← Library‹ 魔法人形 小林少年

甲野こうのさんがびっくりしたのは、むりもありません。受話じゅわ器きからは、じつに恐おそろしいことばが聞きこえてきたのです。

「甲野こうの光雄みつおさんかね。わしは黒沢くろさわというものだ。きみのルミちゃんは、わしがあずかっている。なぜあずかっているかは、いうまでもないことだ。きみから身みのしろ金きんをちょうだいしたいからだ。一千いっせん万まん円えんでよろしい。それも、どこそこへ持もってこいというのじゃない。わしのほうから取とりにいく。きみの書斎しょさいの机つくえのひきだしへ、札さつたばを入いれておけばよろしい。あすの夜よる十じゅう時じに、きっと取とりにいく。そのとき、警察けいさつなどをよんで、わしをつかまえようとしたら、ルミはほんとうに人形にんぎょうになってしまうぞ。わしは、生いきた人間にんげんで、人形にんぎょうをつくる方法ほうほうをこころえているからね。そして、どこかのショーウィンドーに飾かざるのだ。それがいやだったら、わしをとらえようとしてはいけない。わかったかね。あすの晩ばんは、べつに、わしのはいる入口いりぐちを用意よういしておいてくれなくてもよろしい。いくらかぎがかかっていても、わしには、自由じゆうにひらく力ちからがあるのだ。それじゃ、約束やくそくしたよ。もし、このわしのさしずにしたがわなかったら、ルミが人形にんぎょうになるのだ。わかったね。」

そして、こちらがなにも答こたえないうちに、電話でんわがきれてしまいました。

「まあ、あなた、いまの電話でんわ、だれからでしたの? あなたのお顔かお、まっさおですわ。」

ルミちゃんのおかあさんが、じぶんも青あおくなって、心配しんぱいそうにたずねました。

甲野こうのさんは、女中じょちゅうさんたちをとおざけておいて、おかあさんに、電話でんわのいみを、話はなしてきかせました。

「警察けいさつにとどけるのがあたりまえだが、そうすると、新聞しんぶんに書かきたてられる。身みのしろ金きんをわたそうとしても、わたせなくなる。あいつは、やけくそになって、ルミをどんなめにあわせるかもしれない。それよりも、わしは、そっと私立しりつ探偵たんていにたのもうと思おもう。明智小五郎あけちこごろうという名めい探偵たんていがいる。わしの友ともだちがせわになったことがあるので、明智あけちさんの腕うでまえはよく知しっている。一千いっせん万まん円えんがおしいのではない。ルミの命いのちが一千いっせん万まん円えんで買かえるなら安やすいものだ。しかし、なにもしないでむこうのいうままになるのも残念ざんねんだし、金かねだけとられてルミが帰かえってこなかったらたいへんだ。それで、腕うでのある探偵たんていにたのんで、そういうことがないように、よく相談そうだんしようと思おもうのだよ。」

甲野こうのさんのいうことはもっともなので、おかあさんも、それに賛成さんせいしました。

そこで甲野こうのさんは、奥おくまった部屋へやのべつの電話でんわで、明智あけち探偵たんてい事務じむ所しょを呼よびだしますと、子こどもらしい声こえが電話でんわ口くちに出でました。

「明智あけち先生せんせいは事件じけんで旅行りょこう中ちゅうです。四よん―五いつ日かお帰かえりになりません。いそぎのご用ようですか?」

「じつは、ひじょうに重大じゅうだいな、いそぎの用件ようけんなのですが、こまったな。」

「では、ぼくがおうかがいしましょうか。ぼく、先生せんせいからるす中ちゅうのことをまかされている、小林こばやしというものです。」

「ああ、きみが、うわさにきいている小林こばやし君くんですか。それじゃあ、すぐきてくれませんか。」

甲野こうのさんは、小林こばやし少年しょうねんのてがら話はなしを、いろいろ聞きいていました。それに、小林こばやし少年しょうねんにあえば、明智あけち探偵たんていの旅行りょこうさきもわかり、電話でんわで相談そうだんすることもできるのですから、ともかくきてもらうことにして、道みちじゅんを教おしえました。

