← Library‹ 夜光人間 土くれの滝

ああ、なんということでしょう。四十よんじゅう面相めんそうは、上山うえやまさんの宝物たからものを、これからぬすむようにみせかけて、そのじつは、とっくにぬすんでしまっていたのです。宝物ほうもつをまもるために、小林こばやし少年しょうねんたちをよんだときには、上山うえやまさんは、もうほんとうの上山うえやまさんではなかったのです。

では、上山うえやまさんに化ばけた四十よんじゅう面相めんそうは、なんのために、小林こばやし少年しょうねんやポケット小僧こぞうをよんだのでしょうか。

むろん、それは、ふたりをアッといわせて、あざ笑わらうためだったのです。いや、もっと恐おそろしいことを、たくらんでいるのではないでしょうか。

この地底ちていの洞窟どうくつを、こっそり、つくっておいたのも、四十よんじゅう面相めんそうのしわざかもしれません。そして、いつも、仕事しごとのじゃまをする小林こばやし少年しょうねんとポケット小僧こぞうを、そこにとじこめ、なにかゾッとするような復讐ふくしゅうを、たくらんでいるのかもしれません。

夜光やこう怪人かいじんには、四十よんじゅう面相めんそうが、じぶんで化ばけることも、部下ぶかに化ばけさせることもあります。きょうは、四十よんじゅう面相めんそうは上山うえやまさんに化ばけていなければなりませんので、夜光やこう怪人かいじんの役やくは部下ぶかにうけもたせたのでしょう。

小林こばやし少年しょうねんは、グッと上うえをにらんで、どなりつけました。

「おい、四十よんじゅう面相めんそうくん。きみはヒスイの塔とうをぬすんだのだから、もう、このうちに用事ようじはないはずだ。あとは逃にげだすばかりだ。しかし、ぼくたちがいては、逃にげだすじゃまになるから、こうして、この洞窟どうくつの中なかへ、とじこめておこうというわけだね。」

それをきくと、四十よんじゅう面相めんそうは、さもおかしそうに笑わらいました。

「ハハハ……、そのとおりだよ。きみたちは、ここにとじこめられたのさ。きみたちが、知恵ちえをはたらかせれば、ここをぬけだすことができるかもしれない。まあ、やってみるんだね。だが、むずかしいだろうな。

そのうちに、なんだか、とほうもないことが、おこりそうな気きがするぜ。ウフフフ……。」

それっきり穴あなのふちから、四十よんじゅう面相めんそうの顔かおも、夜光やこう怪人かいじんの顔かおもかくれて、しいんと、しずまりかえってしまいました。たぶん、ふたりは、どこかへ逃にげていったのでしょう。

小林こばやし少年しょうねんとポケット小僧こぞうは、たおれている上山うえやまさんの手足てあしの縄なわをとき、たすけおこして、かいほうしました。

「おお、ありがとう、ありがとう。だが、きみたちは、いったいだれですか。」

上山うえやまさんは、べつに気きをうしなっていたわけではありませんから、さっきからの会話かいわを聞きいていましたが、ふたりの少年しょうねんが、なにものであるかは、まだよくわからないのでした。

そこで小林こばやし君くんは、四十よんじゅう面相めんそうは、にせの上山うえやまさんに化ばけて、明智あけち探偵たんてい事務じむ所しょへ電話でんわをかけたこと、明智あけち先生せんせいがるすだったので、小林こばやし君くんがポケット小僧こぞうをつれてでかけてきたことなどを、話はなしてきかせました。

「フーン、そうですか。それでわかった。あいつは、わしに化ばけて、ヒスイの塔とうを金庫きんこからぬすみだしたんだね。じつに恐おそろしいやつだ。あいつはもう逃にげてしまったのかもしれないが、わしたちは、ここにじっとしているわけにはいかない。どうかして、ここを出でるくふうはないだろうか。」

上山うえやまさんは、高たかい穴あなのふちを見みあげて、小首こくびをかしげるのでした。

すると、いままで、だまっていたポケット小僧こぞうが、とんきょうな声こえでいいました。

「いいことがある。三さん人にんで肩車かたぐるまをやればいい。ね、まず上山うえやまさんの肩かたへ、小林こばやしさんがのるんだよ。それから、おれが、小林こばやしさんの肩かたの上うえまでよじのぼる。そうすれば、穴あなのふちへ手てがとどくよ。手てさえとどけば、おれ、穴あなの上うえへとびあがれるよ。

それから、おれが穴あなの上うえへころがって、小林こばやしさんをひっぱりあげ、そのつぎには、小林こばやしさんと、おれとで、縄なわをつかって、上山うえやまさんをひっぱりあげるんだ。そうすりゃ、みんな、穴あなのそとへ出でられるよ。ね、小林こばやしさん、それがいちばんいいよ。」

