「うん、感心、感心。ノロちゃんは、おくびょうものかと思っていたが、なかなか勇気があるね。小林君、団長のきみは、このもうしこみを、うけるかね。」
「明智先生に相談してから、きめます。」
「いや、それなら、心配しないでいい。明智さんには、ちゃんと、わしから話しておいた。明智さんは知っているのだ。
もし、きみたちがこまったときには、明智さんに、知恵をかりてもいいという約束もしてある。」
「そうですか、それなら、もうしこみをうけます。少年探偵団員は二十三人おりますが、そのうち、うちで、ゆるしてくださるものだけが、試合にさんかすることにします。じゃあ、この黄金のトラを、ノロちゃんとふたりで、持って帰りますよ。」
二少年は、黄金のトラを持って、明智探偵事務所に帰り、明智先生に、そのことを話しますと、
「あれは雲井良太という、お金持ちの変わりものだ。けっして悪い人ではないから、知恵くらべをやってみるがいい。」
と、おゆるしが出ましたので、すぐに電話れんらくで団員たちに知らせますと、その日は、十五人の団員が、集まってきました。
小林少年と、ノロちゃんと、十五人の少年は、明智探偵事務所の応接間に集まって、黄金のトラのかくし場所について相談しました。すると、ひとりの少年が、
「井上君のうちがいいよ。井上君のおとうさんは、もとボクシングの選手だから、安心だし、それにほかのうちでは、おとうさんか、おかあさんが、ゆるしてくれないだろうからね。」
「うん、井上君のおとうさんは、冒険ずきだからね。それがいいよ。」
みんなが、さんせいしましたので、井上君が、うちに帰って、おとうさんに、相談しますと、
「魔法博士と知恵くらべとはおもしろい。よし、おとうさんも、てつだってやるぞ。」
と、だいさんせいでした。そこで、黄金のトラのかくし場所がきまりました。
小林団長と井上一郎少年とが、黄金のトラを持って、井上君のうちへいき、井上君のおとうさんと三人で、ヒソヒソと相談しました。
それから、夜になるのをまって、小林、井上の二少年はクワをかついで、ソッと井上君のうちの庭に出ると、木のしげった庭のすみを、六十センチメートルほどの深さにほって、そこへ、なにかをうずめ、ていねいに土をかけました。
小林君と井上一郎少年は、庭の土のなかへ、黒いものをうずめてから、二階の一郎君の勉強部屋にとじこもって、なにかやっていましたが、しばらくすると、一郎君は、白い絹糸の毛をはやした大きなオモチャの白犬を、だいじそうにかかえて、小林君といっしょに、二階からおりてきました。これは、一郎君がまだ小さかったころのオモチャです。
魔法博士のことだから、きっと、どこかで見はっているだろうと思ったので、黒い箱だけを、庭にうずめて見せて、黄金のトラは、きれでこしらえた白犬のなかへ、ぬいこんでしまったのです。
それからは、毎日、一郎君のおかあさんか、ねえさんなどが、たえまなく、この白犬をだいていることにしました。学校から帰れば、むろん一郎君がだくのです。
すると、それから四日目の日曜日に、一郎君にあてて、みょうな手紙がきました。
あさっての火曜日の午後四時に、例のものを、もらいにいく。かならず手にいれてみせるから、じゅうぶん用心するがいい。
魔法博士
それには、こんな気味のわるいもんくが、書いてあったのです。
一郎君が、その手紙をおとうさんに見せますと、
「よし、わしがまもってやる。むかしのボクシングの弟子を、ふたりよびよせて、魔法博士がきたら、ひっとらえてやる。」
と、ふとい腕をさすって笑いました。一郎君は小林団長にも、電話でしらせました。すると、
「だいじょうぶだよ。ぼくにも考えがあるから。」
というへんじでした。
さて、いよいよ火曜日です。三時になると、一郎君が学校から帰ってきました。おとうさんは、応接間で、オモチャの白犬をだいて、がんばっていました。ボクサーの青年が、ドアの外と、庭に、ひとりずつ立ち番をしています。井上さんは、白犬を一郎君にわたすとき、ぬいめを、すこし開いて、のぞいて見ましたが、黄金のトラはたしかに、はいっていました。
「だいじょうぶ、まだ盗まれてはいない。いまから四時まで、なにごともなければ、一郎、おまえの勝ちだぞ。これほど、厳重に番をしていれば、いくら魔法つかいでも、どうすることもできないだろうよ。」
おとうさんは、そういってにこにこしていました。一郎君は白犬を、グッとだきしめて、ゆだんなくあたりを見まわします。
四時までは、なにもあやしいことはなかったのです。一郎君はオモチャの白犬をだきしめたまま、すこしも手からはなしません。おとうさんは、一度、手洗いに立ちましたが、すぐ帰って、大きな目をむいて、白犬を見つめています。ドアの外と、庭にいる、ふたりのボクサーも、ちゃんと、もちばについています。アリのはい入るすきまもないのです。
応接間のたなの上には、大きな置時計が、チクタクと秒をきざんでいます。四時一分まえです。
「あと一分間ですね。」
「うん、一分たてば、こっちの勝ちだ。もうだいじょうぶだよ。」
そういいながらも、おとうさんも一郎君も、青い顔をしていました。その一分間が、なんだか、おそろしいからです。
そのとき、チリリリリ……と、けたたましく、たくじょう電話のベルがなりました。おとうさんが、受話器を耳にあてますと、気味のわるい、しわがれ声が聞こえてきました。
「井上さんですか。一郎君のおとうさんですね。わしは魔法博士です。もう三十秒で四時ですよ。四時かっきりに、あれをもらいますよ。あと二十秒です。ウフフフ……そら、もう十秒しかない……。」
置時計が、チン、チン、チン、チンと、うつくしい音で四時をほうじました。おとうさんは、それをきくと、ほっとして、電話のむこうの魔法博士に呼びかけました。
「いま四時をうったのが、聞こえましたか。どうやら、一郎のほうが勝ったようですね。あんたは、約束をまもらなかった。黄金のトラは、ちゃんとここにありますよ。」
「ワハハ……、こいつはおもしろい。わしが約束をまもらなかったといわれるのか? ワハハハ……。」
魔法博士の、とほうもない笑い声が、ひびいてきました。
「なにがおかしいのです。黄金のトラは、ここにありますよ。きみは、盗みだせなかったじゃないか。ハハハ……。」
おとうさんも、負けないで笑いました。
「なんだって? わしが盗めなかったというのか。あんた、なにか思いちがいをしてやしないのかね。もう一度、黄金のトラをしらべてごらん。」
そういわれると、なんだか心配です。おとうさんは、一郎少年の手から白犬をとって、ぬいめを開いてみました。そして、ひと目みると、あっと声をたてないではいられませんでした。黄金のトラは、かげもかたちも、なくなっていたのです。