← Library‹ 夜光人間 魔法のたね

「さあ、聞きこう、きみがどこまで、おれの秘密ひみつを知しっているか、話はなしてみたまえ。」

にせ明智あけちは立たちはだかったまま、あざけるように、いうのでした。

「夜光やこう人間にんげんには、きみが化ばけることもあるし、きみの部下ぶかが化ばけることもある。夜光やこう塗料とりょうをぬったビニールのシャツとズボンをはくのだ。顔かおや手てには、じかに夜光やこう塗料とりょうをぬる。目めには赤あかガラスのめがねをかけ、そのめがねに豆まめ電球でんきゅうをつけて、まっ赤かに光ひからせているのだろう。口くちの中なかにも豆まめ電球でんきゅうをいれて、火ひをはくように見みせているのだ。その電球でんきゅうは、ほそいコードで、ポケットに入いれた乾かん電池でんちにつながっている。これはぼくの想像そうぞうだが、たぶんまちがいないだろう。え、どうだね。」

「うん、まあそんなとこだ。で、夜光やこう人間にんげんが、空そらへのぼるのは?」

「高たかい木きのてっぺんから、綱つなをさげて、それをのぼるのだ。夜よるだから、綱つなは見みえない。そして、てっぺんまでのぼって、黒くろいシャツとズボンをはき、顔かおは覆面ふくめんでかくしてしまう。すると、なにも見みえなくなる。てっぺんで、すがたが消きえるので、空中くうちゅうへ飛とびさったように見みえるのだよ。」

「うん、そのとおりだ。では、どうして、仏像ぶつぞうや白玉はくぎょくをぬすんだのか、それをいってみたまえ。」

「夜光やこう人間にんげんは、しめきった部屋へやの中なかへ、はいれるはずがない。だから、あいつは、窓まどの外そとをうろついたばかりで、ものをぬすんだのではない。ぬすんだやつは、べつにいるのだ。

まず、杉本すぎもとさんの書斎しょさいから推古すいこ仏ふつをぬすんだやりかたをいうと、あの推古すいこ仏ふつは、もともときみのものだったのだ。」

「え、おれのものだって?」

「そうだよ。杉本すぎもとさんと、きみとは、おなじ人間にんげんだったのさ。」

「え、なんだって?」

「きみは変装へんそうの名人めいじんだ。だれにでも化ばけられる。きみはいろいろな人間にんげんに化ばけて、ほうぼうに家いえをもっている。

ここのうちには、伊達だて五郎ごろうという表札ひょうさつが出でているが、きみは伊達だて五郎ごろうという人間にんげんになって、ここに住すんでいる。それとおなじように、きみは杉本すぎもとという人間にんげんになって、世田谷せたがやのあのうちにも住すんでいるのだ。

そして、夜光やこう人間にんげんにねらわれたように見みせかけて、きみは、じぶんの仏像ぶつぞうをじぶんでぬすんだのだよ。あのとき、あの部屋へやは密室みっしつになっていた。だれもはいれるはずはない。部屋へやにいたのは、きみと小林こばやしだけだった。

夜光やこう人間にんげんは、窓まどの外そとを、うろうろしていたけれども、部屋へやの中なかへははいれない。ぬすんだのは主人しゅじんの杉本すぎもと、すなわち、きみだった。小林こばやしが窓まどの外そとの夜光やこう人間にんげんに気きをとられているすきに、あの小ちいさな仏像ぶつぞうを、内ないポケットにしまいこんだ。そして、夜光やこう人間にんげんにぬすまれたように、見みせかけたのだ。

夜光やこう人間にんげんが幽霊ゆうれいのように、しめきった部屋へやへしのびこめるということを、世間せけんに見みせつけたのだ。そうしておけば、こんど他人たにんのものをぬすむときにも、やっぱり夜光やこう人間にんげんのしわざだと、思おもわせることができるからね。今夜こんやは、きみは、ぼくに化ばけて、赤あか森もりさんの美術びじゅつ室しつに、ひとりでいた。ドアには、中なかからかぎをかけ、刑事けいじたちが、はいってこないようにしておいて、きみは、ひとしばいをやったのだ。

夜光やこう人間にんげんが、部屋へやにはいってきて、きみと取とっくみあっているように、見みせかけたのだ。どすんどすんと、音おとをさせたり、うめき声ごえをたてたりしてね。

みんなが心配しんぱいして、ドアをやぶって部屋へやにはいってきたときには、夜光やこう人間にんげんにやられたようにして、たおれていた。そのじつきみは五いつつの白玉しらたまを、ほうぼうのポケットにひとつずついれて、たおれていたのだ。ちゃんと、ぬすんでしまっていたのだ。

そして、名めい探偵たんてい明智あけち小五郎こごろうが、大だい失敗しっぱいをやったということにして、こそこそ赤あか森もりさんのうちを逃にげだしたというわけさ。ぼくこそ、いいめいわくだ。ぼくは夜光やこう人間にんげんと、取とっくみあって、気きをうしなうような弱じゃくむしじゃないからね。」

「うん、えらいッ! なにもかも、きみのいうとおりだ。さすがによく見みやぶった。それじゃあ、もうひとつの秘密ひみつも、きみは、とっくに感かんづいているのだろうね。」

にせ明智あけちは、そういって、じっと、あいての顔かおを見みつめました。どちらがどちらと、見みわけのつかないほどそっくりのふたりの明智あけち探偵たんていが、立たちはだかったまま、おたがいの目めを、見みつめあっていました。たっぷり一いち分間ふんかんほども、そうして、じっと、にらみあっていたのです。

「むろん、知しっている。」

しばらくして、ほんものの明智あけち探偵たんていが、にっこりして、いいました。そしてかれの右手みぎてが、スウッと前まえにのびたかとおもうと、まっこうから、にせ明智あけちの顔かおをゆびさしました。

「きみは四十よんじゅう面相めんそうだッ! そのまえの名なは二十にじゅう面相めんそうといったね。」

ピシッ、むちをうつような、するどい声こえでした。

「で、おれが四十よんじゅう面相めんそうなら、どうしようというのだ。」

「警察けいさつにひきわたすのだ。さっきもいったとおり、このうちは警官けいかん隊たいにとりかこまれている。きみはもう、ぜったいに逃にげることはできないのだ。」

「ふふん、いよいよ、ふくろのネズミというわけか。だがね、明智あけち君くん、おれはたびたび、こういうめにあっている。そのたびに、おくの手てが用意よういしてあるかもしれないぜ。」

Next chapter →
Click a word · hold for the whole sentence 0%