← Library‹ 奇面城の秘密 ポケット小僧の冒険

ポケット小僧こぞうが、奇き面めん城じょうの洞窟どうくつに帰かえると、まもなく、四十よんじゅう面相めんそうと美うつくしい女おんなの人ひとが、さんぽからもどってきました。

それから、まる二ふた日かのあいだポケット小僧こぞうは、洞窟どうくつの中なかに足あしをひそめていたのです。夜よるは、あの物置ものおき部屋へやで眠ねむり、昼ひるは、みつからぬように気きをくばりながら、ほうぼうの部屋へやをのぞきまわり、四十よんじゅう面相めんそうのすみ家かのようすをしらべました。

さいわい、洞窟どうくつの廊下ろうかはうす暗ぐらいので、四十よんじゅう面相めんそうの部下ぶかたちにであっても、すばやく身みをかくせば、相手あいてにさとられないですむのです。食事しょくじは、ときどき台所だいどころからぬすみ出だせばいいのですから、おなかがへるようなこともありません。

そうしてしらべたところによりますと、洞窟どうくつの中なかにすんでいるのは、四十よんじゅう面相めんそうからコックまでくわえて、十じゅう一いち人にんにすぎないことがわかりました。

四十よんじゅう面相めんそうの部下ぶかは、もっとたくさんいるのでしょうが、いまここには十じゅう一いち人にんだけなのです。

しかし、十じゅう一いち人にんがごはんをたべているのですから、どこからか食料しょくりょうを、はこばなければなりません。電気でんきをおこす石炭せきたんもいるでしょうし、そのほか、いろいろなものを持もってこなければなりません。

自動じどう車しゃのとおれない山やまの中なかです。そういうものをはこぶには、人間にんげんが背中せなかにしょって山道さんどうをのぼってくるか、ヘリコプターをつかうほかはないのです。あのヘリコプターは、たびたびここから飛とびたって、そういうものを、はこんでいるのにちがいありません。

ポケット小僧こぞうは、それを待まっていたのです。東京とうきょうへ帰かえるのには、そのおりを待まって、うまくやるほかはないと考かんがえていたのです。

すると、さいわいにも三み日かめの夜よる、そのおりがきました。

四十よんじゅう面相めんそうが、ふたりの部下ぶかに、ヘリコプターでどこかの町まちへいって、食料しょくりょう品ひんをつんでくるように命令めいれいしているのを、立たちぎきしたのです。

そこで、ふたりの部下ぶかが身みじたくをして、洞窟どうくつをでていくあとを、そっとついていきました。

夜よるのことですから、そとにでるとまっ暗くらです。ふたりの部下ぶかは懐中かいちゅう電灯でんとうをつけて、足あしもとを照てらしながら、ヘリコプターのほうへ近ちかづいていきます。昼間ひるまのうちに、いつでも飛とべるように準備じゅんびがしてあったのです。

ポケット小僧こぞうは、ふたりがヘリコプターに乗のりこまないさきに、あの操縦そうじゅう席せきのいすのうしろにある、ズックをかぶせたかごの中なかへ、もぐりこむつもりでした。

しかし、いくら闇夜あんやといっても、ふたりをおいこしたら、すぐに見みつかってしまいます。なにか計略けいりゃくをもちいなければなりません。

ポケット小僧こぞうはりこうな少年しょうねんですから、それも、ちゃんと考かんがえてありました。かれは、ふたりの部下ぶかのそばをはなれて、よこての森もりの中なかへかけこみました。そして、いきなり、

「キャーッ、助たすけてくれえッ……。」

と叫さけんだのです。

おどろいたのは、ふたりです。だれもいるはずのない森もりの中なかから、ひめいが聞きこえてきたので、すてておくわけにはいきません。

おおいそぎで森もりの中なかへかけこんで、そのへんをさがしまわりました。

しかし、ふたりがそこへはいってきたころには、もうポケット小僧こぞうは森もりの中なかを走はしって、ヘリコプターのほうへ近ちかづいていました。

そして、部下ぶかたちがさがしつかれて、森もりのそとへでたときには、とっくに、あの操縦そうじゅう席せきのかごの中なかへ身みをひそめていたのです。

かごにはズックがかぶせてあるので、中なかからその口くちをしめれば、大おおきなふろしきづつみのようになり、もう見みつかる心配しんぱいはありません。

「たしかに、人間にんげんの声こえだったな。」

「うん、おれもそう思おもった。だが、鳥とりがないたのかもしれない。この山やまには、人間にんげんみたいななき声ごえをだすお化ばけ鳥とりがいるからね。聞ききちがいだよ。こんなところへ人間にんげんがくるはずがないからね。」

