← Library‹ 魔法人形 カーテンのすきま

マユミさんとポケット小僧こぞうは、一いち度ど門もんを出でて、どこかへいきましたが、三十さんじゅう分ふんもすると、また、西洋せいよう館かんの門もんの前まえにもどってきました。見みると、マユミさんは、あの白しろいふろしきづつみを持もっていません。ポケット小僧こぞうもから手てです。いったいあのふろしきづつみを、どうしてしまったのでしょう?

「おねえさん、もう、よしたほうがいいよ。こんなばけものやしきの中なかへはいったら、どんな恐おそろしいめにあわされるか、わかりゃあしないよ。」

ポケット小僧こぞうが、マユミさんのうわぎをつかんで、ひそひそと、ささやきました。

「いいのよ。このまま、警察けいさつへ連絡れんらくしてもいいんだけれども、もうちょっと、さぐっておきたいの。どろぼうのかしらが、どんなやつだか、この家いえには、どんなしかけがあるか、それをしらべておかなけりゃあ、名めい探偵たんていの助手じょしゅのはじだわ。あんた、帰かえりたければ、さきにお帰かえりなさいな。」

マユミさんは、じゃけんにいって、小僧こぞうをつきはなしました。

「いやだい。おれ、帰かえるもんか。どこまでも、おねえさんのあとから、ついていくよ。」

ポケット小僧こぞうは、おこったようにいって、もうひとことも口くちをきかず、だまりこんで、マユミさんのあとからついていくのでした。

マユミさんは、門もんをはいって、西洋せいよう館かんのよこてへ回まわっていきました。どの窓まどにも、あかりは見みえません。まるで、家いえじゅうの人ひとが、死しにたえたように、シーンと、しずまっているのです。

マユミさんは、どこかにしのびこむすきまはないかと、だんだん、奥おくのほうへ歩あるいていきました。

すると、ひとつの窓まどの中なかに、かすかなあかりが見みえたではありませんか。おやっと思おもってたちどまり、その窓まどのそばによって、そっと、中なかをのぞいてみました。

ガラス窓まどの中なかに、あついカーテンがさがっていて、そのあわせめが、開ひらいています。

マユミさんは、窓まどガラスに顔かおをつけるようにして、のぞきました。

電灯でんとうではなくて、テーブルの上うえのろうそくが、赤あかちゃけた光ひかりをなげています。そのにぶい光ひかりの中なかに、ふたりの男おとこがテーブルをへだてて、むかいあっていました。せまいすきまなので、ふたりの顔かおが、はんぶんくらいずつしか見みえません。

しかし、そのひとりは、宝冠ほうかんのつつみを持もって、自動じどう車しゃに乗のってきた男おとこにちがいありません。

そのむこうがわにいるのは、ふしぎな人物じんぶつです。頭あたまを、まん中なかからきれいにわけてなでつけ、キュッとさかだったまゆの下したに、ほそい目めがキラキラと光ひかり、高たかいワシ鼻はな、ぴんとはねたまっ黒くろな口くちひげ、三角さんかくがたのあごひげ。西洋せいよう悪魔あくまの絵えとそっくりの顔かおです。それが、黒くろいビロードのガウンをきて、ひじかけいすに、ゆったりとこしかけているのです。

「先生せんせいがお帰かえりになるのを待まっていました。先生せんせい、うまくいきましたよ。ユリ子こ人形にんぎょうが、金庫きんこの暗号あんごうをたちぎきして、盗ぬすみだしてくれたのです。それをうけとって、ここへ持もってきました。先生せんせいの計略けいりゃくは、みごとにあたりましたね。」

自動じどう車しゃに乗のってきた男おとこが、しゅびよく宝冠ほうかんを盗ぬすみだしたことを、西洋せいよう悪魔あくまのような男おとこに報告ほうこくしているのです。西洋せいよう悪魔あくまを、先生せんせい、先生せんせいとよんでいます。

