← Library‹ 奇面城の秘密 水ぜめ

しばらくすると、赤あかい消防しょうぼう自動じどう車しゃがかけつけ、門もんから庭にわへはいってきました。中村なかむら警部けいぶのさしずで、探照たんしょう灯とうが点てんじられ、白しろい棒ぼうのような強つよい光ひかりが、西洋せいよう館かんの大おお屋根やねを照てらしました。

やっぱりそうです。黒くろいシャツをきた男おとこが、ぴったりと、屋根やねにからだをくっつけて、はらばいになっています。そのすがたが、はっきりと照てらしだされたのです。

四十よんじゅう面相めんそうは、顔かおをふりむけて、まぶしそうに、こちらを見みました。そして、いきなり逃にげだしたのです。逃にげだすといっても屋根やねのそとへは出でられません。とびおりたりなんかすれば、死しんでしまうばかりです。

かれは、屋根やねをはって、頂上ちょうじょうのむねがわらまでたどりつくと、ひょいと、それをまたいで、むこうがわに、すがたを消けしてしまいました。

探照たんしょう灯とうの光ひかりは、むねがわらのむこうまでは、とどきませんから、四十よんじゅう面相めんそうを見みうしなわないためには、自動じどう車しゃを、むこうがわにまわして、そこから探照たんしょう灯とうをあてるほかはありません。

消防しょうぼう車しゃの運転うんてん手しゅは車くるまを動うごかして、うらへまわろうとしました。それを見みた中村なかむら警部けいぶは、

「いや、このままでいい。あっちへまわったら、あいつはこっちがわの屋根やねへ逃にげるだろう。そうすれば、また、ここへもどってこなければならない。あいつがむねがわらを、こえるのはすぐだけれども、自動じどう車しゃをむこうへまわすのはたいへんだ。それより、自動じどうばしごをのばしなさい。そうして、大おお屋根やねまでとどかせてくれれば、ぼくの部下ぶかがのぼっていって、あいつをつかまえるよ。」

と、さしずをしました。

すると、ガラガラッとモーターがまわって、自動じどうばしごが、上うえへ上うえへとのびはじめました。そして、みるまに、大おお屋根やねの高たかさになったのです。

そういうことになれた、中村なかむら警部けいぶの部下ぶかのふたりの警官けいかんが、くつをぬぎ、上着うわぎをぬぎ、みがるないでたちになって、空そらにむかって、まっすぐに立たっている自動じどうばしごを勇敢ゆうかんにのぼっていきます。

警官けいかん隊たいのうち、うらがわに三さん人にんばかりのこして、みんな消防しょうぼう自動じどう車しゃのまわりに、集あつまっていました。主人しゅじんの神山かみやまさんも、書生しょせいたちも、その中なかにまじっています。明智あけち探偵たんていと小林こばやし少年しょうねんだけは、どこにも、すがたが見みえないのでした。

四十よんじゅう面相めんそうが、屋根やねに逃にげるすこしまえにも、ふたりは、どこかへ、すがたをくらましていましたが、このかんじんなときに、またもや、ゆくえがわからなくなってしまったのです。いったい、どこへいったのでしょうか。

ふたりの警官けいかんは、もう自動じどうばしごの三さん分ぶんの二にほどを、のぼっていました。あと二にメートルで、大おお屋根やねにとどきます。

そのとき、むねがわらのむこうから、四十よんじゅう面相めんそうのあたまが、ひょいと、こちらをのぞきました。そして、警官けいかんたちが、はしごをのぼってくるのに気きづいたようすです。

ふたりの強つよそうな警官けいかんが、屋根やねへあがってきたら、もうおしまいです。かれらは、手錠てじょうやとりなわを持もっています。腰こしのサックには、たまをこめたピストルまで用意よういしているのです。四十よんじゅう面相めんそうがいくら強つよくても、とてもかなうものではありません。

四十よんじゅう面相めんそうは、どうするつもりでしょう。とうとう、つかまってしまうのでしょうか。

見みていると、かれは、むねがわらをのりこして、のこのこと、こちらがわの屋根やねへ出でてきました。そして、だんだん、屋根やねのはしのほうへ、おりてくるのです。いったいなにをしようというのでしょう。

「オヤッ、やつは、とびおりるかもしれないぞ。救命きゅうめい具ぐを用意よういしたまえ。」

中村なかむら警部けいぶの声こえに、消防しょうぼう手てたちは、車くるまにそなえつけてある、まるいズックの救命きゅうめい具ぐを取とりだして、五ご人にんでそれをひろげ、屋根やねの下したへ近ちかづきました。とびおりてくる四十よんじゅう面相めんそうのからだを、そのまるいズックの上うえに、うけとめようというのです。

しかし、四十よんじゅう面相めんそうは、とびおりるけはいはありません。かれは、屋根やねのとっぱなまでくると、そこにかかっていた自動じどうばしごに両手りょうてをかけて、力ちからまかせに、ゆさぶりはじめたではありませんか。

