← Library‹ 夜光人間 水中の怪光

二に、三さん年ねんまえ、あるフランス人にんが、ヘリコプターのプロペラのようなものを背中せなかにしょって、空そらを飛とぶ発明はつめいをしたことが新聞しんぶんにのっていましたが、四十よんじゅう面相めんそうは『宇宙うちゅう怪人かいじん』の事件じけんのとき、それとおなじようなプロペラを身みにつけて、たびたび空そらを飛とんでみせました。

こんども、そのプロペラなのです。四十よんじゅう面相めんそうの夜光やこう怪人かいじんは、木きのてっぺんに、かくしておいた飛行ひこう具ぐを身みにつけて、星空ほしぞらを飛とんでみせたのです。

こうして夜光やこう怪人かいじんは、またもや逃にげさってしまいましたが、それから十とお日かほどたった、あるばんのことです。

夜光やこう怪人かいじんは、こんどは港みなと区くの上山かみやまさんというお金持かねもちのやしきに、そのぶきみなすがたをあらわしました。

上山うえやまさんのうちには、小しょう学校がっこう六ろく年ねん生せいの上山うえやま一郎いちろうという少年しょうねんがいました。それが上山うえやまさんのひとりっ子こなのです。

一郎いちろう君くんは、少年しょうねん探偵たんてい団だんにはいっている勇気ゆうきのある少年しょうねんでした。

そのばん、一郎いちろう君くんは、二に階かいのじぶんの部屋へやで勉強べんきょうしていましたが、ふと、窓まどから広ひろい庭にわをのぞきますと、なんだか青あおく光ひかるものが、木この間まを、スウッと飛とんだように見みえました。

「へんだな。だれか懐中かいちゅう電灯でんとうを持もって、庭にわへはいってきたのじゃないかしら。」

一郎いちろう君くんは、勇気ゆうきのある少年しょうねんですから、すぐに部屋へやを出でて、階段かいだんをおり、庭にわにとびだしてみました。

さっき光ひかりの動うごいていた木立こだちの中なかへ、はいっていきましたが、あたりはまっ暗くらで、もうなんの光ひかりも見みえません。

しばらく、暗くらやみの中なかに立たちどまって、耳みみをすましましたが、あやしいもの音おとも聞きこえません。

「おや、あれはなんだろう?」

木立こだちのむこうに池いけがあります。その池いけの水面すいめんが、ボウッと青あおく光ひかっているのです。

一郎いちろう君くんは、池いけのそばへいってみました。

水みずの中なかに、なにか光ひかるものがしずんでいるではありませんか。

岸きしにしゃがんで、水みずの中なかをのぞきますと、さすがの一郎いちろう君くんも、まっ青さおになって、ふるえあがってしまいました。

池いけの底そこに、人間にんげんのすがたをした青あおく光ひかるものが、よこたわっていたのです。そいつが、首くびをねじむけて、一郎いちろう君くんのほうをにらみました。

ああ、その顔かお!

まっ赤かに光ひかる三さんセンチほどもあるまんまるな目め、耳みみまでさけたまっ赤かな口くち、その恐おそろしい顔かおが、水みずの中なかから、じろっと、一郎いちろう君くんをにらみつけたのです。

「アッ、夜光やこう怪人かいじんだッ!」

一郎いちろう君くんは、おもわずそう叫さけんで、うちのほうへかけだしました。そして、おとうさんの書斎しょさいへはいると、

「たいへんです。夜光やこう怪人かいじんが、庭にわの池いけの中なかにいます。」

と、いきせききって知しらせました。

夜光やこう怪人かいじんと聞きくと、おとうさんもびっくりして、それをたしかめるために、ひとりの書生しょせいをつれて庭にわに出でていきました。

そして、懐中かいちゅう電灯でんとうを照てらしながら、池いけのまわりを、ぐるっと回まわってみましたが、青あおく光ひかる人間にんげんのすがたなんて、どこにもありません。

夜光やこう怪人かいじんは、かってに、じぶんのからだの光ひかりを消けすことはできないでしょうから、池いけの中なかにいれば、かならず見みえるはずです。

おとうさんと書生しょせいとは、なお、そのへんの木立こだちの中なかを、よくしらべましたが、べつにあやしいこともありませんでした。

「一郎いちろう、おまえは少年しょうねん探偵たんてい団だんなんかにはいっているので、いつも夜光やこう怪人かいじんのことばかり考かんがえている。それで、まぼろしを見みたんだよ。もう探偵たんていのまねなんか、よすんだね。」

おとうさんは、そういって、一郎いちろう君くんをたしなめました。

しかし、あれがまぼろしだったのでしょうか。一郎いちろう君くんは、どうしても、そうは思おもえないのです。すきとおった池いけの水みずの中なかに、ゆらゆらゆれながら、青あおく光ひかる人間にんげんがよこたわっていました。目めと口くちだけがまっ赤かな、人間にんげんです。

