← Library‹ 奇面城の秘密 まぼろし警官隊

総監そうかんに化ばけた四十よんじゅう面相めんそうは、おどろいて逃にげだしたでしょうか? いや、逃にげようとしても逃にげられるものではありません。ここは警視けいし庁ちょうの建物たてもののまんなかなのです。かれは、ふてぶてしく笑わらいました。

「さすがは名めい探偵たんてい、よく見みやぶった。だが、おれが四十よんじゅう面相めんそうだったら、どうしようというのだね。」

とおちつきはらっています。

「むろん、ひっとらえるのさ。手てをあげろ!」

明智あけちのことばといっしょに、よこにいた中村なかむら警部けいぶが、サッとピストルをかまえました。警部けいぶは背広せびろを着きていましたが、まんいちの用意よういに、ポケットにピストルをしのばせていたのです。

捜査そうさ一いち課か長ちょうは、いま出でてきたばかりの総監そうかん室しつへかけこんで、部下ぶかのところへ電話でんわをかけました。四十よんじゅう面相めんそうをとらえるために、警官けいかん隊たいをよこすようにめいじたのです。四十よんじゅう面相めんそうは両手りょうてをあげて、立たちおうじょうをしています。さすがの怪盗かいとうも、ピストルをつきつけられてはどうすることもできません。そのとき、廊下ろうかのむこうからどやどやと、おおぜいの制服せいふく警官けいかんがかけつけてきました。十じゅう人にんあまりの人数にんずうです。そして、四十よんじゅう面相めんそうのまわりをかこんで、ねじふせようとしました。

警官けいかんがとりかこんだので、中村なかむら警部けいぶはピストルがうてなくなりました。うてば、みかたの警官けいかんをきずつけるからです。

それがいけなかったのです。そのすきを見みて、四十よんじゅう面相めんそうは、すばやく、じぶんのピストルを、ポケットからとりだし、いきなり、天井てんじょうにむけてうちました。

がらがらッとガラスのわれる音おと。たまは天井てんじょうの電灯でんとうにあたって、ガラスがわれ、電灯でんとうは消きえてしまいました。でも廊下ろうかにはいくつも電灯でんとうがついていますから、まだまっ暗くらではありません。

それから、恐おそろしいたたかいがはじまりました。相手あいてがピストルをうったので、警官けいかんたちもみなピストルを手てにしました。

ばん、ばん、ばんと、つづけざまのピストルの音おと。四十よんじゅう面相めんそうがうったのか、警官けいかんたちがうったのか、よくわかりません。しかし、音おとがするたびに、廊下ろうかの電灯でんとうが、つぎつぎとうちこわされ、あたりはまっ暗くらになってしまいました。

「うぬッ、つかまえたぞッ。おい、手てをかしてくれ。手錠てじょうだ、手錠てじょうだッ!」

「なにを、これでもかッ!」

ぱしッとなぐりつける音おと。二、三にさん人にんのからだが廊下ろうかにころがって、くんずほぐれつ、とっくみあう音おと。

「アッ、逃にげたぞッ。追おっかけろ!」

「ちくしょう、逃にがすものか。つかまえたぞッ。ここだ、ここだ。」

警官けいかんたちは、四十よんじゅう面相めんそうともつれあって、だんだん、廊下ろうかのむこうへ遠とおざかっていきます。

捜査そうさ一いち課か長ちょうと中村なかむら警部けいぶは、物音ものおとをたよりに、それを追おっていきましたが、廊下ろうかの電灯でんとうがみんな消きえてしまっているので、なにがなんだかまるでようすがわかりません。

やっと、廊下ろうかのまがりかどまでたどりつきましたが、そこからさきの廊下ろうかもまっ暗くらです。

たちどまって耳みみをすますと、ふしぎなことに、あたりはしいんとしずまりかえっています。いままであんなにさわいでいた警官けいかんたちは、どこへいったのか、そのへんには人ひとのけはいもないのです。

そこへ、小林こばやし少年しょうねんが懐中かいちゅう電灯でんとうを持もってかけつけてきました。その電灯でんとうで、廊下ろうかのさきのほうを照てらしてみましたが、そこには、だれもいないことがわかりました。