そのために、いまにも屋根やねに手てをかけようとしていた警官けいかんが、ふいをつかれて、ずるずるッと、はしごをすべり落おちました。

「アッ、あぶないッ。」

そのまま、下したまで落おちてくるのではないかと、手てに汗あせをにぎりましたが、三さんだんほど、すべり落おちただけで、はしごのよこ木きにつかまって、やっとのことで、ふみとどまりました。あとからのぼっている、もうひとりの警官けいかんは、まだずっと下したのほうにいたので、ふたりが、ぶっつかりあうこともなかったのです。もし、ぶっつかれば、ふたりとも、命いのちはないところでした。

さきの警官けいかんは、これにくっせず、またはしごをのぼって、屋根やねに手てをかけようとしましたが、四十よんじゅう面相めんそうは、それを待まちうけていて、また、はしごを、ゆさゆさと、ゆさぶるのです。

こんどは、用心ようじんをしていたので、すべり落おちないですみましたけれど、こんなにゆさぶられては、とても屋根やねにのぼることはできません。

しかたがないので、警官けいかんは、腰こしのサックからピストルをとりだしました。

「こらッ、てむかいをするとぶっぱなすぞッ。命いのちがないぞッ。」

そうどなっておいて、空そらにむかって、一いちぱつ、だあんと発射はっしゃしました。

「ワハハハハ……。」

四十よんじゅう面相めんそうは、さもおかしそうに、笑わらいだすのでした。

「ワハハハハ……、そんなおどかしは、おれにはきかないよ。おれは、なんにも武器ぶきを持もっていないのだ。武器ぶきを持もたない相手あいてを、殺ころすことはできないはずだね。いくらおどかしの空砲くうほうをうったって、おれは、びくともしないよ。ワハハハハ……、ざまあみろ。」

こんな相手あいてにかかっては、どうすることもできません。四十よんじゅう面相めんそうのからだを、うつことはできないのを、ちゃんと知しっているのです。警官けいかんはあきらめて、ピストルを腰こしのサックに、もどしてしまいました。そして、また、いくども屋根やねにとりつこうとしましたが、そのたびに、四十よんじゅう面相めんそうが、はしごをゆさぶるので、落おちないようにしがみついているのがやっとでした。とても犯人はんにんをつかまえることなどできるものではありません。

下したでは、中村なかむら警部けいぶたちが、相談そうだんしていました。

「水みずぜめにしたらどうだろう。ホースで、あいつに水みずをぶっかけるんだよ。そうすれば、すべって落おちてくる。それを、救命きゅうめい具ぐでうけとめればいい。」

中村なかむら警部けいぶがいいますと、主任しゅにんの消防しょうぼう手しゅも賛成さんせいしました。

「やってみましょうか。消火栓しょうかせんをひらいてホースをつなげばいいのです。ホースの水みずは、ひじょうな力ちからですから、あいつはきっと、すべりますよ。」

「うん。それをやるほかはないと思おもうね。だが、うまくうけとめられるかな。やりそこなったら、あいつは死しんでしまうからね。あいつを殺ころしてはいけないのだ。なかなか、むずかしい仕事しごとだよ。」

中村なかむら警部けいぶは、心配しんぱいそうに首くびをかしげました。

こんなとき、明智あけち探偵たんていがいたら、もっといい知恵ちえを出だしてくれるのでしょうが、明智あけちも小林こばやし少年しょうねんも、どこへいったのか、まだすがたを見みせないのです。

「よしッ、やってみよう。しかし、注意ちゅういしておくがね、ほんとうに、すべり落おちるまでやらないで、ただ、あいつをびっくりさせればいいのだ。いまにも、すべり落おちそうになれば、いくらあいつだって、手てをあげるにちがいない。そのとき、はしごをのぼっていって、ひっくくってしまえばいいのだからね。」

中村なかむら警部けいぶは、とうとう、決心けっしんをして命令めいれいをくだしました。

そこで、ホースがのばされ、消火しょうか栓せんにつながれました。地面じめんをはっている白しろいホースが、へびのようにのたうって、ふくらんできました。

ふたりの消防しょうぼう手しゅが、ホースのつつ先さきをにぎっています。

ホースのふくらみがツウッとのびて、つつ先さきにたっしました。そして、音おとをたてて水みずがほとばしりはじめました。

水みずは一いち本ほんの白しろい棒ぼうになって、そとに吹ふきあげています。つつ先さきはすこしずつ、むきをかえ、大おお屋根やねのとっぱなにむけられました。

四十よんじゅう面相めんそうは、あたまから夕立ゆうだちのような水みずをかぶり、あわてて、屋根やねにはらばいになりました。水みずのいきおいは、刻こく一刻いっこく、はげしくなるばかりです。

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