← Library‹ 奇面城の秘密 警視総監

その夜よるは、四十よんじゅう面相めんそうがつかまって、ヘリコプターではこばれてくるというので、捜査そうさ一いち課か長ちょうの堀口ほりぐち警視けいしも、課長かちょう室しつにつめていましたが、庁内ちょうないの捜索そうさくがおわってしばらくすると、ひとりの警官けいかんが、課長かちょう室しつへはいってきて、挙手きょしゅの礼れいをしました。

「課長かちょう、総監そうかんがお呼よびです。」

「え、総監そうかんが? 総監そうかん室しつにきておられるのか。」

「四十よんじゅう面相めんそうのことをきかれて、いま公舎こうしゃからおいでになったところです。」

「そうか。すぐいく。」

「課長かちょう、それから、中村なかむら係かかり長ちょうもいっしょにくるようにとのことでした。呼よんでまいりましょうか。」

「うん、呼よんでくれたまえ。ぼくはさきにいっているから。」

堀口ほりぐち捜査そうさ一いち課か長ちょうが、警視けいし総監そうかんの部屋へやへはいると、まもなく中村なかむら係かかり長ちょうもそこへやってきました。

総監そうかん室しつは、りっぱな広ひろい部屋へやです。まんなかに大おおきな机つくえがおいてあって、そのむこうに背広せびろすがたの山本やまもと警視けいし総監そうかんが、ゆったりと、こしかけていました。夜よなかのことですから、秘書ひしょ官かんもつれていないのです。

「や、ごくろうですね。四十よんじゅう面相めんそうのさわぎを聞きいて、心配しんぱいだから、わたしも、ちょっときてみました。くわしいことは、まだ聞きいていないが、このさわぎは、どうしたことだね。」

総監そうかんにたずねられたので、堀口ほりぐち課長かちょうは、今夜こんやのできごとを、かいつまんで報告ほうこくしました。

「ふうん、すると、また、あいつにしてやられたわけだね。明智あけち君くんが、ヘリコプターでつれてきたまでは、おおできだが、それからあとがいけない。いくら変装へんそうの名人めいじんだからといって、にせものをつかまされたり、警官けいかんにばけて庁内ちょうないにはいりこまれたりしたのでは、警視けいし庁ちょうの名なおれだ。しっかりしてくれなくちゃこまりますね。これはいったい、だれの責任せきにんなんだね。」

「わたしの責任せきにんです。わたしの部下ぶかが、あやまちをしでかしたのですから。」

堀口ほりぐち課長かちょうが、もうしわけなさそうに答こたえました。

「いや、責任せきにんはわたしにあります。わたしが、この事件じけんのかかりなのですから。」

中村なかむら係かかり長ちょうも、青あおざめた顔かおでおわびをいって、うなだれてしまいました。

「たったひとりの四十よんじゅう面相めんそうが、警視けいし庁ちょうの手てにおえないとあっては、都民とみんにもうしわけがない。これからは、しっかりやってくれたまえ。それにしても、四十よんじゅう面相めんそうというやつは恐おそろしい怪物かいぶつだね。われわれは、やつのおもちゃにされているようなもんだ。

ところで、わたしは、さっき、この事件じけんについて、ひとつの案あんを思おもいついたのだがね。じつは、その案あんをわたすために、こうして出でかけてきたのだ。これだ。ここにわたしの案あんというのを書かきつけておいたから、あとで読よんでくれたまえ。」

山本やまもと総監そうかんは、そういって、ポケットから封筒ふうとうをとりだし、机つくえごしに堀口ほりぐち課長かちょうに手てわたしました。その封筒ふうとうのなかに総監そうかんの案あんを書かいた紙かみがはいっているのです。

「今夜こんや、よく読よんでくれたまえ。その案あんについての諸君しょくんの意見いけんは、あすのあさ聞きくことにしよう。では、わたしは、これで帰かえるから。」

総監そうかんはいすから立たちあがって、ゆったりとドアのほうへ歩あるいていきます。堀口ほりぐち課長かちょうと中村なかむら係かかり長ちょうは、それを見みおくるためにあとにしたがいました。

