← Library‹ 夜光人間 巨人と怪人

上山うえやまさんに化ばけた四十よんじゅう面相めんそうは、おとし穴あなのそばに立たって、それを見みながら、ゲラゲラ笑わらっていました。いつも仕事しごとのじゃまをする小林こばやし少年しょうねんやポケット小僧こぞうが、苦くるしんでいるのを見みて、よろこんでいるのです。

あとになって、わかったのですが、この洞窟どうくつは、上山うえやまさんのまえに、ここに住すんでいた人ひとが、防空壕ぼうくうごうとしてほらせたものでした。庭にわの古ふる井戸いどを利用りようしたふうがわりな防空ぼうくう壕ごうでした。

しかし、戦争せんそうがすんで年ねんがたったので、防空ぼうくう壕ごうのことなんか、みんながわすれてしまっていました。上山うえやまさんも、そんなところに防空ぼうくう壕ごうがあるなんて、すこしも知しらなかったのです。

この古ふるい防空ぼうくう壕ごうをみつけたのは、怪人かいじん四十よんじゅう面めん相しょうでした。四十よんじゅう面相めんそうは、ここをつかって、みんなをアッといわせてやろうと考かんがえました。そして、防空ぼうくう壕ごうの中なかへ、いろいろなしかけをつくって、いざというときに、つかえるようにしておいたのです。

四十よんじゅう面相めんそうは小林こばやし少年しょうねんたちが苦くるしんでいるのを、たのしそうにながめていましたが、そのとき、あの夜光やこう人間にんげんの首くびが、四十よんじゅう面相めんそうのうしろから、スーッと近ちかづいてきました。れいの黒くろいシャツを着きているので、からだは、すこしも見みえないのです。

「かしら、もう、助たすけてやりましょうよ。でないと、あいつら、死しんでしまいますぜ。」

夜光やこうの首くびが、四十よんじゅう面相めんそうにささやきました。

「うん、そうだ。おれもあいつらをころす気きはないのだ。おれは人ひとごろしはしないのだ。もうずいぶん苦くるしんだから、このくらいでいいだろう。おまえ、助たすけてやりな。」

夜光やこう怪人かいじんに化ばけている四十よんじゅう面相めんそうの部下ぶかは、どこからか一いち本ほんの縄なわをもってきて、それを、おとし穴あなの中なかへたらして、ポケット小僧こぞう、小林こばやし少年しょうねん、上山うえやまさんのじゅんで、そとへ助たすけだしました。みんなからだじゅうどろまみれです。

「アハハハハ……、小林こばやし、ポケット小僧こぞう、すこしはこたえたか。これがおれの復讐ふくしゅうだよ。だが、きみたちは、まだかえさない。きみたちを、ここにとらえておけば、いまに明智あけち探偵たんていがやってくる。おれはそれを待まっているのだ。うらみかさなる明智あけちのやつを、うんと、こらしめてやらなければ、気きがすまないのだ。」

暗くらやみの洞窟どうくつの中なかに、四十よんじゅう面相めんそうの声こえが、いんにこもってひびきました。

すると、そのとき、どこからか、まったくちがった、みょうな声こえが聞きこえてきたではありませんか。

「その明智あけち探偵たんていは、もう、ここへきているかもしれないぜ。」

「エッ、なんだって? もういちどいってみろ。明智あけち探偵たんていがどうしたというのだ。」

四十よんじゅう面相めんそうが、びっくりしたように、聞ききかえしました。

「ここへきているというのさ。」

宙ちゅうにういている夜光やこうの首くびの、火ひのようにもえる口くちが、パクパクと動うごいていました。しゃべっているのは、夜光やこうの首くびなのです。

四十よんじゅう面相めんそうは、それに気きがつくと、ギョッとして、タジタジと、あとずさりをしました。

「なんだ、おまえは、おれの部下ぶかじゃないか。なにをいってるんだッ。」

「きみの部下ぶかは、あそこにいるよ。」

夜光やこうの首くびの下したについてる、黒くろシャツと黒くろい手てぶくろにおおわれた手てが、懐中かいちゅう電灯でんとうをつけて、洞窟どうくつのすみを照てらしました。

