーん。それもそうだが、そこにはまた、べつのてがあるかもしれん。ルミちゃんという女おんなの子こはまだ発見はっけんされていないのだから、その子こをだいじにかくしておいて、すこし日ひがたってから、さもじぶんがみつけたような顔かおをして、甲野こうのさんのところへつれていくというてもある。そのじぶんには、きっと懸賞けんしょう金きんがついていますよ。一千いっせん万まん円えんというわけにはいくまいが、そうとうの金かねをせしめることができる。どうです、この考かんがえは?

いや、ルミちゃんさえかくしておけば、ほかにまだ、いろいろなやりかたがあります。犯人はんにんと思おもいこまれたわしが死しんでしまって、ルミちゃんのかくし場所ばしょがわからないとなると、これはたいへんなさわぎになりますよ。そこで、真ま犯人はんにんのほうでも、いろいろなてが考かんがえだせるというものです。」

老人ろうじんは、とくいらしく、しゃべりつづけるのでした。

「すると、きみが白しろひげをはやした人形にんぎょう師しで、真ま犯人はんにんとよく似にていたので、かえだまにつかわれたというわけだね。とすれば、同おなじ人形にんぎょう師しのなかまのことだから、きみには、その真しん犯人はんにんの心こころあたりがありそうだね。きみとよく似にた人形にんぎょう師しといえば、いったいだれだろうね。」

部長ぶちょう刑事けいじがたずねますと、赤堀あかほり老人ろうじんは首くびをふって、

「ところが、そういう心こころあたりは、まったくないのです。じつにふしぎですよ。しかし、わしも、そいつに焼やき殺ころされかけたのですから、なんとしても、かたきがうちたい……。ねえ、小林こばやし君くん。わしをひとつ、明智あけち先生せんせいに紹介しょうかいしてくださらんか。わしは先生せんせいに弟子でし入いりしますよ。そうして、警察けいさつと力ちからをあわせて、真ま犯人はんにんをさがしだします。きっと、さがしだしてお目めにかける。ねえ、小林こばやし君くん、どうかわしを先生せんせいにひきあわせてください。」

老人ろうじんは、しんけんになって小林こばやし少年しょうねんにたのむのでした。

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