← Library‹ 奇面城の秘密 操縦士の正体

松下まつしたとよばれていた男おとこは、はじめて顔かおを上うえにむけ、正面しょうめんから四十よんじゅう面相めんそうをにらみつけました。

「松下まつしたでないとすると、だれだと思おもうね。」

「なにッ、さては、きさまッ。」

「おっと、身みうごきしちゃいけない。ぼくの手てがくるったら、みんなおだぶつだからね。それに、きみの背中せなかにかたいものがあたっているのが、わかるかね。ピストルのつつ先さきだよ。きみのうしろに、ぼくの助手じょしゅの小男こおとこがうずくまって、ピストルをつきつけているんだよ。手てむかいをすれば、きみの命いのちはないんだぜ。」

「ちきしょうッ! きさま、いったいなにものだッ? 敵てきか味方みかたか。まさか味方みかたじゃあないだろう。すると、さっき、屋根やねの上うえから、おれを助たすけてくれたのは、どういうわけだ。」

「助たすけたんじゃあない。つかまえたんだよ。そして、いまきみを警視けいし庁ちょうへつれていくところさ。」

「それじゃあ、きさま、警視けいし庁ちょうのやろうかッ。」

「そうでもないよ。おい、四十よんじゅう面相めんそう、ぼくをわすれたのかね。」

操縦そうじゅう士しはそういって、ポケットから、あぶらをしませた手てぬぐいをだすと、それでじぶんの顔かおを、ぐるぐると、なでまわしました。変装へんそうのけしょうを、ふきとったのです。

「アッ、きさま、明智あけち小五郎こごろうだなッ。」

「ウフフフフフ……、やっとわかったかね。そして、きみのうしろからピストルをつきつけているのは、ぼくの少年しょうねん助手じょしゅの小林こばやしだよ。おとなの服ふくをきて、小男こおとこにばけていたのさ。」

読者どくしゃ諸君しょくん、ちょっと、思おもいだしてください。四十よんじゅう面相めんそうが神山かみやま邸ていの洋館ようかんの屋根やねにのぼったとき、やしきをとりまく警官けいかん隊たいのなかに、明智あけち探偵たんていと小林こばやし少年しょうねんのすがたが見みえなかったことは、まえの章あきらに書かいてあります。あれを思おもいだしてください。ふたりは、そのとき、警視けいし庁ちょうのヘリコプターをかりだして、神山かみやま邸ていへ飛とんでくるために、そっとたちさったのです。

明智あけち探偵たんていは、自動じどう車しゃはもちろん、飛行ひこう機きでも、ヘリコプターでも、操縦そうじゅうできるうでまえをもっていました。名めい探偵たんていというものは、万能ばんのう選手せんしゅでなければなりません。明智あけちは青年せいねん時代じだいから、あらゆるスポーツでからだをきたえてきました。そして、飛行ひこう機きの操縦そうじゅうまでも、じゅうぶん練習れんしゅうしていたのです。

「おい、四十よんじゅう面相めんそう。きみは、せっかく苦心くしんをして、牢ろうやぶりをしたかとおもうと、もう、つかまってしまったね。こんなにはやくつかまるなんて、いつものきみにも、にあわないことじゃないか。

ハハハハハ。きみがヘリコプターを持もっていることは、ちゃんとわかっていた。だから、きみが、あの西洋せいよう館かんの高たかい屋根やねへ逃にげのぼったとき、ぼくは、すぐにヘリコプターを思おもいだした。そのほかに、四方しほうをかこまれたあの屋根やねから、逃にげる方法ほうほうはないのだからね。

きみは部下ぶかとうちあわせておいて、ちょうどいいじぶんに、ヘリコプターがあそこへ飛とんでくるようにしておいた。そしてじぶんのヘリコプターに乗のって、逃にげだすつもりだった。

ぼくはそれがわかったので、小林こばやし君くんをつれて、警視けいし庁ちょうにかけつけ、ふたりとも変装へんそうをして、このヘリコプターに乗のりこんだ。そして、きみの部下ぶかのヘリコプターがやってくるまえに、先さきをこして、あの屋根やねの上うえにあらわれたのだ。

よく見みれば、きみのヘリコプターと、これとはかたちがちがっているのだが、水みずぜめにあって、めんくらっていたきみには、その見みわけがつかなかった。助たすけだしにきたからには、自分じぶんのヘリコプターだと、思おもいこんでしまったのだ。そして、まんまと、ぼくのわなに、かかったというわけだよ。

あそこに飛とんでいるのが、きみのヘリコプターだ。そして、あの操縦そうじゅう席せきにいるのがきみの部下ぶかの松下まつしたという男おとこだろう。ひとあしおくれて首領しゅりょうをさらわれ、びっくりして、追おっかけてきたのだ。だが、まさか、こっちのヘリコプターを、射撃しゃげきするわけにもいくまい。首領しゅりょうのきみが、乗のっているんだからね。

あの男おとこは、どうしていいかわからなくなって、ただぼくたちを、つけているのだ。いまに、自分じぶんもつかまってしまうのも知しらないでね。ハハハハハ……。

それじゃあ、きみをつかまえたことを警視けいし庁ちょうに知しらせて、よろこばせることにしよう。きみも聞きいていたまえ。」

明智あけちはそういって、操縦そうじゅう席せきのまえにある無線むせん電話でんわの送話そうわ機きをとって、警視けいし庁ちょうの無電むでん室しつをよびだすのでした。

「こちらは空中くうちゅう警邏機けいらき第だい二に号ごう。報告ほうこくします。神山かみやま邸てい洋館ようかん屋上おくじょうで、怪人かいじん四十よんじゅう面相めんそうを逮捕たいほ、ただいま警視けいし庁ちょうにむかって飛行ひこう中ちゅう。いまから、やく十じゅう分ぶんののち、日比谷ひびや公園こうえんの広場ひろばに着陸ちゃくりくの予定よてい。着陸ちゃくりく地点ちてんに数すう名めいの警官けいかんを配置はいちしてください。」

明智あけちは送話そうわ機きにむかって、おなじことを、二に度どくりかえしました。すると、むこうから、

「警視けいし庁ちょうりょうかい。」

という返事へんじが、はっきり聞きこえてきました。

「四十よんじゅう面相めんそう、もうひとつきみに知しらせておくことがある。きみはレンブラントの名画めいがをぬすみだして、背中せなかにしょっているつもりだろうが、それはとんだ思おもいちがいだよ。そのふろしきづつみをといて、よくしらべてみるがいい。」

明智あけちにそういわれて、四十よんじゅう面相めんそうは、びっくりしたような顔かおをしました。そこで、のろのろと、ふろしきづつみをおろし、なかのカンバスをだしてひらきました。そして、ひと目めその画面がめんを見みると、おもわず、「アッ!」と声こえをたてないではいられませんでした。

ごらんなさい。それは、いつのまにか、レンブラントとはにてもにつかない、へたくそな風景ふうけい画がにかわっていたではありませんか。

四十よんじゅう面相めんそうのあっけにとられた顔かおを見みると、明智あけち探偵たんていは、さも、こきみよさそうに、笑わらいだすのでした。

「ハハハハ……、おい、四十よんじゅう面相めんそう君くん。こんどはなにからなにまで、きみの負まけだね。ぬすみだした絵えは、まるでちがったにせものだった。助たすけだされたと思おもったヘリコプターは、警視けいし庁ちょうの警邏けいら機きだった。そして、それに乗のっていたのは、きみがこの世よで、いちばん恐おそれている明智あけち小五郎こごろうだったとは。ハハハハ……。」

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