「アッ。」そこの地面じめんに、黒くろシャツをきた男おとこが、手足てあしをしばられて、ころがっているではありませんか。

「頭あたまから黒くろい覆面ふくめんをかぶせておいたから、夜光やこうの顔かおは見みえないけれど、あれがきみの部下ぶかだよ。さるぐつわがはめてあるので、声こえをだすこともできないのだ。きみが、おとし穴あなの三さん人にんが苦くるしんでいるのを見みているあいだに、ぼくは、夜光やこう人間にんげんに化ばけて、ここへはいってきたのだ。そして、きみの部下ぶかをしばりあげて、部下ぶかのかわりをつとめたというわけだよ。」

「それじゃあ。きさま、明智あけち小五郎こごろうだな。」

「そのとおり。」

「どうして、ここがわかった?」

「きみが古ふる井戸いどのそとへのこしておいた上山うえやま一郎いちろう君くんと書生しょせいさんが、電話でんわで知しらせてくれたのさ。しかし、それまでのことは、小林こばやし君くんから、たびたび電話でんわがかかっているので、すっかりわかっていた。上山うえやまさんからよばれたとき、ぼくがうちにいないといったのは、うそなんだよ。ぼくは夜光やこう人間にんげんに化ばける用意よういをととのえて、事務じむ所しょで待まっていたのだ。

顔かおに夜光やこう塗料とりょうをぬって、豆まめ電球でんきゅうのついた大おおきな赤あかガラスのめがねをはめ、口くちの中なかにも豆まめ電球でんきゅうをふくめば、たちまち、夜光やこうの首くびができあがるんだからね。わけはないのだ。そして、ふいをついて、きさまをつかまえるために、じっと時ときのくるのを待まっていたのだよ。」

四十よんじゅう面相めんそうの右手みぎてにもっている懐中かいちゅう電灯でんとうがパッとつきました。そして、そのまるい光ひかりが、夜光やこうの首くびを照てらしたのです。

夜光やこう怪人かいじんに化ばけた明智あけちの懐中かいちゅう電灯でんとうも、四十よんじゅう面相めんそうの顔かおを、正面しょうめんから照てらしました。

そして、ふたりは、ものもいわないで、しばらくのあいだ、にらみあっていました。

明智あけち探偵たんていは全身ぜんしんまっ黒くろで、首くびだけが銀色ぎんいろに光ひかる夜光やこう怪人かいじんに化ばけ、四十よんじゅう面相めんそうはシャツとズボン下かだけになった上山うえやまさんに化ばけているのです。巨人きょじんと怪人かいじんは、地底ちていの洞窟どうくつの中なかで、その異様いようなすがたで、ふしぎなにらみあいをつづけるのでした。

二に分間ふんかんほども、身動みうごきもしないで、にらみあっていたあとで、はじめに口くちをきいたのは、四十よんじゅう面相めんそうです。

「で、きみは、おれをつかまえるというのか。」

「もちろんだ。きみはもう、つかまっているのだよ。」

「エッ、つかまっている? だれに?」

「あれをみたまえ。」

明智あけちの懐中かいちゅう電灯でんとうが、サッと動うごいて、洞窟どうくつの入口いりぐちのほうを照てらしました。

そこには、制服せいふくすがたいかめしい警官けいかんが五ご人にん、肩かたをくっつけるようにして、ならんでいたではありませんか。

「アッ!」

四十よんじゅう面相めんそうは、おもわず、おどろきの声こえをたてて、そのまま、洞窟どうくつの奥おくのほうへ逃にげだしました。

「追おっかけるんだ。みんなで追おっかけてください。そして、あいつを、ひっくくってください。」

明智あけち探偵たんていの声こえが、闇やみの中なかにひびきわたりました。

五ご人にんの警官けいかんは、みな懐中かいちゅう電灯でんとうを持もっていました。それが、パッと、いちどについたのです。そして、その光ひかりが、逃にげる四十よんじゅう面相めんそうのあとを追おいました。

「ワハハハハ……。」

四十よんじゅう面相めんそうの笑わらい声ごえが、ものすごく洞窟どうくつにこだましました。かれは、逃にげながら、きちがいのように笑わらっているのです。

なぜそんなに笑わらうのでしょう。四十よんじゅう面相めんそうのことですから、なにか恐おそろしいおくの手てが用意よういしてあるのではないでしょうか。

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