十じゅう余人よにんの警官けいかん隊たいは、四十よんじゅう面相めんそうといっしょに、まぼろしのように消きえうせてしまったのです。

まがった廊下ろうかは一いち本道ほんどうで、ほかにいくことはできません。どこかの部屋へやにはいったのかと、そのへんのドアを、ひとつひとつあけて、懐中かいちゅう電灯でんとうでしらべてみましたが、どの部屋へやも、まったく、からっぽなのです。

「アッ、しまった!」

闇やみのなかから、明智あけち探偵たんていの声こえが聞きこえたかとおもうと、明智あけちらしい人ひとかげが、廊下ろうかのむこうへ、とぶように走はしっていくではありませんか。

捜査そうさ一いち課か長ちょうや、中村なかむら警部けいぶには、なにがしまったのか、なぜ、明智あけち探偵たんていが走はしっていったのか、わけがわかりません。しかし、そこにつっ立たっているわけにもいきませんので、明智あけちのあとを追おって、廊下ろうかのむこうへ歩あるいていきました。

また、廊下ろうかをひとまがりしますと、むこうに電灯でんとうがついているので、あたりが見みわけられるようになりました。

見みると、明智あけち探偵たんていが、こちらへ歩あるいてきます。

「明智あけち君くん、どうしたんだ。」

中村なかむら警部けいぶがたずねますと、名めい探偵たんていはがっかりしたような声こえで答こたえました。

「またやられた。あいつが、そこまで用意よういしていようとは思おもわなかった。」

「エッ、すると、いまの警官けいかんたちは?」

「うん、みんな四十よんじゅう面相めんそうの部下ぶかだったのさ。

新聞しんぶん記者きしゃに化ばけたやつらが、警官けいかんの服ふくを着きたのかもしれない。それとも、べつの部下ぶかが、どこかにかくれていたのかもしれない。いずれにしても、にせ総監そうかんがつかまったら、かけつけてくる手てはずになっていたのだ。そして、四十よんじゅう面相めんそうをつかまえるように見みせかけて、じつは、助たすけだしてしまったのだ。廊下ろうかの電灯でんとうがわれたのも、それだまではなくて、暗くらくするために、かたっぱしから電灯でんとうをねらいうちにしたのだよ。」

その廊下ろうかのはずれは、警視けいし庁ちょうの裏門うらもんのところへ出でていました。かれらは、裏門うらもんからまっ暗くらな道路どうろへ逃にげだしてしまったのにちがいありません。

「ぼくは、裏口うらぐちにいた警官けいかんたちにすぐ手配てはいをして、追おっかけるようにたのんでおいたが、あいつらは、門もんをでたら、ばらばらにわかれて、四方しほうにちらばってしまっただろうから、とてもつかまるまい。ことに四十よんじゅう面相めんそうは、あんな変装へんそうの名人めいじんだから、またたくまにべつの人間にんげんに化ばけてしまったかもしれない。」

ああ、なんということでしょう。大おおどろぼうが警視けいし総監そうかんに化ばけたばかりか、その部下ぶかたちも警官けいかんに化ばけて、にせ総監そうかんをすくいだすなんて、じつに思おもいもよらないはなれわざです。さすがの明智あけち探偵たんていも、そこまでは考かんがえていませんでした。

四よん人にんが、ぼんやり顔かおを見みあわせていますと、うしろのほうから、おおぜいのくつ音おとがして、八、九はちきゅう人にんの警官けいかんがぞろぞろとあらわれました。

課長かちょうの電話でんわで、総監そうかん室しつの前まえにかけつけた警官けいかんたちです。かれらがかけつけたときには、にせ警官けいかん隊たいは、廊下ろうかをまがってしまったあとだったのです。

電灯でんとうが消きえているので、なにがなんだかわけがわからず、まごまごしているうちに、時間じかんがたって、やっといまごろ、ここへやってきたのです。

中村なかむら警部けいぶは、じぶんたちも失敗しっぱいしたのですから、部下ぶかをしかるわけにもいかず、ともかくも、にせ総監そうかんのあとを追おっかけるように命令めいれいするのでした。

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