ふたりの部下ぶかは、ぶつぶつそんなことをつぶやきながら、操縦そうじゅう席せきへ乗のりこんできました。

やがて、プロペラがまわりはじめます。

ぶるるん、ぶるるん、ぶるるん。

そして、機体きたいがスウッと浮うきあがったかとおもうと、だんだん速度そくどをはやめながら、どこともしれず飛とんでいくのです。

一いち時間じかんも飛とんだでしょうか。だんだん速度そくどがにぶくなり、機体きたいがさがっていって、どこかへ着陸ちゃくりくしました。

ポケット小僧こぞうはズックにつつまれているので、それがどんな場所ばしょだか、すこしもわかりません。

「おい、あすこに、自動じどう車しゃが待まっているぜ。さあ、かごをおろすんだ。」

ズックにつつまれたかごを、操縦そうじゅう席せきの入口いりぐちのところまでひっぱっておいて、地面じめんにおりたふたりが、それをひきずりおろすのです。

かごは、グッとひかれ、どしんと地面じめんにたたきつけられました。

そのひょうしに中なかにいるポケット小僧こぞうは、頭あたまや肩かたや腰こしをひどくかごにぶっつけましたが、いくらいたくても、声こえをたてることもできません。歯はをくいしばってがまんしていました。

なにしろ、ポケットにはいるといわれているほどの小ちいさな少年しょうねんですから、めかたもかるく、ふたりの部下ぶかは、まさか、かごの中なかに人間にんげんがはいっているなんて夢ゆめにもしりませんので、いつもよりすこしぐらい重おもくても、うたがって見みようともしないのでした。

かごを地面じめんにおくと、ふたりは、むこうの自動じどう車しゃのほうへ歩あるいていったようすです。

そのすきにポケット小僧こぞうは、そっとズックの口くちをひらいて、そとをのぞいてみました。

まっ暗くらです。家いえなどどこにも見みえません。町まちから遠とおくはなれた広ひろい原はらっぱのようなところです。

二十にじゅうメートルほどむこうに、ヘッドライトを消けした自動じどう車しゃの黒くろいかげが見みえ、ふたりの部下ぶかはそのそばに立たって、なにか話はなしをしています。

「いまだッ!」

と思おもいました。ズックの口くちをじゅうぶんひらいて、外そとへでると、もとのとおりにズックをしめ、そのままはうようにして、ヘリコプターから遠とおざかっていきました。

部下ぶかたちは、なにもしりません。自動じどう車しゃの運転うんてんをしていた男おとこにも手てつだわせて、車くるまのなかから、箱はこにはいったもの、紙かみにつつんだものなどを、かごのところへはこんでいます。肉にく、かんづめ、やさいなどの食料しょくりょう品ひんでしょう。

ポケット小僧こぞうは原はらっぱのくさむらの中なかに寝ねそべって、遠とおくからそのようすを見みていました。

しばらくすると、ズックでつつんだかごをヘリコプターにのせ、ふたりの部下ぶかも運転うんてん手しゅにわかれをつげて、操縦そうじゅう席せきに乗のりこみました。

そして、ぶるるん、ぶるるんと、ヘリコプターは空そらへ、自動じどう車しゃもヘッドライトをつけて、むこうの大おおきな道みちへと、遠とおざかっていきました。

かれらは、とうとう気きがつかなかったのです。ポケット小僧こぞうはたすかったのです。しかし、これからが大おおしごとです。東京とうきょうに帰かえって明智あけち探偵たんていや小林こばやし少年しょうねんにこのことを報告ほうこくし、大おおぜいの警官けいかん隊たいといっしょに、奇き面めん城じょうを攻撃こうげきして、怪人かいじん四十よんじゅう面相めんそうをとらえなければなりません。

まる二ふた日か、洞窟どうくつの中なかをしらべ、悪人あくにんたちの話はなしを立たちぎきしたおかげで、ポケット小僧こぞうには、奇き面めん城じょうが、どのへんの山やまの中なかにあるかということも、だいたいわかっていました。

いよいよ、奇き面めん城じょうの総そう攻撃こうげきがはじまるのです。名めい探偵たんてい明智あけち小五郎こごろうは、どんな計略けいりゃくを考かんがえだすでしょうか。また、四十よんじゅう面相めんそうは、どのようなてだてで、これをふせぐでしょうか。千変万化せんぺんばんかの知恵ちえと力ちからのたたかいが、やがてはじまろうとしているのです。

ポケット小僧こぞうは、それを考かんがえると胸むねがわくわくしてきました。怪人かいじん四十よんじゅう面相めんそうのほんとうのすみ家か、あの恐おそろしい奇き面めん城じょうが、どこにあるかを知しっているのは、世界せかいじゅうにおれひとりだと思おもうと、うれしくてしかたがないのです。

ヘリコプターも自動じどう車しゃも、かげが見みえなくなってしまったので、ポケット小僧こぞうは安心あんしんして立たちあがりました。そして、原はらっぱをよこぎり、国道こくどうらしい大おおきな道みちにでると、さっきの自動じどう車しゃがいった方角ほうがくへ、暗闇くらやみのなかをてくてくと歩あるきだすのでした。

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