うまい考かんがえです。小林こばやし少年しょうねんは、

「よしッ、そうしよう。ね、上山うえやまさん、こいつのいうとおりです。あなたはこの壁かべにくっついて、むこうむきに立たってください。ぼくは、あなたの背中せなかから肩かたへのぼります。」

といって、上山うえやまさんを立たたせ、その背中せなかへのぼりつこうとしました。

そのときです。どこからか、ドドド……という、恐おそろしい音おとが聞きこえ、頭あたまの上うえから、なにかが雨あめのようにふってきたではありませんか。

土つちです。土つちがふってくるのです。

おとし穴あなの一方いっぽうは洞窟どうくつの壁かべにくっついていますので、その壁かべの上うえから、土つちがくずれて落おちると、ちょうど三さん人にんの頭あたまの上うえにふりかかるわけです。

どこがくずれているのか、たしかめようとしましたが、とても上うえを見みることはできません。目めの中なかにこまかい土つちが、とびこんでくるからです。

にぎりこぶしほどの土つちのかたまりから、こまかいのまで、水みずをふくんでドロドロした土つちくれが、ダダダ……、ダダダ……と、まるで滝たきのようにふってくるのです。

三さん人にんはおもわず、穴あなの中なかにうずくまって、おたがいに、だきあうようにして、土つちくれのあたるのをふせぎました。

ダダダ……、ダダダ……、土つちくれは、かぎりもなくふってきます。そして、その恐おそろしい物音ものおとにまじって、どこからともなく、あのぶきみな笑わらい声ごえが、ひびいてくるのです。

「ケ、ケ、ケ、ケ、ケ、……。」

夜光やこう怪人かいじんの声こえです。かれが、まだそのへんにいるとすると、四十よんじゅう面相めんそうも、洞窟どうくつにのこっているにちがいありません。

あらかじめ、土つちが落おちるようなしかけが、つくってあったのでしょう。そのしかけをはずして、土つちの雨あめをふらせ、三さん人にんが土つちにうずまっていくのを、むこうの闇やみのなかから見みて、笑わらっているのでしょう。

小林こばやし少年しょうねんは、そこまで考かんがえて、ハッとしました。

「あいつは、ぼくたちを、生いきうめにするつもりだな。」

穴あなの底そこにつもった土つちは、底そこなし沼ぬまのようにドロドロして、足あしでふむと、ズブズブとしずんでしまいます。いくら土つちがつもっても、それを足場あしばにして、穴あなのそとへ出でられるみこみはありません。ドロドロの土つちは、もうひざの高たかさまであがってきました。

「上山うえやまさん、このままじっとしていたら、ぼくらは土つちにうずまって、死しんでしまいます。さっきの肩車かたぐるまで、やってみましょう。さあ、むこうをむいて、立たってください。……ポケット君くんも、あとからのぼるんだよ。」

小林こばやし少年しょうねんは、そういって、上山うえやまさんの背中せなかへのぼりつこうとしましたが、ダダダ……と、ふってくる滝たきのような土つちに、頭あたまや、顔かおをうたれるうえ、上山うえやまさんの背広せびろもドロドロになっているので、手てをかけると、ツルツルすべって、どうすることもできません。

しかし、命いのちにかかわることですから、なんども、なんども、おなじことをやってみました。あるときは、小林こばやし君くんがうまく上山うえやまさんの肩かたにのぼり、ポケット小僧こぞうも、上山うえやまさんの背中せなかから小林こばやし君くんの背中せなかへとよじのぼり、とうとう肩かたの上うえに立たったのですが、穴あなのふちに手てをかけようとすると、そこも、ドロドロの土つちにおおわれていたので、ツルリとすべり、グラッとよろめくと、三さん人にんともおりかさなって、穴あなの壁かべへぶったおれてしまいました。みんな、顔かおから手てから、全身ぜんしん、ドロだらけです。

いくらやっても、だめなので、三さん人にんはもう、あきらめてしまいました。

いまは、腰こしまでの深ふかさになったドロの中なかに、じっと立たっているばかりです。

土つちの滝たきは、いつまでもやみません。ダダダ……ダダダ……、恐おそろしいいきおいで、三さん人にんの頭あたまの上うえからふりそそいできます。

底そこなし沼ぬまの表面ひょうめんは、もうポケット小僧こぞうの腹はらのへんまでのぼってきました。腹はらから胸むね、胸むねからのど、ドロの沼ぬまは深ふかくなるばかりです。

とうとうドロは、ポケット小僧こぞうの口くちまでのぼってきましたので、上山うえやまさんが小僧こぞうをだきあげてくれました。

こんどは、小林こばやし君くんのばんです。胸むねからのど、のどからあごへと、ドロドロしたものがのぼってきます。

上山うえやまさんは、左手ひだりてでポケット小僧こぞうを、右手みぎてで小林こばやし少年しょうねんをだきあげなければなりませんでした。

しかし、それも、いつまでつづくことでしょう。ドロの表面ひょうめんはもう、上山うえやまさんののどのところまで、すりあがってきたではありませんか。

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