麹町こうじまちアパートの明智あけち探偵たんてい事務じむ所しょと、赤坂あかさかの甲野こうのさんの家いえとはごく近ちかいので、それから二十にじゅう分ふんもたったころには、応接おうせつ間かんのテーブルをかこんで、甲野こうのさん夫婦ふうふと小林こばやし少年しょうねんとが、ひそひそ話はなしをしていました。

「電話でんわでも黒沢くろさわと名なのっていたが、これはどうも偽名ぎめいらしい。ルミの友ともだちが、『青山あおやまの黒沢くろさわ』といったのをおぼえていたので、警察けいさつでは、青山あおやまへんを手てをつくしてしらべたが、黒沢くろさわという家いえは発見はっけんできなかったのです。」

甲野こうのさんが説明せつめいしますと、小林こばやし少年しょうねんは、しばらく考かんがえていましたが、

「ルミちゃんの人形にんぎょうは、運送うんそう屋やがはこんできたのですね。おうちのかたで、その運送うんそう屋やの名なをおぼえている人ひとはないでしょうか。」

「それは女中じょちゅうさんが知しっているかもしれません。」

そこで、女中じょちゅうさんたちを呼よんでたずねてみますと、荷物にもつをうけとった女中じょちゅうさんは、運送うんそう屋やが送おくり状じょうをのこしていかなかったので、名なまえはおぼえていないと答こたえましたが、もうひとりの女中じょちゅうさんが、たいへんものおぼえがよくて、トラックの横よこに大おおきく書かいてあった運送うんそう屋やの名なをおぼえていました。それは「木きの宮みや運送うんそう店てん」というのでした。

「めずらしい名なまえですから、同おなじ店みせがたくさんあるはずはありません。電話でんわ帳ちょうを見みればわかるでしょう。ぼくは、ともかくその運送うんそう店てんをさぐってみます。それから、明智あけち先生せんせいに電話でんわで相談そうだんしたうえで、きょうのうちに、人形にんぎょうじいさんの家いえへしのびこんでみます。いまはまだ二に時じですから、じゅうぶん時間じかんがあります。それには、このままの姿すがたではだめです。ぼく、女おんなの子こに変装へんそうします。そして、人形にんぎょうじいさんと知恵ちえくらべをやるのです。」

てきぱきと、こともなげにいう小林こばやし君くんの顔かおを、甲野こうのさんは感心かんしんして見みつめていましたが、

「あんたが女おんなの子こにばけるんだって? 相手あいてに気きづかれないように、そんな変装へんそうができるかしら。」

と、心配しんぱいらしくたずねました。

「だいじょうぶです。ぼく、なんどもやったことがあるんです。いつも、ばれたことはありません。ぼくのからだにあう女おんなの子この洋服ようふくも和服わふくも、いつでもつかえるように、事務じむ所しょにちゃんと用意よういしてあります。」

「それならいいが、いずれにしても、明智あけち先生せんせいに電話でんわで相談そうだんのうえでやってくださいよ。もし、あいてに気きづかれたら、ルミがどんなことになるかわからないのだからね。わしのほうは、あすの晩ばんまでに、一千いっせん万まん円えんの現金げんきんを用意よういしておきます。金かねをわたすのは、すこしもおしいわけではない。ただ悪人あくにんをそのままほうっておくのが残念ざんねんなのです。それで、ルミをとりかえしたあとで、そいつをつかまえてやりたいのですよ。」

「わかりました。ですから、ぼくは、甲野こうのさんとはなんの関係かんけいもないものとして、探偵たんていします。お金かねを取とりにくるじゃまなどは、けっしてしません。ただ、あいての住すみかをつきとめておいて、ルミちゃんが帰かえってこられたあとで、警察けいさつに連絡れんらくするつもりです。そして、つかまえてもらいます。」

「では、やってみてください。くれぐれも、あいてにさとられないようにね。」

そこで、小林こばやし少年しょうねんはいとまをつげると、いそいで明智あけち探偵たんてい事務じむ所しょへひきかえしました。

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