← Library‹ 魔法人形 人形むすめ

さて、よく日ひの朝あさのことです。甲野こうのさんの家いえでは、大おおさわぎがおこっていました。女中じょちゅうさんが、ルミちゃんの寝室しんしつへなにげなくはいってみますと、ベッドの上うえに、ルミちゃんが、すやすや眠ねむっていたではありませんか。ゆくえの知しれなかったルミちゃんが、いつのまにか、家いえへ帰かえっていたのです。

女中じょちゅうさんの知しらせで、おとうさんやおかあさんが寝室しんしつへかけつけてきましたが、ルミちゃんは、いくら起おこしても目めをさましません。いそいでお医者いしゃさまを呼よんで見みてもらいますと、ねむり薬やくを飲のまされていることがわかりました。なにものかが、ルミちゃんをねむり薬くすりで眠ねむらせておいて、夜よるのうちに、ここへはこんできたのにちがいありません。

ルミちゃんのおとうさんの甲野こうのさんは、そのとき、やっと気きがついて、いそいで書斎しょさいへいって、机つくえのひきだしをしらべてみました。

ああ、やっぱりそうでした。机つくえの右みぎがわの三みつのひきだしへ入いれておいた、たくさんの札さつたばが、すっかりなくなっていたのです。あの怪かい老人ろうじんは、約束やくそくのとおりルミちゃんをかえして、一千いっせん万まん円えんの札さつたばを持もっていってしまったのです。

甲野こうのさんは小林こばやし少年しょうねんと相談そうだんしたうえで、このことを警察けいさつにとどけました。すると、すぐに警官けいかんがやってきて、眠ねむりからさめたルミちゃんに聞ききただし、怪かい老人ろうじんの住すみかをさがして、とうとう、あの西洋せいよう館かんを見みつけだしましたが、そのときには、怪かい老人ろうじんは、早はやくもどこかへ、姿すがたをくらましたあとでした。

たくさんの人形にんぎょうも、ふり袖そで姿すがたの紅子べにこさんも、みんないなくなって、その西洋せいよう館かんは、がらんとした空家あきやになっていたのです。

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それから一いち月がつほどは、なにごともなくすぎさりました。警察けいさつは、怪かい老人ろうじんの捜索そうさくをつづけていましたが、なんの手てがかりも見みつかりません。明智あけち探偵たんていは、事件じけんの四よん日かあとに大阪おおさかから帰かえって、小林こばやし君くんに、くわしい話はなしを聞ききました。

しかし、ルミちゃんが帰かえって、ともかく事件じけんはおわったのですから、怪かい老人ろうじんが、また、なにか悪わるだくみをするまでは、手てがかりのつかみようがないのです。

ところが、その一いち月がつほどたったある日ひのこと、渋谷しぶや区くの神山かみやまさんの家いえに、みょうなことがおこっていました。

神山かみやまさんは、銀座ぎんざの宝玉堂ほうぎょくどうという宝石ほうせき商しょうの社長しゃちょうで、渋谷しぶや駅えきから一いちキロほどのやしき町まちに、りっぱな西洋せいよう館かんの邸宅ていたくを持もっていました。

神山かみやまさんには、中学ちゅうがく一いち年ねん生せいの進一しんいち君くんと、小しょう学校がっこう五ご年ねん生せいのサナエちゃんという、ふたりのこどもがありました。そのふたりが、いまサナエちゃんの部屋へやで、なにかいいあらそっているのです。

「サナエの人形にんぎょうきちがい! そんなに人形にんぎょうばっかりだいじにしていると、いまにおまえも人形にんぎょうになっちゃうぞ!」

進一しんいち君くんが、妹いもうとをからかいました。

「いいわよ、にいさんのいじわる! この人形にんぎょうがみんなあたしの味方みかただから、にいさんなんか、いくらいじめたってへいきよ!」

人形にんぎょうきちがいといわれるのも、もっともでした。その部屋へやには、壁かべいっぱいのガラス戸とだながあって、その中なかに、ありとあらゆる人形にんぎょうが飾かざってあるのです。

サナエちゃんは、四よんつぐらいのときから、人形にんぎょうがすきでたまらなくなっては、おねだりをして買かってもらった人形にんぎょうが、いつのまにか、こんなにたまってしまったのです。

おとうさんやおじさんたちが旅行りょこうのおみやげにくださった、いろいろの地方ちほうの人形にんぎょうが、こけし人形にんぎょうをはじめとして、ウジャウジャならんでいます。

すこし大おおきいのでは、かぶき人形にんぎょう、なよなよとした姿すがたのロマンス人形にんぎょう、目めの青あおい西洋せいよう人形にんぎょう、船長せんちょうのおじさんにもらったイタリアの大理だいり石人せきじん形けい、京都きょうとできのかわいいさんぱち人形にんぎょう、ミルクを飲のむ人形にんぎょう、寝ねかすと、「おぎゃあ。」となく赤あかちゃん人形にんぎょう。もっと大おおきいのでは、文楽ぶんらく人形にんぎょうのおひめさま、サナエちゃんと同おなじくらいの大おおきさの西洋せいようの少女しょうじょ人形にんぎょう、電気でんきで動うごくロボット人形にんぎょうまで、かずかぎりもなくならんでいるのです。

サナエちゃんの人形にんぎょうずきは、学校がっこうでも近所きんじょでもひょうばんで、「人形にんぎょうむすめ」という、あだなさえついていました。

にいさんの進一しんいち君くんは、サナエちゃんがそんなにたくさん人形にんぎょうを持もっているのが、うらやましいのです。でも、男おとこの子こが人形にんぎょうなんか集あつめるわけにはいきませんから、負まけおしみで「人形にんぎょうきちがい。」なんてからかうのです。

「にいさんだって、探偵たんていきちがいだわ。名めい探偵たんてい、明智あけち小五郎こごろうの弟子でしだなんて、いばっているんですもの。明智あけち探偵たんていにあったこともないくせに!」

「なんだと? なまいきいうな。明智あけち先生せんせいには二に度どもあってるよ。話はなしをしたこともあるんだよ。ぼくは少年しょうねん探偵たんてい団だんの団員だんいんだからね。団長だんちょうの小林こばやしさんは、明智あけち先生せんせいの弟子でしだから、団員だんいんのぼくらだって弟子でしなんだよ。ほら、このB・Dバッジを見みろ! これを持もっているのが少年しょうねん探偵たんてい団だん員いんの証拠しょうこじゃないか、ワーイ、ざまをみろ!」

進一しんいち君くんは、ポケットから、ピカピカ光ひかったB・Dバッジをひとにぎりとりだして、ジャラジャラと音おとをさせながら、サナエちゃんの鼻はなの先さきへつきつけて見みせるのでした。

そのとき、ドアが開ひらいて女中じょちゅうさんが顔かおを出だしました。

「サナエちゃん、玄関げんかんへ、へんな人ひとがきましたよ。大おおきな美うつくしい人形にんぎょうを売うりにきたらしいのです。それはすばらしい人形にんぎょうよ。おくさまが、その人ひとと話はなしていらっしゃるの。いってごらんなさい。」

人形にんぎょうと聞きくとサナエちゃんは、もう夢中むちゅうです。パッといすからとびあがると、ばたばたと、玄関げんかんのほうへかけだしていきました。

「ほんとうに人形にんぎょうむすめだなあ! ぼく、たまげたよ。」

進一しんいち君くんは、あきれたようにつぶやきましたが、そのくせ、じぶんもじっとしていられなくなって、サナエちゃんのあとから、のこのことついていくのでした。

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