一郎いちろう君くんは、その美うつくしさをわすれることができません。そのばんは、水みずの中なかによこたわっている夜光やこう怪人かいじんの夢ゆめを見みました。おきていても、ふと目めをつぶると、まぶたのうらに、あの青あおい人間にんげんの姿すがたが、スウッと浮うかんでくるのです。

そのあくる日ひは、空そらが黒雲くろぐもにとざされた、うす暗ぐらい日ひでした。

一郎いちろう君くんが学校がっこうから帰かえって、おとうさんの書斎しょさいへはいっていきますと、おとうさんはデスクの前まえに立たって、ゾウッとしたような顔かおで、壁かべのだんろを見みつめていました。その書斎しょさいは、窓まどが小ちいさくて、うす暗ぐらい広ひろい洋室ようしつでした。

一郎いちろう君くんも、おもわずそのだんろに目めをやりました。いまは火ひをもやしていないだんろのおくに、青あおいまるいものが、ぶらさがっていました。

青あおく光ひかるまるいものに、三みつのまっ赤かなところがあります。

なんだか、えたいのしれないものでした。

アッ、夜光やこう怪人かいじんだッ!

一郎いちろう君くんは、やっとそこへ気きがつきました。怪人かいじんの顔かおが、だんろの中なかにさかさまにさがって、口くちが上うえになり、目めが下したになっていたので、えたいのしれないものに見みえたのです。

おとうさんも一郎いちろう君くんも、それが夜光やこう怪人かいじんとわかると、立たちすくんだまま身動みうごきもできません。

目めはくぎづけになったように、じーっとだんろの中なかの怪物かいぶつを見みつめているのです。

すると怪物かいぶつは、スウッと、だんろの煙突えんとつのほうへあがっていって、見みえなくなってしまいました。

おとうさんと一郎いちろう君くんは、やっと、じゅ文ぶんをとかれたみたいに、からだが動うごくようになりましたので、すぐに、だんろのそばへいって、中なかに首くびをつっこむようにして、上うえをのぞいてみました。

だが、ぜんたいにまっ暗くらで、青あおく光ひかるものなど、どこにも見みえないのでした。

「やっぱり、一郎いちろうのいったことは、ほんとうだった。夜光やこう怪人かいじんは、このうちを、ねらいはじめたんだ。」

おとうさんは、そういって、じっと一郎いちろう君くんの顔かおを見みるのでした。

「ねえ、おとうさん、やっぱり明智あけち先生せんせいにたのみましょうよ。ね、いいでしょう。」

一郎いちろう君くんは、少年しょうねん探偵たんてい団だん員いんですから、明智あけち探偵たんていが、いちばんえらいと思おもっているのです。

「うん、すぐに明智あけち先生せんせいに電話でんわをかけて、きていただこう。むろん警察けいさつにも知しらせるけれども、まず明智あけち先生せんせいに相談そうだんしてからだ。」

おとうさんは、そこの卓上たくじょう電話でんわのダイヤルをまわして、明智あけち探偵たんてい事務じむ所しょを呼よびだしました。

「明智あけち先生せんせいはおいでになりますか。」

「おでかけになっています。きょうは、お帰かえりがおそいかもしれません。」

「ああ、そうですか。で、あなたは、どなたです?」

「ぼく、助手じょしゅの小林こばやしです。」

「おお、小林こばやし君くんですか。わたしは上山うえやまというものですが、至急しきゅう、ご相談そうだんしたいことがあるのです。明智あけち先生せんせいがおいでにならなければ、あなた、きてくれませんか。あなたのてがら話はなしは、ずいぶん聞きかされていますよ。あなたなら信用しんようします。ぜひ、きてください。」

「いったい、どんなご用件ようけんなのですか。」

「夜光やこう怪人かいじんです!」

上山うえやまさんは、受話じゅわ器きに口くちをつけるようにして、ささやき声ごえでいいました。

「エッ、夜光やこう怪人かいじんですって?」

小林こばやし少年しょうねんのびっくりした声こえ。

「そうです。あいつが、わたしのうちにあらわれたのです。わたしのもっている美術びじゅつ品ひんを、ねらっているにちがいありません。」

「では、すぐにまいります。住所じゅうしょをおしえてください。」

そこで上山うえやまさんは、住所じゅうしょをくわしくおしえたあとで、つけくわえました。

「チンピラ隊たいのポケット小僧こぞうというのが有名ゆうめいですね。あの子こもいっしょに、つれてきてくださると、ありがたいのですがね。わたしは、あの子こにも、いちどあいたいと思おもっていたのですよ。」

「ああ、ポケット君くんですか。しょうちしました。つれていきますよ。あの子こは、ぼくのかたうでですからね。」

小林こばやし少年しょうねんは、じまんらしく答こたえるのでした。

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