廊下ろうかに出でて、しばらくいきますと、むこうから、あわただしくかけてくるすがたがありました。明智あけち小五郎こごろうと小林こばやし少年しょうねんです。

明智あけちは警視けいし総監そうかんの前まえまでくると、とおせんぼうをするように、立たちはだかりました。

「アッ、明智あけち君くん!」

総監そうかんは、おどろいて立たちどまります。

「総監そうかん、ちょっとお話はなしがあります。」

「え、わたしにかね。」

「そうです。きゅうにお話はなししなければならないことができたのです。」

「ながい話はなしなら、部屋へやにもどるが……。」

「いや、ここでけっこうです。総監そうかん、ふしぎなことがおこりました。警視けいし総監そうかんがふたりになったのです。」

「え、なんだって? きみがなにをいっているのか、わたしにはよくわからないが……。」

「ぼくにも、さっぱりわかりません。じつは、いま総監そうかんの公舎こうしゃへ電話でんわをかけて、たずねたのです。すると、山本やまもと総監そうかんは、公舎こうしゃの寝室しんしつでよく眠ねむっておられるということでした。いったい、これはどうしたわけでしょうか。」

「そ、そんなばかなことが……。」

「いや、ぼくは、それだけでは信用しんようできないので、総監そうかんをおこしてもらって、電話でんわ口くちに出でてもらいました。ぼくは、いま総監そうかんと話はなしてきたばかりです。」

「ば、ばかなッ。でたらめもいいかげんにしたまえ!」

山本やまもと総監そうかんは、まっ赤かな顔かおになってどなりつけました。

「でたらめではありません。あなたにはおわかりになっているはずです。」

「わたしに、なにがわかっているというのだ。」

「ふたりの総監そうかんのうちひとりは、にせものだということがです。」

「にせものだって?」

「そうです。あなたが、にせものなのです。ぼくは、さっきから四十よんじゅう面相めんそうが、なぜ、警官けいかんにばけて警視けいし庁ちょうにはいりこんだかということを考かんがえていました。すると、あなたが、このま夜よなかに、ひょっこりと総監そうかん室しつにあらわれて、堀口ほりぐち課長かちょうや中村なかむら係かかり長ちょうを呼よびつけました。ぼくは、こいつはおかしいぞと思おもったのです。四十よんじゅう面相めんそうというやつは、とっぴなことをやって、世間せけんをアッとおどろかせるのが、だいすきです。じぶんの力ちからを見みせびらかしたいのです。物ものをぬすむのにも、いついつかの何なん時じにぬすむという予告よこくをして、じゅうぶん用心ようじんさせておいてぬすむのがすきです。これも世間せけんをアッといわせたいからです。それに、警視けいし庁ちょうは、四十よんじゅう面相めんそうにとってはにくいかたきです。そのかたきを、アッといわせてやったら、どんなにゆかいでしょう。四十よんじゅう面相めんそうはきっと、そう考かんがえたと思おもいます。

四十よんじゅう面相めんそうが警官けいかんに化ばけただけでも、世間せけんはアッといいます。それが、警視けいし総監そうかんに化ばけたらどうでしょう。大おおどろぼうが警視けいし総監そうかんにばけるなんて、じつにすばらしい思おもいつきではありませんか。」

明智あけちはそこまでいって、じっと相手あいての顔かおを見みつめました。

「それじゃ、きみは、わたしが四十よんじゅう面相めんそうだというのか。」

「そうだ。きみは四十よんじゅう面相めんそうだッ! ついちかごろ、警視けいし総監そうかんの背広せびろが一いち着ちゃくぬすまれている。それはきみが、部下ぶかにぬすませたのだ。そして、その背広せびろを警官けいかんの服ふくといっしょに、あの大おおかばんに入いれさせておいたのだ。きみは警官けいかんに化ばけてここへやってきた。そして、どこかのあき部屋へやで、その背広せびろと着きかえ、総監そうかんになりすまして、総監そうかん室しつへはいったのだ。」

ああ、なんということでしょう。世間せけんに知しれわたっている警視けいし総監そうかんと、そっくりの顔かおに化ばけるなんて、四十よんじゅうの顔かおをもつ、変装へんそうの大名だいみょう人にんでなくてはできないことです。

それにしても、明智あけちに見みやぶられた四十よんじゅう面相めんそうは、ここで、どんな手てをうつのでしょうか。

Next chapter →
Click a word · hold for the whole sentence 0%