← Library‹ 奇面城の秘密 敵のただ中へ

それから一いち時間じかんほどのち、四十よんじゅう面相めんそうの部下ぶかのにせものと、ポケット小僧こぞうをのせたヘリコプターは、奇き面めん城じょうの前まえの広ひろっぱに着陸ちゃくりくしていました。

四十よんじゅう面相めんそうの部下ぶかのヘリコプターがかりは、ジャッキーとよばれている男おとこで、その助手じょしゅのもうひとりの男おとこは、五郎ごろうという名なでした。ポケット小僧こぞうがそれを、ちゃんとおぼえていたのです。

ジャッキーと五郎ごろうになりすましたふたりは、食料しょくりょうをつめたかごをヘリコプターからおろし、それをはこんで、奇き面めん城じょうへはいろうとしました。

そのとき、「ごうッ……。」という恐おそろしいうなり声ごえが、どこからかひびいてきたのです。

「アッ、いけない、虎とらだ。虎とらがやってくる……。」

ポケット小僧こぞうが、とんきょうな声こえをたてました。

「エッ、虎とらだって?」

ジャッキーと五郎ごろうが、口くちをそろえて叫さけびました。ふたりとも、虎とらの番人ばんにんがいることは聞きいていましたが、四十よんじゅう面相めんそうの部下ぶかに変装へんそうしてしまえば、だいじょうぶだと思おもいこんでいたのです。

ところが虎とらは、おけしょうや服装ふくそうなんかではごまかされません。においです。虎とらの鼻はなは人間にんげんよりもずっとするどいので、人間にんげんのひとりひとりのにおいが、ちゃんとわかるのです。

いま、ヘリコプターからおりたふたりは、これまで、かいだこともないような、においをもっている。

こいつはあやしいぞと、虎とらは考かんがえたのでしょう。

星ほしあかりですかして見みると、二にひきの大おおきな虎とらが、もう十じゅうメートルほどむこうまで近ちかづいていました。

にせジャッキーとにせ五郎ごろうは、ピストルを持もっていましたから、うまくうてば、それで虎とらを殺ころすことができるかもしれません。

しかし、そんなことをすれば、ピストルの音おとを敵てきに聞きかれますし、虎とらの死しがいがのこるので、たちまちあやしまれて、せっかく、ここまでのりこんできた苦心くしんが、水みずのあわになってしまいます。逃にげるほかはありません。うまく木きの上うえにでものぼれば、難なんをのがれられるかもしれないのです。

そこでふたりは、虎とらとはんたいのほうへ、いちもくさんにかけだしたのです。

「アッ、走はしっちゃいけないッ。」

ポケット小僧こぞうがあわてて叫さけびましたが、もうおそい。そのときは、もう、虎とらもかけだしていたのです。

猛獣もうじゅうに出であったときは、じっとしていなければいけない、ということを、ふたりのおとなは忘わすれてしまったのです。

じっとしていれば、虎とらのほうでもにらんでいるばかりですが、走はしりだしたら、虎とらはいっぺんにとびかかってきます。虎とらとかけっこしたって、とても勝かてるものではありません。このままほうっておいたら、ふたりは、虎とらにくわれてしまう運命うんめいです。

ポケット小僧こぞうは、とっさに考かんがえました。

「二にひきの虎とらは、ぼくのことをおぼえていないかしら。このあいだ虎とらの子こを助たすけてやったときには、あんなによろこんでいたんだから、まだおぼえているかもしれない。よしッいちかばちか、やってみよう。」

そう決心けっしんすると、ポケット小僧こぞうは大手おおてをひろげて、いまジャッキーと五郎ごろうにとびかかろうとする、二にひきの虎とらの前まえに立たちふさがりました。

ああ、あぶない。ポケット小僧こぞうは、ふみつぶされてしまうかもしれません。

立たちふさがっているポケット小僧こぞうの目めの前まえに、二にひきの虎とらの恐おそろしい顔かおが、グウッと近ちかよってきました。

「アッ、もうだめだ。」

とおもいました。そして、目めをつぶってしまいました。

いまにも、ふみつぶされるか、いまにもかみつかれるかと、かくごしていましたが、なにごともおこりません。

顔かおに、あつい息いきが、ふうっ、ふうっとかかりました。そしてあたたかい毛けがわのようなものが、からだにこすりついてくるのです。

ポケット小僧こぞうは、へんだなと思おもいながら目めをひらきました。

すると、一いちぴきの虎とらは、むこうに立たちどまってじっとこちらを見みています。もう一いちぴきの虎とらは、ポケット小僧こぞうにからだをすりつけてあまえているではありませんか。

やっぱり子こどもを助たすけられた恩おんを、わすれないでいたのです。からだをすりつけているのは、母親ははおやの虎とらにちがいありません。むこうに立たって、それを見みているのは、父親ちちおやのほうでしょう。

ジャッキーと五郎ごろうは、それを見みてびっくりしてしまいました。

「ポケット君くん、きみは虎とらをだまらせる力ちからがあるのか。おどろいたねえ。」

ジャッキーが、つくづく感心かんしんしたようにいうのでした。

「そうじゃありません。この虎とらはぼくに恩おんがえしをしているのです。」

ポケット小僧こぞうは、このあいだ虎とらの子こを助たすけてやったことを話はなしました。

「おお、そうだったか。虎とらもえらいが、きみもえらいぞ。やさしい心こころというものは、どんな動物どうぶつにだって通つうじるのだねえ。」

ジャッキーは、おもわずポケット小僧こぞうの頭あたまをなでて、ほめたたえるのでした。

「ジャッキーさん、あれが奇き面めん城じょうですよ。」

ポケット小僧こぞうは、てれかくしのように、星空ほしぞらにそそり立たつまっ黒くろな岩山いわやまを指ゆびさしました。

「なるほど、恐おそろしい形かたちをしているねえ。……それじゃあ、奇き面めん城じょうの中なかへはいろうか。虎とらには見みやぶられたが、虎とらほどの鼻はなのきかない人間にんげんには、見みやぶられる心配しんぱいはないからね。」

そこで、三さん人にんは、食料しょくりょう品ひんのかごをはこんで、巨人きょじんの顔かおの下したの洞窟どうくつへはいっていきました。

あの岩いわの橋はしをおろす、かくしボタンは、入口いりぐちの方ほうにもあります。ポケット小僧こぞうは、そのボタンのありかを、ちゃんと知しっていたのです。

そのボタンをおして、大おおきな岩いわの橋はしをおろし、三さん人にんはいよいよ、四十よんじゅう面相めんそうのすみかへはいっていきました。

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