← Library‹ 探偵少年 白いランチ

そこは、荒川あらかわ区くの隅田川すみだがわの上流じょうりゅうでした。

青色あおいろ自動じどう車しゃは、長ながい橋はしのてまえで速度そくどをゆるめ、川かわっぷちを右みぎのほうへまがりましたが、すぐひきかえして、橋はしを渡わたっていきます。

「あっ、じいさんの姿すがたが見みえない。どうしたんだろう?」

今井いまい君くんが、それに気きづいて、さけびました。

青あおい自動じどう車しゃには、運転うんてん手しゅがのっているだけで、うしろの席せきは、からっぽです。

「さっき、橋はしのてまえで速度そくどをゆるめたとき、とびおりたのかもしれない。探さがしてみよう。」

小林こばやし君くんは、今井いまい君くんのにいさんに、車くるまをとめるようにたのみ、三さん人にんは、そこでおりて、川かわっぷちを右みぎへ歩あるいていきましたが、じいさんの姿すがたは、どこにも見みえません。

そこには、大おおきな工場こうじょうのへいが、ズーッとつづいていて、見みるかぎり人通ひとどおりもありません。川かわっぷちには、コンクリート工事こうじのバラックの事務じむ所しょがたっています。

小林こばやし君くんは、なにをおもったのか、そのバラックの戸とをあけて、のぞいて見みました。なかには、たったひとり、三十さんじゅう五ご―六ろく歳さいの労働ろうどう者しゃが、いすにかけて、タバコをスパスパやっているばかりです。

バラック小屋こやには、隅田すみだ川かわのほうにも、川岸かわぎしの道みちのほうにも、ガラス窓まどがついていました。そのなかでタバコをすっている労働ろうどう者しゃは、道みちのほうをむいていましたから、さっきのじいさんが、外そとを通とおれば気きがついたはずです。

「おじさん、いま、ここを、トルコ帽ぼうをかぶった白しろひげのじいさんが、通とおらなかったですか。」

小林こばやし君くんが、たずねると、その男おとこはジロッと、こちらを見みてこたえました。

「うん、じいさんのくせに、かけだしていったぜ。あっちのほうへね。」

「ありがとう。」

小林こばやし君くんは、バラックの戸とをしめて、そこに待まっていた今井いまい君くん兄弟きょうだいといっしょに歩あるきだしましたが、バラックから、すこしはなれると……、小林こばやし君くんは、とつぜん、立たちどまって、今井いまい君くんの耳みみに口くちをつけ、なにかささやきました。すると、今井いまい君くんは、うなずいて見みせて、

「うん、わかった。しっかりやりたまえ。」

といって、そのまま、にいさんといっしょに、川岸かわぎしを、ドンドンむこうのほうへ、走はしっていきました。むろん、白しろひげのじいさんを、探さがすためでしょう。なぜか、小林こばやし君くんだけがあとにのこったのです。

あとにのこった小林こばやし君くんは、川かわっぷちを伝つたって、すばやくバラック小屋こやのうしろに身みをかくし、そこの窓まどから、ソッと、なかをのぞきました。

しばらく、のぞいていましたが、やがてニッコリ笑わらうと、そのまま橋はしのたもとへ走はしっていって、そこにとめてあった、さっきの自動じどう車しゃのなかへ、姿すがたを消けしてしまいました。

三さん分ふんほどすると、自動じどう車しゃのドアがソッと開ひらいて、なかから、みょうな子こどもが出でてきました。やぶれセーターに、やぶれズボン、あたまの毛けは、ボウボウとのびて、一いち年ねんもふろにはいらないような、まっくろな顔かお。こじきみたいな少年しょうねんです。

こじき少年しょうねんは、両手りょうてをズボンのポケットにつっこんで、ブラリ、ブラリと、バラック小屋こやのほうへ歩あるいていきます。

小屋こやのよこまでくると、バラックの壁かべにもたれて、しゃがんでしまいました。そして、ぼんやりと、隅田すみだ川かわをながめています。

しばらくすると、川かわしものほうから、一いっそうの白しろいランチが上のぼってきて、バラックのうしろの岸きしに近ちかづくと、そこへ、よこづけになりました。こじき少年しょうねんは、バラックのかげに身みをかくして、じっと、それを見みていました。

すると、バラック小屋こやのうしろの戸とが開ひらいて、さっきタバコをすっていた男おとこが、黒くろいふろしきづつみを持もって出でてきました。そして、あたりを、キョロキョロ見みまわしてから、よこづけになっているランチのなかへ、はいっていくのです。

バラックのかげで、それを見みていたこじき少年しょうねんは、なにをおもったのか、ポケットから紙かみとエンピツを取とりだしました。

その紙かみに手紙てがみのようなものを書かいて、四よんつにおると、川かわっぷちの大おおきな石いしの上うえにおき、風かぜでとばないように、小石こいしをひろっておもしにしました。それから、地面じめんをはうようにしてランチに近ちかづき、パッとその甲板かんぱんにとびのると、すばやく、ものかげに、姿すがたをかくしました。

みなさん、この少年しょうねんは、いったい、なにものでしょうか。

こちらは白しろいランチの船室せんしつのなかです。いま、のりこんできた労働ろうどう者しゃのような男おとこを、ふたりの船員せんいんが、ていねいに、迎むかえました。

「先生せんせい、うまくいきましたか。」

船員せんいんがたずねますと、男おとこは、ワハハハと笑わらって、持もっていた黒くろいふろしきづつみをほどきました。すると、なかから、しらがのカツラや、つけひげや、トルコ帽ぼうや、茶色ちゃいろのコートが出でてきました。

「さすがに、小林こばやし団長だんちょうはぬけめがない。自動じどう車しゃで見みはっていて、わしを、追跡ついせきしてきたよ。だが、こちらには、おくの手てがある。車くるまのなかで労働ろうどう者しゃに変装へんそうして、このバラックへとびこんだ。小林こばやし君くんが戸とをあけたときには、はっとしたが、わしの変装へんそうが見みやぶれるものじゃない。じいさんは、あっちへ逃にげたと、うそを、おしえてやったよ。ハハハ……。」

労働ろうどう者しゃにばけていたのは、魔法まほう博士はかせだったのです。まず白しろひげのじいさんに変装へんそうして、黄金おうごんのトラを盗ぬすみだし、自動じどう車しゃのなかで手てばやく労働ろうどう者しゃにばけて、バラック小屋こやにかけこみ、タバコをふかして、すましていたのです。

はじめから、ここで船ふねにのるつもりだったので、じぶんのランチを、ここへ、まわすように命めいじておいたのでした。

「先生せんせい、黄金おうごんのトラはだいじょうぶですか。」

部下ぶかの船員せんいんがたずねますと、博士はかせは笑わらって、

「ちゃんと、ここにあるよ。」

といいながら、ポケットから、セトモノに見みせかけたトラを出だして、えのぐをこすりとると、ピカピカ光ひかる金色きんいろが、あらわれてきました。

「さあ、島しまへいそぐんだ。全ぜん速力そくりょくだよ。」

島しまとは、いったい、どこの島しまなのでしょうか。

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