この西洋せいよう悪魔あくまみたいなやつは、神山かみやまさんのうちへ、ユリ子こ人形にんぎょうを売うりにきた男おとこですが、こいつの正体しょうたいはいったい、何者なにものでしょう。むろん、人形にんぎょうじいさんと関係かんけいがあるのにちがいありません。もしかしたら、人形にんぎょうじいさんと同おなじ人ひとかもしれません。魔法まほうつかいのことですから、どんな顔かおにでもばけられるのでしょう。

「うん、あのユリ子こは、なかなか知恵ちえがはたらくからね。きっと、うまくやってくれると思おもっていたよ。……では、その宝物たからものを、見みせてもらおうか。」

先生せんせいとよばれた西洋せいよう悪魔あくまが、いかにもうれしそうな顔かおでいいました。

男おとこはすぐに、テーブルの上うえにおいてあった、白しろいふろしきをほどきます。中なかから四角しかくい皮かわばりの箱はこが出でてきました。男おとこは、その箱はこのふたに両手りょうてをかけて、うやうやしく持もちあげましたが、持もちあげたかとおもうと、「あっ!」という叫さけび声ごえが聞きこえてきました。西洋せいよう悪魔あくまと、部下ぶかの男おとことが、一いち度どに叫さけんだのです。

箱はこの中なかは、からっぽだったのです。「ほのおの宝冠ほうかん」は、かげもかたちもありません。そして、宝冠ほうかんのかわりに、ビロードの台座だいざの上うえに、一いち枚まいの紙かみがおいてありました。

西洋せいよう悪魔あくまは、いそいで、その紙かみをとって読よんでいます。読よむにしたがって、かれの顔かおが、まっかになってきました。さかだっているまゆが、いっそうさかだち、ほそい目めが、リンのようにかがやき、赤あかいくちびるをひきしめて、ぎりぎりと、歯はがみをしているのです。

マユミさんは、その紙かみにかいてある文章ぶんしょうを、ちゃんと知しっていました。

それは、

きみは、ユリ子こ人形にんぎょうをつかって、うまくやったと思おもっているだろうが、上うえには上うえがあるのだ。宝冠ほうかんは、たしかにかえしてもらったよ。どうして宝冠ほうかんを、箱はこの中なかから、ぬき出だしたかわかるかね。ユリ子こ人形にんぎょうは、たしかに、宝冠ほうかんのはいった箱はこを盗ぬすみだした。それなのに、いつのまにか、宝冠ほうかんが消きえてしまったのだ。

お気きのどくさま!

と、いうのです。なぜそれをしっていたかといいますと、じつは、この文章ぶんしょうは、マユミさんが、じぶんで書かいたからです。

マユミさんは、宝冠ほうかんが盗ぬすまれそうだとわかったとき、神山かみやま進一しんいち君くんから、箱はこの色いろや大おおきさをきいて、にたような箱はこを手てにいれ、その中なかへこの手紙てがみをいれて、ちゃんと用意よういしておいたのです。ほんものと同おなじように、白しろいふろしきでつつむことも、わすれませんでした。

その白しろいふろしきづつみを持もって、自動じどう車しゃのトランクにかくれ、男おとこが、ほんもののつつみを西洋せいよう館かんの入口いりぐちの石段いしだんにおいて、かぎを、ガチャガチャやっているすきに、そっと、ほんものとにせものとを取とりかえて、逃にげだしたのです。そして、宝冠ほうかんのつつみを、近ちかくのお友ともだちの家いえにあずけておいて、また、西洋せいよう館かんへひきかえしたというわけでした。

マユミさんは、じぶんのトリックがうまくいったので、うれしくてたまりません。夢中むちゅうになって窓まどの中なかをのぞいていました。それが、ゆだんでした。すこしも気きのつかないまに、マユミさんのまわりには、恐おそろしい怪物かいぶつがおしよせていたのです。

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